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    kochi

    主にフェリリシ

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    kochi

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    お祭りに参加することになった彼らは、それぞれ準備に明け暮れた。新作のお菓子屋やおやつの研究、狩猟の間を取り戻したり弓の手入れをしたり、運搬や当日の調整やら何やら色々頑張った。
    村の人の激励も受けて、無事に当日を迎えようとしていた。

    「狩猟大会は開催早々にやるんですね」
    「人が少ないうちにやりたいらしい。採った獲物が多いと、血抜きや捌いたりと忙しいからな」
    「あー……そ、そうですね」

    スプラッタな惨劇を思い浮かべて、リシテアはぶるりと背筋を凍らせる。慣れてないものには、なかなかキツイ……。
    グロスタール領へと向かう荷馬車に揺られながら収穫祭のことを話し合っていた。大変であるが、大きいお祭りは楽しみにしているよう。
    それは二人だけでなく、多くの者達も同様であった。


    「無事に済めば良いのだが……」

    領主は不安と胃の痛みが大きくなっていた。大きな催しだからの責任感故であるが、そのための準備を怠ったつもりはない。
    だが、妙な胸騒ぎは日に日に膨らんでいた。レオニーへの不安はあるが、村落の平民だったのでどのような対策を取れば良いか、どうしたら喜ぶかは彼女の方が理解しており、有益な情報交換を繰り返していった。
    抜かりはない、そのはずだ。と思いながら入念に開催記録や書類に目を通していこうとした。

    「いつまでやってるんだよー! なるようにしかならないんだから、もう寝ておけよ」
    「レオニーさん……だが、しかし」
    「当日にならないとわかんないことばかりなんだから! その時考えればいいんだよ!」

    バーンと執務室のドアを開けて諌める妻によって、ずるずる引きづられるように追い出されてしまう。
    よって、彼は目にすることができなかった。……一枚の書類、大会出場者名簿を。


    収穫祭当日。会場時間まで準備と確認をしていきつつ、平民達は今か今かと祭りの開催を待ちきれない様子でいた。
    空へと打ち上げられた魔法の光で、皆に開場を知らせると歓声と共に拍手が湧き上がっていった。
    開始早々の収穫祭は、祭り特有の賑やかさに包まれていた。

    「すぐに狩猟大会ですよね。いってらっしゃい」
    「ああ」
    「大丈夫だと思いますけど、気を付けてくださいー!」

    素気ない受け応えをして、手を振って送るリシテアに振り返してからフェリクスは狩猟大会の集合場所へと向かった。
    朝一番のお菓子屋の出店は人が少なく、リシテア一人でも店は回せる。けれど、いなくなったら寂しくなってしまう。

    「張り切り過ぎないといいのですが……二人共」

    なんだかんだで、やる気十分なので白熱し過ぎて山を丸裸にしないか心配だった……。

    「お姉ちゃーん! お菓子ちょーだい!」

    客に声をかけられて、店の主人のリシテアとなっていった。
    懐かしい旧友に会ったり、新作のお菓子屋やおやつを配りながら祭りを楽しんでいった。まだ人の入りは少ないだろうが、多くの人に食べてもらう機会を喜び、至福のひと時を提供していった。

    ★★★

    狩猟大会は制限時間内に多くの獲物を狩り、数を競うものという単純なルールだった。他者への略奪や妨害は禁止、見咎めれれば即失格。
    所々にローレンツが配置した私兵がいるので監視と獲った獲物のカウントや血抜き作業を行なってくれる。

    「こんなに兵を配置しなくても良いと思うんだけどなー……」
    「不正行為の防止だろ。いない方が、厄介な事になりかねん」
    「大人しい動物ばかりだが、領民の安全も考慮せねばならない。万が一の時に備えておかなければ、グロスタール家の名折れに繋がる」
    「なるほどな。これも貴族の役目ってことですか」

    狩場の山へ移動している最中のレオニーの懸想は、近くにいたフェリクスとエルヴィン前伯爵によって納得を得た。
    ……ん? と思ったのなら、それは正しい。

    「それよりも……お前の参加は聞いていたが、何故グロスタールの前伯爵もいる?」

    半ば呆れながらフェリクスは、レオニーに問いかけた。近くにいた参加者も彼と同様の疑問を抱いていたので、知らず耳が大きくなる。

    「えっ? なんでって、参加したいからに決まってるだろ。エルヴィン様、けっこううまいんだよ!」
    「いや、そうじゃない……。前伯爵が出て良いのか?」
    「何言ってんだよ、エルヴィン様が出ても良いだろ。貴族とか関係なく、自由参加なんだから!」

    聞いた相手が悪かったな、とフェリクスは反省した。現伯爵夫人のレオニーが参加するのだが、現役を退いた元領主が参加しても問題はない…………そうか? けっこう自由すぎないか?
    もしや、自分の価値観がおかしいのかと思った時に落ち着いた声をかけられる。

    「なに、今は暇を持て余してる隠居貴族だ。息子が領主として日々精進しているのなら、私が何か手を出すのは野暮というものだ。なら、私は私なりに尽くすべきだろう」
    「そうそう、せっかくのお祭りなんだから楽しんだ方が良いし、多い方が盛り上がるんだからな!」
    「このような形の体験でないと見えないものがある。それに、現役を退いた方が、かえって気楽に振る舞えるものだ! 久方ぶりに狩猟に精を出したくなってしまう」
    「エルヴィン様は、釣りの方が得意なんだよ」

    ツッコミが追い付かなくて、フェリクスは放棄した。金鹿学級のノリの慣れだ。
    それに、リシテアから『たまにうちに来て、父様とお茶してますよ。円卓会議が無くなって、ローレンツに爵位譲ったから肩の荷が降りたんでしょうね』と、聞いていたので納得はできた。
    疎遠になっているフェリクスの父も同じ立場なら参加してそうだな……と、思ってしまったのは大きい。

    「一応聞いておきたいのですが、現伯爵はご存知なのですか?」
    「無論だ。登録名簿に不正などしては家紋に泥を塗る。誓って、清廉潔白の身だ」
    「なら良いですが……よく言われませんでしたね」
    「ふふ、なに年の功さ」

    登録締め切り10分前のローレンツが疲れている時を見計らって提出した事は黙っていた。案の定、うまくいった!

    「よーし、狩猟大会の開始だー! みんな行くぞー!」

    レオニーの掛け声が、大会開始の合図となった。
    大勢の人々が大地を踏み鳴らして、収穫祭の最前線に降り立っていた。


    大会は順調といって良いくらい進んだ。チームを組む者もいれば、単独で挑む者もいて、各々好きな方法で狩っていく。
    その中でも予想通り、レオニーは持ち前の経験と勘で素早く的確に仕留めていた。運営の都合上、騎馬での参加はできないが腕は鈍っていない。

    「ほいっと! じゃあ、これもよろしくな」

    軽々と仕留めた兎を近くにいる運営者及び私兵に渡して、確保と処理をしてもらっていく。

    そして、彼女からやや離れた所でフェリクスも順風に仕留めていた。鳥や兎など狩りやすいものを中心にしているが、レオニーより力や体格が大きいので大物狙いで進めている。
    久々に狩りに勤しみ、好物の肉を大量に食べれそうなのでやる気は満ちていた。……野菜も食べてほしいところだが。

    「おおっ! フェリクス君じゃないか!」
    「なんだ、お前も参加してたのか」

    と、肉友のラファエルと合流して、なんとなく流れで一緒に行動していた。
    勝手に肉友にされてるが、屈託なく笑いかけてくる彼のことは好ましく思っていた。肉好き同士でラファエルはお菓子も食べるし、妹が喜ぶからと時々お菓子を買いに来てくれていた。
    滅多に会うことがない分、世間話や他愛のない話をしながら狩りを続けていく。狩猟大会終盤、撤収の準備もしている物達が増えていく中で事態は急変した。
    ──異常を報せる狼煙と私兵団の号令が響く。

    「異常事態発生! 皆さん、直ちに山を下りて、その場から離れてください!」

    同じ事を繰り返しながら、運営者は周囲の者に報せていた。異常事態……それは。

    「熊が出た、だと?!」

    報告を聞いたレオニーの行動は早かった。温存していた矢や体力を使う覚悟を決めて、出没場所を強引聞き出して向かっていった。
    狩猟者として、領地を守る者として……そして、何より誰も傷付かないために熊と対峙する事を臨んだのだった。


    熊慣れしているほど頻繁に戦った事はないが、どのような生態かはレオニーはよく知っていた。
    すぐ様参加者の避難誘導や点呼確認などの私兵達に指示を出していき、熊の出現場所へと向かおうとする。

    「一人で行くのは賢明とは言えないな」

    その際に、エルヴィン前伯爵に忠告される。
    無論、そんな事はレオニーもわかっている。

    「この中で一番早く動けて、慣れているのはわたしです。熊相手に一人で戦わないですよ」
    「なら、向かう必要もないだろう。下手に刺激すれば、厄介な事になる」
    「それでも様子は見に行っておきたいんです。単に、お腹を空かせて下りてきただけかもしれないですし、人の気配を感じたら避けてくれるかもしれません」
    「うむ……やはり、私が口出すまでもないようだ。ならば、避難誘導や領民の安全確保は私がやろう」

    エルヴィン前伯爵に咎められると思っていたレオニーは、予想外の申し出に驚く。

    「えっ?!エルヴィン様がいいんですか!」
    「こんな時こそ、年の功と経験が物を言う。安心したまえ、既に息子には知らせているから領民に悟られないよう対処できる手筈を整えるはずだ」
    「的確ですね! おかげで安心しました」
    「貴族の務めを全うしたのみだ。とはいえ、貴方を一人で行かせたと知られれば、息子に叱られるだろうがな」
    「心配し過ぎなんだよ……。安心してください。無事に戻りますので、よろしくお願いします」

    真剣味を帯びた瞳で言うが否や、レオニーは借りた馬を走らせて、山の奥へと駆けて行った。獲物を狩る狩猟者ではなく、皆んなの安全と平穏を守るためのように見えた。
    行動力溢れる彼女の姿に、己とは違うやり方を見せ付けられる。そして、それが心強く、心地良く感じられた。

    「……ふむ、こう耽っていては叱責が増えてしまうか。やれやれ、歳を取ると情に入りやすくなってしまう」

    誰に聞かせるでもなく呟くと、自身の為すべきを考えて行動に移していった。
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