「彼シャツに興味はありませんか」
目の下を真っ黒に染めた綴がトンチンカンなことを言うのは今に始まったことではないが、さすがにこれは予想外。言葉の意味を理解するのに瞬き数回、咀嚼するのに更に数回。その間にもう一度「彼シャツに興味はありませんか」と尋ねられた。聞こえなかったわけじゃないんだけど。
「……正直に言っていい?」
「どうぞ」
「彼シャツって体格差がないと面白くないんじゃない?」
あまりよく知らないが茅ヶ崎の所持品から察するに、女の子に男のものを着せてその体格差の違いやそれ故に生まれる露出に興奮するコスプレのようなもの、というのが俺の認識だ。俺と綴ではそういった変化を感じられないのではないかと疑問を口にしただけなのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。
「彼シャツに興味は」
「ないよ。どうしたの?」
むすりとした表情で綴は分かりやすく不満を表す。随分と素直になったものだ。だがあと一歩が足りない。
「ほら、言ってごらん」
「……疲れただけです」
「それと彼シャツがどう繋がるの?」
「しんどくなった時に、千景さんの服があったら頑張れるかなって」
「服がいいの? 俺じゃなくて?」