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    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
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    palco_WT

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    折本にするつもりだったけど流し込んだらはみ出て笑うしかなかった……加減……分量の加減……

    #冬当
    winterDangling

    狭い遠征艇での窮屈な環境と、門による跳躍が影響する三半規管だかトリオン臓器に由来する何かの器官に由来するもののせいなのかは分からないが、いわゆる空間識失調《バーディゴ》っていうのはこんなものなのかもしれない。
     シャバの空気を吸って半日以上経つのに、まだ本復しない体にハッパをかけながら、休暇明けには提出しないといけない仕事に手をつけては、もう無理と倒れ、いややらないといけないと起き上がり、しかし少し経ってはちょっと休むを繰り返していた冬島の携帯端末が着信に震えたのは、そろそろ空腹を胃袋が訴えかけた夕暮れ時だった。
    「おう、何だ、勇」
    「隊長、今からそっち行くけど、なんか買ってくもんあっか? どうせ、遠征から戻ってからぶっ倒れたままだろ」
     ありがてえ、とローテーブルを前に床にひっくり返って天井を見上げたまま、冬島は携帯端末に向かって矢継ぎ早に告げる。
    「弁当なんでも、あと甘い菓子パン何個か。ドーナツでもいい。それとチョコレート味の何か」
    「何かって何だよ。ケットーチ上がるぞ。カップ麺は?」
    「ハコでストックしてあるから大丈夫」
    「その分だと缶ビールもいらねえな。煙草《モク》は?」
    「そもそもおまえ買えねーだろ」
    「制服着てなきゃ平気」
    「おい」
     どう考えても私服で煙草か酒を買ったことがある奴の言い草だった。
    「おれが何かしでかしたら隊長にツケられんだから、悪さはしねーよ」
    「どうだか……」
     自分が学生時代のことを振り返れば、十代のクソガキなんて小うるさい大人をどうやって出し抜くかが楽しくてしょうがないお年頃だ。まして反骨精神にあふれた、若くて才能が有り余った少年なら尚のことだ。
    「あ、そうだ。コンビニ、ミカマートに寄んなら、ホットスナックのフライドチキンスティック買ってきてくれ」
    「あいよ。塩レモン味のやつな」
     よく覚えてた、偉い、と言ってやると、当たり前だろ、とぶっきらぼうな一言と同時に通話は切れてしまった。
    「んだよ、せっかく褒めてやってんのに」
     ありがとよ、ともう繋がっていない端末に囁いてから、何してんだか、と冬島はむずがゆそうな顔で、せめて当真が座る場所くらい空けておかねえとな、と床の上に散らばったゴミと脱ぎ捨てた服と、放り出したままの荷物を部屋の片隅にかき集めた。


     うわ、散らかってんな!
     冬島のせめてもの努力を蹴散らすみたいな言い草が、ドアを開いた途端の当真の口から放たれて、三十路のデリケートな心臓を弾丸みたいに貫いた。
    「し、仕方ねえだろ、出発寸前まで留守にする分やんなきゃいけないことがおとなにはあるの」
    「知ってっけどさ。たいちょ、遠征艇の中でも暇を見て色々とちょこちょこやってたもんな」
     バイクで来たらしく、コンビニの袋と一緒にゴーグルをぶら下げて、フラップのついたダウンジャケット姿の当真の顔は鼻の頭も頬も赤い。ヘルメットで潰されてしまうので、自慢のポンパドールは掌で崩して撫でつけてある。ほつれた前髪がはらりと落ちて、常よりも幼げに見えた。
    「おまえ、いい加減フルフェイスにしたら?」
    「視界狭くなってヤなこった。夏は暑ぃし。第一、原付程度にフルフェイスなんてバランス悪くねえ?」
    「悪くねえよ。コケた時に面から落ちたら顎が大根おろしになるぞ。買ってやろうか、アライのカームレッドのベンチレーションついてるやつ」
    「お断りだ。特別賞与入ったから欲しけりゃ自分で買う」
     独立独歩で頼もしいことだね、と冬島は彼から受け取ったジャケットをハンガーにかけてやる。
    「ほれ、コレだろ。冷めないうちに食えよ」
    「お、ありがたい」
     ジャケットの下から、小さめのコンビニ袋をもうひとつ取り出した当真は、その中から紙袋に包まれた長細いものを掴みだす。袋の中にはホットのコーヒーとほうじ茶も入っているようだった。カイロと保温を兼ねた冬のバイク乗りの知恵に、冬島は目元を和ませながら、ありがたく棒状のフライドチキンに齧りつく。人肌で保温されたチキンは熱々ではなくてもほかほかで、口の中に旨味と滋味が広がった。
    「隊長、これよく食ってないか?」
    「学生の頃はよく帰りに食いながら帰ってたから、たまに懐かしくなってな」
     へえ、と冬島がしているように、床に直接腰を下ろした当真は目をぱちぱちとさせた。
    「隊長が高校生の時か。写真とかねーの?」
    「ねーなー。アルバムとかは実家だしなあ」
    「今度見せろ」
    「だったら盆休みが取れたら、実家に遊びに来るか?」
    「え、行っていーの」
    「ダメな理由なんてないだろ。……俺の自慢の部下の狙撃手を見せびらかさないでどうする」
    「それだけ?」
    「それだけって……」
     当真は猫がすり寄るように、四つん這いで冬島の隣まで移動すると、そのあぐらをかいた太ももを跨ぐようにしてきた。そして冬島の無精ひげが浮いてきた頬のあたりを指先でまさぐると、唇を押し当ててきた。ついばむように、まだ少しだけ十二月の冷気の名残をまとった口唇が、冬島の塩レモンチキン味の唇をしゃぶってくる。下唇を甘噛みして、上唇のラインを辿るように舐め、息を継ごうとくつろいだ間《あわい》に舌をすべりこませてくる。
     当真のこんな接吻の技法は冬島が仕込んだものではない。体を合わせるようになった時点で、当真自身が外《・》から持ち込んできたものだ。何人、何年かは分からないが、相当遊んできたのは分かる。それを詰ろうとも思わない。この少年が、ボーダーで居場所を定めるまでこの世界を生きづらいものとしていたのかを知っている冬島には。そんなこどもが、他人の肌に、一夜の関係に、刹那の慰めを求めて何が悪かろう。
     この、今、冬島と紡いでいる関係が正解とも思わないが。
     唇を別たれさせると、冬島は、当真のしなやかな首筋の皮膚の下に青白く走る血管を追うように、軽く歯を立て、吸い上げていく。ふ、と丸い熱を伴った吐息を当真は吐き出し、小さく赤い鬱血の痕が彼の肌を彩っていく。
    「こんなコトしてる相手です、って紹介はしてくんねーの?」
    「それは、ちょっと……なあ……」
     ちぇ、と奔放な少年は大きく舌打ちをすると、ケチと言い捨てて、冬島の抱擁から体を引き離した。それでもあからさまに機嫌を損なった様子を見せないのは、当真とて冬島の立場に配慮はしてくれているのだろう。いじらしい、とでも言ったらいいのか。
     そう言えば、それこそ高校の時のクラスメイトに当真のような同級生がいたことを思い出す。当真と違って成績は良かったが、すらりと背が高く、如才なく、いつも周りに誰かがいた。そのくせ冬島が気がつくと、ひとりでぽつんと教室に居残っていたり、廊下でぼんやりと外を眺めていたり、昼休みに消えたと思ったら中庭の植え込みの中で爆睡していたりと、どこか掴みどころがない雰囲気を備えていた。個人的に口をきいたこともないまま卒業したけれど、今頃何をしているのやら。同窓会でもない限り、消息は分かるまい。
    「……何笑ってんだよ」
    「いや、もし俺が今高校生だったとしてたら、間違ってもお前とはチームを組んでなかったろうし、そもそも知り合ってもいなかったかもしれないなと思って」
    「そっかぁ?」
    「そうだよ」
     おまえは分からないんだな、と冬島は乱暴にその顔を、髪を撫でてやる。
     例え同じ高校、同じクラスだったとしても、所属するレイヤーが彼と自分ではおそらくは違う。
    「だから、お互いこの年、この立場で、ま、良かったってことなんだな。さすがにまだ親兄弟親戚にカミングアウトする度胸はないけどな。東には釘を刺されたし」
    「釘?」
    「おまえとの関係がバレた時に、立場をわきまえろって」
    「わきまえろ、なァ」
     呆れたように当真は肩をすくめてみせた。
    『自分が何してるか分かってるんですか』
    『分かってる。よーく分かってるから、困ってる』
     いっそ東の物言いが弾劾や詰問だったほうが良かった。しかし、むしろ彼の口調は苦しそうで、辛そうだった。他人事だというのに。
    『十以上も下の、同性の未成年の、部下に手を出してる。二重にも三重にもアウトだ』
     言わなくても承知していることを、東はあえて口に出してくれている。本当に申し訳なかった。
    『俺は自分がそこまでバカだとは思ってなかったよ』
    『冬島さん……』
    『けど、少しだけ、もう少しだけ見逃してくれないか。……俺は、いつか、あいつに』
     捨てられる日が来る。
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    MAIKING折本にするつもりだったけど流し込んだらはみ出て笑うしかなかった……加減……分量の加減……狭い遠征艇での窮屈な環境と、門による跳躍が影響する三半規管だかトリオン臓器に由来する何かの器官に由来するもののせいなのかは分からないが、いわゆる空間識失調《バーディゴ》っていうのはこんなものなのかもしれない。
     シャバの空気を吸って半日以上経つのに、まだ本復しない体にハッパをかけながら、休暇明けには提出しないといけない仕事に手をつけては、もう無理と倒れ、いややらないといけないと起き上がり、しかし少し経ってはちょっと休むを繰り返していた冬島の携帯端末が着信に震えたのは、そろそろ空腹を胃袋が訴えかけた夕暮れ時だった。
    「おう、何だ、勇」
    「隊長、今からそっち行くけど、なんか買ってくもんあっか? どうせ、遠征から戻ってからぶっ倒れたままだろ」
     ありがてえ、とローテーブルを前に床にひっくり返って天井を見上げたまま、冬島は携帯端末に向かって矢継ぎ早に告げる。
    「弁当なんでも、あと甘い菓子パン何個か。ドーナツでもいい。それとチョコレート味の何か」
    「何かって何だよ。ケットーチ上がるぞ。カップ麺は?」
    「ハコでストックしてあるから大丈夫」
    「その分だと缶ビールもいらねえな。煙草《モク》は?」
    「そ 3454

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     シャバの空気を吸って半日以上経つのに、まだ本復しない体にハッパをかけながら、休暇明けには提出しないといけない仕事に手をつけては、もう無理と倒れ、いややらないといけないと起き上がり、しかし少し経ってはちょっと休むを繰り返していた冬島の携帯端末が着信に震えたのは、そろそろ空腹を胃袋が訴えかけた夕暮れ時だった。
    「おう、何だ、勇」
    「隊長、今からそっち行くけど、なんか買ってくもんあっか? どうせ、遠征から戻ってからぶっ倒れたままだろ」
     ありがてえ、とローテーブルを前に床にひっくり返って天井を見上げたまま、冬島は携帯端末に向かって矢継ぎ早に告げる。
    「弁当なんでも、あと甘い菓子パン何個か。ドーナツでもいい。それとチョコレート味の何か」
    「何かって何だよ。ケットーチ上がるぞ。カップ麺は?」
    「ハコでストックしてあるから大丈夫」
    「その分だと缶ビールもいらねえな。煙草《モク》は?」
    「そ 3454