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    palco_WT

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    LA ROSE ROUGE

    みんぐと王子のこれもひとつの未来

    #水王水
    aquaKingWater

    ぱたり、と彼は手にしていた雑誌を閉じて顔を上げた。その表紙には「アマ竜王、プロ編入試験へ」という見出しと、将棋盤の前に座して今まさに駒を指そうとしているスーツ姿の赤っぽい髪の男の姿があった。その表紙を愛おしむように指先で撫で、玄関の呼び出し音に誘われるように腰をあげた。
    「おーじ、俺や、開けてぇな」
     けれど、その足取りはどうしてか、まるで怯えるようにゆっくりで、足音ひとつ大きく立ててしまったのなら、その瞬間に世界すべて壊れてしまうのではないかと思っているかのような。
    「……暗証番号、替えてないよ」
     インターホンへと向けた、震えているかと思った声帯は、存外なめらかに発声できた。
     それは、彼の誕生日だった。20××1205。変えられるわけがない。心と同じく。
     キイ、とドアが開く。
     ああ、と王子は自らの感情のありかも見定められないまま、ただため息のように呟くと、眩しいものを目の当たりにするように目を細めた。こちらに向かって手を差し出した男を見つめて。
    「王子、迎えに来たで」
    「なんで、来たの?」
    「なんでも何も、今言うたやろ、迎えに来たって。それとも結果出るまで待てせてもうた間にこっちに何も言わんと結婚でもしたか。……そういう感じには見いひんけど」
     部屋を見渡す彼は何年も何年も会ってなかったような態度ではなかった。ほんの数日、任務ですれ違って顔を合せなかった程度の、そんな軽やかな口ぶりと表情だった。ああもうスコーピオンか弧月でも手元にあったら刺してやるのに。
    「迎えって……君さ、今、業界で注目の寵児じゃないか」
    「寵児って、そないなワケあるかい」
    「あるよ。年齢規定が来る前に奨励会を早くに辞めて、何年も将棋とは関係のない、防衛隊員なんてやって、その癖アマチュア竜王の称号を引っ提げてプロ編入試験に合格。この制度が正式に運用されて、まだ十人もいない。そんな男が、男の伴侶連れて来たら大騒ぎになるよ。だってまだまだ伝統的な業界じゃないか」
     だから、もう、ぼくはただ、祝福だけするつもりだったのに。ただの、古い知人、友人として。なのに。バカじゃないの。
    「頭の固いタニマチがわんさかおるおかげで古臭い空気で淀んでるくらい言わんのか。王子ともあろう男がずいぶんと温厚になったのう」
    「言えるわけないよ。ぼくを何だと思ってるのさ」
    「何って、王子一彰。元ボーダー王子隊でA級も張ったことのある隊長で、腕利きの攻撃手。おっそろしく頭がキレて面が良くて根性が悪くて、……そんでもって、俺の大事な、ダーリンや」
    「……バカ」
     そう言いながら、王子は水上に飛びつくようにして抱きついた。
    「バカは酷いのう」
    「バカだよ、ホントに。……いいの、ぼくで?」
    「それはこっちの台詞や」
     久しぶりに会うかつての情人の気配を胸いっぱいにするみたいに、王子は高校の時よりは刈り込んでずいぶんとボリュームダウンさせた水上の赤っぽい癖毛に、首筋に鼻先を埋めるみたいにしてくっつける。かつては嗅いだことがなかった整髪料の香りが、離れていた歳月を思い出させて、さしもの彼のような男の胸をしくりとだけ痛ませた。
    「ええか。三門《こっ》からおまえを連れ出して。二度と帰さん」
    「いやそれは困るかな。同窓会とかだってあるし」
     こつんと額と額をくっつけて、鼻の頭が触れるくらいの距離で、懐かしい顔をお互いに見つめる。
    「王子隊長、俺と飽きるまででええから一緒に生きてくれへん?」
    「水上四段、将棋よりもぼくを大事にしないなら考えてもいいよ?」
    「……フツー、逆やろ」
    「そんな愛みたいな簡単なものに目が眩むような奴は御免だからね」
     変わってへんなぁ自分、と三白眼気味の目を糸みたいに細くして笑う水上に、王子は対照的にじっと凝らすように目を見開いた。少しでも狭めたら、碧玉の瞳いっぱいに潤んだものがこぼれてしまいそうで。
     いつだってぼくは、ぼくを倒してくれるような人しか好きになれないんだから。こんな、人としてどうかしてる男を連れあいにしたいなんて後悔しても知らないよ。後悔したって、離しやしないけど。
     こういうのを、詰んだって言うんだろ? ねえ、ぼくのみずかみんぐ。
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    「好きだよ、イコさん」
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    「なんや、王子、どないしたん?」
    「うーん、何でもないよ。ただ言いたいだけ」
    「それなら、ええ」
     にこにこといつもと変わらない笑顔を張り付けて、王子は生駒に言う。生駒は、本当にそうなら問題ないな、と頷いた。
     
    「で、今も続いてる、と」
     生駒から経緯を聞いていた弓場は、片眉を器用に持ち上げて嫌そうな表情をした。
    「そうや」
     生駒はいつもと変わらない表情で弓場の問いに答えた。
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    「いや、そんなんないな」
     生駒は、当たり前だと言うように柿崎の言葉を否定した。
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