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    karehari

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    karehari

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    ディノハッピーバースデー!
    ●例年通りどんどん不健全な会話になる
    ●例年通りルーキーに申し訳ない
    ●例年通り付き合ってる二人
    なんだ例年通りか…ってかんじで読んでください

    祝福はシークレットベースにて 誰も彼もが屈託ない笑顔で浮かれている。
     いつにもまして明るい部屋、過ぎるほど賑やかな空間の中心に、とうに顔の筋肉の緩みきった男がいた。本日の主役である彼はふにゃふにゃと、アッシュ曰く「腑抜けたツラ」をしていて、幸せを絵に描けばきっとこのような、などと思いながらキースは新たな缶ビールの蓋を開ける。
     今日は飲んでもいい日なのだ。日頃やかましく叱ってくる小さいメンティーも大きい同期もなんにも言わない。自分の誕生日と同等かそれ以上に、三月二十二日を喜んでいる。他者もご機嫌にさせる、ディノ・アルバーニという男はそういう人間だ。
    「MVP貰ってもいいくらいの働きだよなあ、オレ」
     そんな賞、まあ別に欲してはいない。あれだけ喜んでくれたのだ、報われてなおお釣りまで来る。賑わいから二人分ほど離れたところからピンク色の髪を眺めて、キースは一人満足げに口角を上げた。


    「キース、ほんとに、本当にありがとう!」
     例年通りパーティーの参加者を帰したあとはルーキーが片付けを任されてくれる。二人の時間をごゆっくり、とキースに耳打ちしたフェイスの楽しそうな表情ときたら。それでも結局甘えて、二人だけの部屋に引っ込んだ。
     ディノは何度言っても礼を言い足りないらしい。もう五、六回は聞いた心からの感謝が照れくさくて、キースははいはいとあしらった。
    「おじいちゃんもおばあちゃんも元気そうだった……いつでも会えるわけじゃないから、本当に嬉しかった……」
    「……じゃ、呼んでよかったわ」
     ディノが家族を思い浮かべては慈しむその表情に、キースの心はあたたかくなるのだが、胸が少し切なくもなる。どんなに元気にしていてもお年寄りだ。いつかはディノを遺して旅立ってしまう。
     ならば会えるときに会わせてやった方がいい。誕生日にそういう機会を作ってやれた、自分の判断は間違っていなかったのだ。キースはようやくディノからの感謝を素直に受けとめた。
    「ふふ、このパジャマもすっごく嬉しい!分かる?これちゃんとマルゲリータの柄になってるんだぞ」
    「え~?……うわマジだ。バジルの葉のとこなんか妙にリアルだな……」
    「クワトロフォルマッジ柄も今度出るんだって!」
    「い、いらね~。しかし随分凝ったつくりだな……さては企画側にピザ好きがいんな」
    「はっ。そうかも……話したい……ピザトーク」
     ウェブサイトからメールしてみようかな、なんて本気で考え始めるディノが着ているのは、彼が熱く欲していた着ぐるみパジャマ。マルゲリータ柄で、今は外しているがフードを被ればピザが完成する。あくまで寝巻き用なので、ショーやパーティー向けの幅を取る大きな着ぐるみではなく、それなりに身体にフィットするタイプだ。
     一度水通しした方がよいのではと提案したものの、喜びのあまりパジャマとダンスを踊りだしたディノには届かず、部屋に戻るなり着替えていた。ベッドにぽいぽいと制服を放っていきなり始まるストリップショーにキースが変な声で驚いたのはここだけの秘密だ。
    「な、触ってみてよキース。すっごくふわふわなんたぞ」
     エリオスチャンネルでも語っていたが、よほど良い着心地らしい。うきうきとしたディノの眼差し。そこまでの代物ならば流石のキースも興味は湧く。
     生地に見立てたやけにリアルな焦がし色の袖を伸ばして、どうぞと両腕を持ち上げる。どこかで見たB級チャイナ映画の妖怪のようなポーズ。それでもディノがやるから、可愛い。
    「じゃ、遠慮なく」
     だから伸ばされた両腕の間に割り込んで、ディノを抱きしめたって、許される気がした。袖あたりを触ってもらうつもりだったのだろう、突然失せた距離に驚くディノの背に腕を回し、苦しくさせない程度にぎゅうと抱く。とんちきな柄のパジャマがムードを台無しにするけれど、大した問題はない。抱いていれば見えないのだ。手のひらに柔らかい感触を認める。確かにふわふわだった。
     戸惑いは数秒で、キースの大柄な体躯をディノもまた抱きしめ返した。ころころと乳児用の玩具でも転がるかのような声で笑う。気持ちの高揚とアルコールの相乗効果で少しは酔っているのだろうか、体温がぬくくて気持ちがよかった。
    「ふふ、キース。どう?ふわふわ?」
    「ふわふわ。ジュニアに行かせてよかったわ。オレじゃ五度見されるとこだ」
    「そんなことないと思うけどなあ。キースも絶対似合うぞ」
    「や~だよ変なペアルック」
     嫌だの変だの言いながらも、手触りを確かめるようにディノの背をすりすりと撫でるキースの手。寝かしつけみたいな穏やかな撫で方に微睡みそうになるディノを肩越しに笑う。
    「なに。おねむか?」
    「ん~……はしゃぎすぎたかも」
    「ふは、子供みてえだな」
     キースの肩に額を当ててむずがるディノはただただ甘えただった。きっと本当はそこまでの眠さではないはずだ。声の響きだけで嘘か誠かくらい分かる。それくらい二人の付き合いは長かった。けれど今日はディノが誰より幸せであるべき日だから、キースは敢えて騙されてやるのだ。
     淡い緑を纏ったディノが少しだけ宙に浮く。自分とさして背丈の変わらない成人男性を横抱きにするには、流石に手持ちの筋量だけでは足りなかった。能力を使わずに運んでやれたらそりゃあ格好良い。だが見栄を張って無理をして落っことしたり腰をやったりする方が余程情けない。
    「はいよ。ベッドまでワンメーターな」
    「お、キースタクシーだ」
     ディノのスペースで行われていたファッションショーだから、ベッドに辿り着くのに費やすのはたかだか数歩だ。十にも足りない。キースの首後ろに腕を回したディノは、それでも束の間の乗り心地を楽しんだ。
     ベッドに下ろされたディノはもう身体を起こさない。このまま眠るのかもしれないとキースが布団をかけてやると、袖を摘まむ控えめな指先。
    「……まだ、誕生日だから、その」
    「ん~?他になにかご所望ですかお客さん」
    「ワンメーターじゃ寂しいので……朝まで一緒にいてほしいです。ドライバーさん」
     ぐっ、となった喉の音は聞こえていないだろうか。
     一瞬で色々駆け巡った、健全と不健全の夜の妄想。酷い甘え方をする男だとキースは声なく唸った。日付を越さない時計、ベッドに横たわり恥じらいの温度で見上げてくるスカイブルー、シーツの皺。どれもこれも足を踏み外せと言わんばかりにキースの理性をじりじり煽る。
     共有スペースにはルーキー達がいる。ゆっくり過ごすよう艶っぽい笑みのフェイスに言われはした。だからといってそれを免罪符には出来ない。セックスは駄目だろう流石に。
    「ディノ……その」
    「わ、分かってる。分かってるんだけど……うう、こうなるつもりじゃなかったのに。キースがいけないんだぞ……あんな風に抱きつくから……」
    「あ~……健全なハグとして茶を濁せるかと思ったんだけど、駄目だったか……」
    「匂い嗅ぐとだめ……キースの匂い、好きだから。夜はとくに……前のえっち、思い出しちゃって、むらむらする……」
     フェイス、悪い。免罪符にするわ。
    「…………………………本番なしならいいか」
     なにか悟ったような、落としどころをうっかり見つけてしまったような表情で、ディノを見下ろす。それからキースは膝からベッドに上がり、ディノの隣に潜り込んで頭から布団を被った。照明と音を遮断する直前、くしゃみが共有スペースから聞こえてきて、色男にしては珍しく大きなそれに、キースはすまねえと心の中で謝罪した。
     まだ上がりきらない春の夜の気温。けれど二人だけの狭く薄暗い隠れ家の中は蒸せるほどの熱気が満ちていた。
    「……オレが誘った、ってことでいいから」
     こくりと頷くディノの瞳が期待でふるりと揺れるのが、薄闇に在っても鮮明に見えた。
     さっきまで誕生日を祝われ、皆に囲まれ明るい部屋で無邪気に笑っていた親友は、今はこんな暗い場所で恋人と秘め事を始めようとしている。奇妙な優越感が湧いた。
     背をするりと撫でる。パジャマの触れ心地を確かめるための先刻とは違う性的な手つきに、ディノがびくりと小さく跳ねた。そのままゆっくり、這うように下っていけば。
    「っ……キー、ス……」
    「……ディノ」
     吐息混じりに名を呼ぶ甘えた声が、下半身に熱を集める。


     一人分のベッドに大の男が二人、身も声も潜めて、触れあう。
     彼らの理性が保たれ、それだけの睦みで終えられたのか、結局度が過ぎてふしだらな夜になったのかは、朝の光が射し込むまでは明らかにならない。
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