Forbidden Colors 私の行いは、全て隠しようの無い罪だ。
悪魔祓いが悪魔を誅しなかったこと。
悪魔が本当に悪かを疑ったこと。
黒い杭をその心臓に突き刺せなかったこと。
私を育んだ教会に背を向けたこと。
悪魔との邂逅を一度でも願ってしまったこと。
無垢な竜の子を愛おしく思ってしまったこと。
再臨の日に煉獄へ堕とされるだろう私は、弱き人間故に浅ましくもあなたに和解を乞う。痛悔し許されたいと願っている。愛することで愛されたいと願っている。
悪魔に魅入られたこの私が。
禁じられた行いに身を窶したこの私が。
この私が——
「……また燃やすのか」
手記を暖炉の火に焚べるのを咎めるでもなく興味半分といった口振りで問うてくるノースディンの声に、私は振り返らぬままじっとそれが黒く燃え尽きるのを眺めていた。
「見られて良いものではないからな」
ならば何故書くのか?
と自身でも思うのだが、これは私の心の発露だ。口に出せないから書くのだ。残すとすれば、恐らくそれは私が死ぬときだろう。
(抜けない杭を、今度こそお前に打つために)
もっと純然で童心に立ち返ったものかもしれないし、狂おしいまでに苛烈な叫びかもしれない。数年あるいは数十年後の私は、何を選び取るのだろうか?
「クラージィ」
「……ああ」
火かき棒で火種に灰をかけた。薪を足さず弱まっていた炎はじきに消えるだろう。私のための火。この男が必要としないもの。
ベッドに戻り、再び男の隣に横たわった。
私は、人よりも冷たいこの男の肌が熱っぽく汗ばむことを知ってしまった。赤スグリの瞳が睫毛の奥でけぶる様を知ってしまった。
誰を想い、誰を見ているのかも。
凍土より生まれし吹雪の悪魔。その懐に私は自ら堕ちた。
——『ああ見えて一人は寂しいんですよ』
ドラルクの言葉を思い出す。私は、私の罪を数える。そのための手記。禁じられた行いに身を窶した私の、痛悔の日々の記憶。
明け方に一人棺へと帰る男の、長い指先が肌に触れた。それは驚くほどの温もりを持っていて、思わずその指先を手繰り寄せ、指を絡める。
私はまた一つ罪を数え、そうしてゆっくりと目を閉じた。