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    「こ、れは……」
     足下に散らばる紙の山。そこにはうさぎの耳が生えた青年と、小さな帽子を頭に乗せた青年が熱いキスを交わしていた。ほかにも、言葉にすることを躊躇するような、子どもには到底見せられない内容が綴られている。男同士の恋愛を好む人種がいると聞いたことはあったが、実際に見るとその衝撃はすごい。
     ばらまいた張本人、アリス君は尻もちをついた状態でこちらを見上げている。その顔は、可哀想になるほど血の気がない。それもそうだろう。この趣味はこんな形でばれたくはないはずだ。だが、俺にはそれに触れなければならない理由があった。
    「俺……だよな」
     独特のタッチで描かれたうさぎ耳の青年は、自分と瓜二つの顔をしていた。


    「ごめんなさい!!!」
    「いや、まあ」
     いいけど、とも言えず言葉尻を濁す。大学内にあるカフェテリアに場所移し、俺たちは向かい合って席に着いた。
    「えっと、そのうさぎって俺……?」
    「キミと言えば、キミかな……」
    「これは、何というか夢の話なんだ」
    「夢」
     詳しく聞くと、アリス君は夢を見たそうだ。自分の知る人物が、不思議な世界の住人として自由気ままに暮らしている夢。その中で、俺はうさぎ耳の青年、『白ウサギ』として生きているらしい。
    「なるほど、だから相手も教授の顔をしてるのか」
     そう、白ウサギの相手は、これまた見知った顔だった。彼は心理学で教鞭を執っている。大学の講師としては生徒を見てくれているいい先生だ。そして、何より顔がいい。
    「『帽子屋』か。ていうか、アリス君絵上手いね」
    「……気持ち悪くないの?」
    「うーん、それよりもびっくりが勝った感じ?」
    「変なやつ」
    「キミには言われたくないかな」
     憎まれ口に対して表情は随分と素直で、毒気が抜かれたというのもある。特に今。見るからにほっとした彼が可愛らしく見えてくるから不思議だ。
    「こういうのほかにもあんの?」
    「あるけど……。どうして」
    「ちょっと気になったから」
    「……見る?」
    「いいの!?」
    「キミこそいいのかい? ボクからしたら別人でもキミからしたらこれは自分だろう」
    「いいじゃん。好奇心だよ」
    「……変なやつ」
    「二回も言ったな!」
     気になったことも本当だが、アリス君と仲良くなれたようで嬉しかったのだ。まさか、余計な感情が生まれるとも知らずに。


     あれから、アリス君の描いたマンガをいくつか見せてもらった。少女マンガのような話もあれば、男性向けのエロ本みたいな内容もあって、ちょっと遠い目をしてしまったのはアリス君には内緒だ。本人は全く気にしていないので、おそらくそういう世界なのだろう。
     問題は、俺がそれを真に受けていることだ。
     
     チョークを持つ指が、帽子屋の指と重なる。白ウサギに触れた指先。あれが自身に触れたら、どうなってしまうのだろう。
    「宇佐川。……宇佐川?」
    「……あ、はい!!!」
    「起きてたよね? 実は目を開いたまま眠れたりとか……」
    「しません!!」
    「元気でよろしい。さて、これについてどう思う?」
    「……恋について?」
    「そう。実は心理学において恋というものは結構重要でね、恋愛心理学なんてものがあるくらいだ」
     教授の言葉が耳に入ってこない。こい、コイ、恋。…………恋!?
    「これを踏まえて、宇佐川、キミの意見は……。どうした、顔が赤いぞ?」
    「え、あ、これは……。ちょっと顔洗ってきます!!」
    「あ、おい!」
     タイミングよくなったチャイムに鞄をつかんで走り出す。
     嘘だ、嘘だ、嘘だ!!
     駆け込んだトイレの鏡に映るのは、真っ赤に染まった自分の顔。思わず、顔を覆ってその場にしゃがみ込んでしまう。
    「嘘だろ~~~~」
     誰よりも信じたくない自分が一番理解している。いつの間にか俺は、教授に恋をしていたらしい。
    「どうしたら、いいんだ……」
     何も分からない。分からないけど、一つだけできることがある。
    「アリス君に相談しよう……」
     元はと言えば彼が原因だ。諦めて、相談に乗ってもらうことにしよう。早速俺はスマートフォンを手に取り、メッセージを送った。

    ***

     ブブッとバイブ音と共に画面に通知が浮かび上がる。それは、先ほど挙動不審で飛び出していった友人からだった。
    「宇佐川かい?」
    「……何か電波でも受信してるんですか」
    「相変わらず手厳しいね。最近仲がいいようだからそう思っただけだよ」
    「用事はもう終わりですよね。これで失礼します」
    「ああ、お疲れ様」
     挨拶もそこそこに退室する。メッセージに導かれて、カフェテリアに向かった。

    ***

    「気づかないものだなあ」
     誰もいないのをいいことに独り言をつぶやく。アリス君も宇佐川も、あの年頃にしては随分と鈍い。
     アリス君の趣味は知っていた。彼が少し変わった頃、何か始めたなと思っていたら意外な趣味で驚いたものだ。しかも私と宇佐川がモデルの恋愛マンガとは。
     彼の絵が上手いこともあって、特に嫌悪はなかった。どちらかというと興味をそそられた。だから、あえて宇佐川を構うようにしたのだ。
     どうやらそれは功を奏したようで、アリス君のマンガはどんどん数を増やしていった。それを時々盗み見て、なるほどこういう風に見えているのかと、自分を客観的に観察していた、つもりだった。
    「ままならないな、人の心というのは」
     仮にも心理学者だ。頭では分かっていたのだが。ふざけて構っているうちに本気になるなんて誰が予想できよう。
     アリス君の恋愛マンガは様々なシチュエーションや設定があるが、一つ共通していることがある。帽子屋の愛情が一方的であることだ。白ウサギが先に懸想している話は今まで一つもない。要するに、現実の関係と繋がっているのだ。そう考えると、鋭いのだろうか。でも本人が気づいていないしな。
    「さて。吉と出るか凶と出るか」
     アリス君はきっと、またマンガを描くことだろう。そこで、白ウサギが帽子屋へ感情を向けたのなら、その時はお茶会でも開こうじゃないか。
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