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    karehari

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    karehari

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    付き合ってないフェイディノがお互いの未来を予約しあう話
    真面目な皮かぶってますが勢いでごり押す話です

    未来の恋人彼が好むような上質なショコラというものは大抵の場合むやみやたらに甘くはない。ショコラティエが腕によりをかけた見目、そのあとは香りから風味、くちどけを楽しむものである。品のよい黒の光沢、それをまるで恋人の柔肌に触れるような優しい力の指で摘まんで、フェイスは魅力的に開いた口元に導く。美しい絵画の光景だ。
    ディノは隣でその横顔を眺めていた。自分だったらこうはいかない。ぱっと取ってぱくりだ。少女のような可憐さで箱から拐われる瞬間を待つショコラも、フェイスに食べられるのであれば本望であろう。

    「うん?そんなに見つめてディノも食べたい?」
    「え?ああいや、綺麗だなって思って」
    「ショコラが?」
    「フェイスが」

    外装だけで数千円はしそうなアイリスカラーの箱をディノの前に寄せようとして、フェイスの手が止まった。

    「俺のこと見てたんだ」

    そう言われてしまうとディノも自分の行動と言動を再認識してしまう。美しい相貌というものは晒す場によっては億万の価値となる。無遠慮に視線を送っていいものではない。そうでなくとも人様の顔をまじまじと見る行為は気分を害されやすい。

    「ごめん。あんまりよくないよな」
    「アハ、いいよ。俺は俺の顔の使い方知ってるから」

    二人で掛けているソファーが軋んだ音を立てる。手のひら一つ分ほどは空いていた距離がゼロになって、肩が少し当たる。近い。今度はフェイスがディノを覗き込むようにして見つめた。澄む空色の瞳に自分が映り込むのに、唯一の存在になったみたいな、どこか誇らしい気持ちになる。

    「もっと眺めててもいいよ。ディノなら嫌な気しないから」
    「……どうぞって差し出されると、逆に困っちゃうかも……」
    「なんなら触る?」

    どこを?問い返す前に、ディノはフェイスに手を奪われて驚いた。そのまま頬へ誘われてなおさら困惑してしまう。触らせる、というよりはフェイスが頬を擦り寄せるような図だった。すり、と柔らかな肌がディノの手のひらにくっついて、まるでやっと懐いた猫のよう。伏せた目に長い睫毛、ゆるく上がった口角。ディノも目を細めて、せっかくなのでとフェイスに拘束されていない親指の腹で、上頬を撫でた。

    「ふふ。ほっぺた柔らかいな」
    「スキンケアしてるしね。他は?」
    「睫毛が長くて美形だなあって」
    「睫毛はブラッドも長い」

    少しだけむすっとしたようなフェイスのへの字口に、ディノは思わず笑ってしまう。家族とも他のヒーローとも、誰とも違う自分だけの美点を教えてほしがるフェイスがどうしても可愛かった。そこを伝えてやってもいいのだが、きっとフェイスは可愛いよりはかっこいいところを見つけて褒めてほしいのだとディノは思うのだ。

    「……あ」
    「ん?どうしたのディノ」
    「俺フェイスの唇かっこいいと思う」

    少し前だが、フェイスは単独でメンズコスメのモデルに起用されたことがあった。ファンデーション、アイブロウ、リップ。男性だって綺麗であっていい、そういう題材で撮られ貼り出されたポスターはフェイスのおっかないファン達に一晩のうちに剥ぎ取られ、以降ウェブ掲示限定となってしまったのだが。その珍事件にキースとジュニアは大笑いしていたが、ディノはフェイスが見本にと一枚もらってきたポスターに釘付けになった。神が手ずから整えたような美しい顔が、カメラマンの手によりさらに魅力的に写し出されている。その、口元。女性用のものよりは色味を抑えて作られたリップは三色展開と書いてあった。フェイスが使ったのはピンクレッドだそうだ。似合っている。とても。自らの手の甲に口づけて、リップで彩られたキスマークを見せつけるように得意気に微笑む表情に、どのような名を付けるべきか分からない気持ちを一瞬、ディノは抱いた。一瞬だったから己の心うちにとりあえずしまっておいたけれど。

    「化粧品のポスターもすっごくよかった!フェイスはピンクが似合うよな。かっこいいのにセクシーってかんじで、見ててどきどきしちゃった」
    「……キスしてみたいって思ってくれた?」
    「…………え?」
    「キス、してみたいって」

    こんなふうに。そう置いてからフェイスは、頬に寄せたままのディノの手の内側に唇の先を当てた。何が触れているか分からないくらいの軽い感触でも、なまじ見えているぶん視覚が補ってしまう。

    「え、えっ?」
    「こっちも必要?」

    今度は裏返され、指先四本をそっと取られる。まだ脳の追いついていないディノを無視して、フェイスは甲にも口づけを落とした。あのポスターのようだ。リップでもつけていれば、ディノにキスマークの一つくらい残せたのに。フェイスは少し惜しがったけれど、ようやく事態を飲み込めたディノがわ~!と赤くなるのを見て、まあいっか追々で、と思った。

    「ふぇ、フェイス……困る……」
    「困るんだ。傷つくなあ」
    「……君はメンティーだから」

    戯れの皮を被った本気の愛情表現だと見抜かれていたのか、とフェイスはいっそ感心した。色恋に遠く見えても、苦しいくらい彼は年上の人なのだと思い知る。
    彼とディノは同性で、立場にも年にも差がある。好意を伝えて拒まれる想定も、覚悟も何度だってしてきた。そうやってフェイスがどう断られるかと予想し尽くしたなかで、この返答は一番、つらいものだった。こればかりはフェイスの努力でどうにかなるものではないのだから。

    「次の誕生日で俺が成人してもダメ?」
    「メンティーなのは変わらないよ」

    二人の関係性の間に横たわり続けるであろう事実は、事実がゆえにフェイスを傷つけた。教えを乞う者と乞われる者。そこに別の感情が混じってしまえば、確かに純粋な上下関係の妨げになるだろうか。ディノは融通の利く柔軟性の高い男とはいえ、そういう線引きはしっかり行うたちだった。若者を曇りなき目で見守り支えるために。

    「……いっそ恋愛感情ないからって言われた方がよかったな」

    まだゆるく取ったままのディノの手に額を寄せるフェイスはつらそうで、目を伏せた表情はまるで祈りすがるようだった。ディノだって困るだなどと否定的な、ただ今の己の心情のみを伝えるだけでそれ以上に発展しないような物言いをしたくはなかったのだ。けれども。

    「……ごめん、嘘はつきたくないから」

    ディノの言葉を受け止め、フェイスは長い睫毛に縁取られた目を薄く開き、俯く顔を上げる。謝らないでと紡ごうとしたフェイスの口が違和感に止まり、まぬけな半開きで「は?」と一音ぽろっと落とした。こんな表情ですら不細工のぶの字もないのだから百周回って面白さすらある。

    「え?れ、恋愛感情ないって言っちゃえば嘘なの……?えっなにどういうこと?恋愛感情あるの!?あっちょっと目逸らさないでよ」
    「ああぁ詰んだ……!」
    「詰んでない!むしろここから!」

    目を明後日の方角に泳がせながら器用に手をほどこうとするディノと、そうはさせるかとがっしり手首まで掴むフェイスの攻防はまったくもってくだらなく、そのくせ数分続いた。観念したディノがソファーに横向きで正座するまで。 フェイスも応じるように向かい合い、同じ姿勢をとる。

    「いや……だって嘘つきたくなかったんだよ……そしたらああいう返事にならざるをえなくて……」
    「……困るって言ったからてっきり」
    「それも本心だよ。今受け入れることは出来ないから」
    「揺るがないんだね」
    「公私を完全に分けられる自信がないんだ。何かあったときに、君を第一に考えてしまうことも、逆に君なら許してくれるって甘えて、後回しに考えてしまうこともしたくない」

    メンターである以上、ディノは受け持ったルーキーを均等に扱わなければならない。そしてエリオス内で幅広く活躍する年長者であるからには、セクターの垣根を越えた業務にあたってもそれは同じだった。この現状でフェイスと恋仲になれば少なからず支障が出る。そうディノは考えるのだ。

    「……ディノなら上手くやれそうだけど。でも、それは俺が勝手に判断していいことじゃないよね」

    フェイスがいくら大丈夫だろう、上手に立ち回れるだろうと言ったところで、折り合いをつけるのはディノ自身だ。そこを無理に押したとて、きっと満足な結果にはならない。ディノがもう一度ごめんと謝るのを、フェイスは今度はちゃんと声にして謝らないでと返した。そうしてふと、口元に手をあてて何か思案する素振りを見せる。

    「フェイス?」
    「ねぇ。結局俺は諦めなくていいってことだよね?立派に育って、ディノの下から一人立ちしたら、チャンスあるって解釈でいい?」
    「……でも、フェイスは引く手数多だし、勿体ないよ……」
    「引く手の数はどうだっていいんだよ。大切なのは俺が誰に手を伸ばすか。その人が手を握り返してくれるかどうか」

    じっと自分を見つめる瞳が蠱惑的で、しかし妖しく見えてその実、真っ直ぐだ。ディノしか映さない美しい紅紫色にどうして嘘がつけよう。フェイスがゆっくりと、ダンスにでも誘うかのように手を差し出した。薄い色の、皺一つ、節一つさえ綺麗なそれに視線を注いで、ディノは自らの手をそっと重ねる。

    「予約。ディノ、ちゃんと待っててね。他に目移りしないで」
    「ふふ、大丈夫。フェイスこそ三十過ぎの俺に幻滅しないでくれよな」

    年齢で興味をなくすのなら、はなから九つも上の同性相手に心を開け放したりはしない。子供の飽き性みたいな言われように、フェイスはまたむっとした。この野郎人の本気を舐めやがって。重ねあった手を強めに握って、フェイスがディノを引き寄せる。常ならばこのメンターがルーキーの腕力に劣ることはないのだが、油断しきっているタイミングでは話は別だ。わっ、と思わず跳ね出たような声とともにディノの身体を受け止めたフェイスは、抱きしめて近くなった顔、その頬にキスをした。

    「ひぇっ……」
    「アハ、なにその色気のない声」
    「フェイスが色気ありすぎるんだよ……!」
    「これからはあんただけに使われるんだから腹括ってね」
    「……まだ、その」
    「わかってる。このチーム研修が終わるまでは手出さないよ」

    やましい理由を抱えて研修が早く終わればいいのにと思う自分と、今じゃ毎日が楽しいなんて感じてしまうくらい居心地のよいこのチームが終わらないでほしいと願う自分の大喧嘩だ。たった数年ぽっちで終わる日が必ず来る。散り散りになる前に、フェイスはディノを拐うのだ。

    「でも忘れないで。我慢ってしすぎると解放されたときに相当だから」
    「相当?」
    「うんそう」

    腕の中からディノを放し、フェイスはソファーをあとにする。話の途中なのに部屋を出る動線を辿るフェイスを慌てて追いかけるディノ。よく分かっていないであろう彼へ振り向き、微笑むフェイスの表情のなんと魔性なことか。

    「覚悟してなよ。研修終わったらホテル連れ込んで足腰立たなくしてやる」

    とんでもない死刑宣告を食らって悲鳴を上げるディノを後ろに、無情なドアは閉まる。
    廊下でしばらく腹を抱え、声なく笑ったフェイスは、少し間を置き、いろいろと噛みしめて、こみ上げる喜びのまま、やった……と拳を握った。同期で一、二を争うほど顔のいいルーキーと謳われる彼のそんな奇怪な挙動を知る者は、惜しいことに誰もいなかった。
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