真夜中、2人きりの空間で「全く。ここの王は、勇者様に対して酷い扱いをするもんだ。端から期待してねぇよ、みたいな口調で言いやがって。黒胡椒取り返してきてやったのによ、なぁ、アレル?」
「前来た時と同じだからな、もう慣れたよ。なんで僕より君の方が不満そうなんだ、クレイ」
アレル、と呼ばれた少年は呆れた声で言いながら、青年、クレイを見た。
夜も更けた宿屋。彼らはベッドを近づけ、抑えた声で話を続ける。
「俺にだって人の心はあるもんでな。薄汚い盗賊を拾ってくれた恩人に失礼なこと言うんだぜ? そりゃ怒るだろ」
自嘲気味に薄く笑い、呟くクレイを、アレルは静かに見た。
「そんなこと言うなよ。君は薄汚くなんかないだろ? 僕の、大事な仲間だ」
その声の裏に、怒りが滲んでいるのをクレイは敏感に感じ取った。自分が貶されるのは構わないくせに、仲間が貶されているのを見ると、たとえ自嘲であったとしても、彼は静かに怒る。
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