随分と前から気にはなっていた。他者に向ける朗らかな笑顔と、自身に向ける強ばった笑顔。 みんながいる時は普通なのに、二人きりになった途端よそよそしい態度。極めつけに、俺から隠れるように夏組と交流をしている様子。
間違いない。俺はどうやら、綴さんに嫌われているらしい。
「いや、勘違いだろ」
悩みを相談した俺をバッサリと切り捨てたのは万里さんだった。感覚が近く、歳も近い。万里さんなら、何かわかるんじゃと思ったのだが。
「なんでだよ」
「逆になんでだよ。綴がお前を嫌ってるなんてあるわけねぇじゃん」
「だって、俺の事避けてるみたいだし……」
気づいてから思い返してみたが、綴さんと一対一の思い出がほとんどない。いつも誰かしらそばにいて会話もその誰かしらが中心だ。俺と綴さんが言葉を交わしたことも数えられるほどじゃないだろうか。
「それに! 目を合わせてもらったことがない! 綴さんだぞ!?」
「あ〜それはなぁ……」
必死の訴えに、万里さんは口をもごもごとさせて言い淀んでしまう。その反応にピンと来た。この人、何かを知っている。
俺は咎めるように、じっと万里さんを見つめた。俺はとても悩んでいる。もう少し親身になってくれてもいいはずだ。
根気よく見つめ続けていくと、万里さんは降参だと言うように肩を竦めた。
「俺からは何も言えねえよ」
「……てことは、やっぱり何か知ってるんだな」
「おう。だからこそ断言してやる。綴がお前を嫌うなんて、天地がひっくり返っても有り得ねえよ」
その言葉に少しだけほっとする。万里さんがここまで言うのだ。俺が綴さんに嫌われているというのは、俺の早とちりだったのだろう。
だが、問題は依然として残っていた。
「じゃあ、なんで綴さんは俺の事を避けるんだ」
「それについてなんだが、お前はどうしたいんだ?」
「どうって?」
「綴とどうなりてぇの?」
パチリとひとつ瞬きをする。どうなりたい。それは、言われて初めて考えたことだった。
「避けられてるけど、嫌われてはない。なら、そこからどうなりたい」
「どうなりたい……」
「例えばほかの夏組と同じくらいの距離感、時々話したりバカしたりってのが、無難なとこだろ」
夏組との距離感。そこが妥当なのはわかる。しかしながら、なにやらしっくりこない。どこか、物足りない。
「できたら、もう少し近い距離がいい」
「大きく出たな。仲間兼親友ってとこか?」
親友。それはとても魅力的な響だ。けれど響き方が違う気がする。