六歳、祖母の家にて。
「本当は女の子が欲しかったのよね。男の子ってどうしても乱暴になっちゃうでしょ。ボール遊びとかしてるとああ男の子なんだなぁと思って。ピアノでも習わせればいいのかしらねえ」
周は外遊びを辞めて読書に勤しむようになった。周ちゃん、という母からの呼び方が恥ずかしくなくなった。
十二歳、三者面談にて。
「先生、この子ったら家でも読書ばかりなんですよ。男の子らしく外で遊んで来なさいって言っても駄目でねえ……学校でもお友達いないのかしら? こんなに内気でお受験は大丈夫なのかって主人も心配しているの」
周は明るい人格を作り上げるようになった。それでも周囲に溶け込むのはストレスだった。
十六歳、初めての事件後。
「周ちゃん、学校でみなさんの役に立ったんですって? 偉いわ、よくやったわね。お母さん嬉しい。これからも人のために生きていくのよ」
周は嬉しくて涙が出た。同時に怖かった。その恐怖心がどこから来るのか分からず困惑した。
父と母が離婚した。
二十一歳、一年ぶりの実家。
「探偵なんて恥ずかしい仕事ご近所さんに言えないわよ。でも、テレビに出れるのはすごいわよね。そのままタレントになったらいいんじゃない?」
周の声が出なくなった。仕事にならず、三ヶ月の間依頼を止めた。事務所を構えて一年が経とうとしていた。
「ごめ……ご迷惑を……おかけしました」
「えー……まだ休めばー?」
「いや、本当によくなったから……そろそろ」
「僕は出勤しててお給料もらってるし、別にいいよ? お金もまだあるし……所長って何に急かされてるの?」
「…………」
「まあいーけど、辛気臭い顔見てるとお肌に悪いんだよね」
「うん……吉田さん、ありがとう」
「……ねえ、事務増やす? 僕、ちょっと忙しいかもな。それか、助手とか」
「……俺ってそんなに頼りない?」
「うん」
「そっか」
「僕だけじゃ重いよ」
「ごめん」
「別に所長が探偵辞めようといいけどさ。いいけど、僕のせいにしてほしくないし。もう一人くらい増やしてもいいでしょ?」
「……俺、多分誰かにそばにいて欲しいんだと思う。今新しく出会ったら依存してしまう気がする……だから、良くないんじゃないかな」
「めんどくさ。助手とか探偵のそばにいるのが仕事だし。所長、ほぼ一人でできるでしょ」
「でも……精神的な問題で」
「条件は? 年上年下? 性別は?」
「……男……年上の」
「学生可?」
「うん」
「あとは?」
「えー……お、俺のファンじゃない人……」