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    支部へ投稿した『Melty』の後日談です。
    こちらはタイジュ目線で、本編で書ききれなかったところをチョコっと書きました。
    因みに、ミツヤを素直にする方法を理解したタイジュにより、ウチのミツヤはこの後も度々グズグズにされることになります。

    タイジュはミツヤの影響で人間として成長し、ミツヤはタイジュの影響で芸術家としての才能を伸ばすような関係だといいな、と思っています。

    #たいみつ

    Meltyのその後「オレ、またあの店行きてぇな。つったら、大寿君一緒に来てくれる?」

    高校を卒業して長い春休みに入ったオレの後で、ようやく終業式を終えた三ツ谷。
    さっそく春休みに会う日の相談をしていたところ、三ツ谷からこんな提案があった。

    あの店。それは、三ツ谷が尊敬するデザイナーが立ち上げたブランドのブティックだ。
    この前は三ツ谷が気後れしないようにと思って、勝手に押し付けた服を着させて行ったが、別に何着てても堂々と入りゃいいんだからな。
    だいたい、オレの三ツ谷はいつも洒落た格好をしているんだし問題ないだろう。

    それに、オレが連れて行ったことで三ツ谷が「また行きたい」と思ったのだとしたら、僅かでも影響を与えられたようで気分が良い。
    オレは二つ返事で応諾し、待ち合わせ場所と時間を決めた。


    ******


    待ち合わせ当日。三ツ谷が着てきた服は、春らしい鮮やかな色の、ツイードのセットアップ。
    ずいぶん良さそうなものに見えるが、いったいどこのモンだ?
    良い物に触れたら、より良い物を求める心が生まれるのは自然の道理だ。
    ましてや、デザイナーを目指す三ツ谷がよりよい服を求めることなど、息をすることくらい当然なことなのだろう。
    しかし、だ。金はどうした?
    余計な世話だと思いつつ、気になってしかたがない。
    まさか……。

    三ツ谷の姿を見ながら思いを巡らせていたオレの視線が気になったのか、三ツ谷が「この服、気にしてくれてんの?」と聞いてきた。
    真っすぐで、ちょっと得意げでもあり、後暗さは感じさせない目で。
    きっと、状態の良い古着でも見つけたのだろう。
    勝手に心配をしたオレは、勝手に安心もした。

    「ああ、似合ってる。どこのだ?」

    「オレが作ったんだ」

    ――何?

    「この前、大寿君に色々見せてもらって刺激受けたからさ。その時のイメージで作ってみた。
     材料費はちょっとかかっちゃったけど、なかなかの出来だろ?」

    ほんの僅かな養分をやっただけで、こんなにも美しい大輪の花を咲かせることができるのか。
    本当に、オマエというやつは……!
    気が付いたら、オレは三ツ谷を抱きしめていた。

    「大げさだなぁ、大寿君は」

    オレの腕の中で、三ツ谷が照れ臭そうに笑った。


    ******


    オレたちは散々服を見倒した後、テラス席のあるカフェで休憩をすることにした。
    三ツ谷はさっきまで、着ていた自作の服を店のヤツらに褒められて気をよくしていたんだが……。
    昼飯は別会計で払ったから、茶くらい出すかと思って勝手に払ったのが不満だったらしい。
    無言で外にある席に向かった三ツ谷は、席に着くなり静かに文句を言いだした。

    「オレは、大寿君と対等でいてぇ。年上だから多く出したいって言うなら、せめて払う前に言ってくれてもいいんじゃねぇか」

    怒りも落胆も感じさせない凪いだ表情で、ほんの少しの威圧感を籠めて淡々と語りかけてくる。
    まるで気位の高い猫のようだ。地面をはたく尻尾まで見える気がする。
    唇を尖らせる表情も、その口の形のままカフェオレを飲む姿も、とても可愛らしい。

    「元々、大寿君には借りが多いんだよ。どうやって返せばいいか――」

    顔が隠れそうな大きさのカフェオレボウルを揺らしながら、三ツ谷が言う。
    まだそんな事を言ってやがるのか。
    オレはデミタスカップをソーサーへ置いて答えてやった。

    「いいか。テメェは将来有名デザイナーになる。それで、いつかオレが持った店の制服を任せる。
    借りだと思ってんなら、その時全部チャラにしろ」

    「もっ、……もう。高校生相手に何言ってんだよ」

    一瞬思考が止まったような空白の後、ちょこんと高い鼻の頭を赤く染めながら、三ツ谷は膨れた顔を作ってみせた。
    しかし、まんざらではなさそうな事はオレにだって見て取れた。
    再びデミタスカップを近づけたオレの鼻先に、思わず笑みが零れる。
    が――

    「……ギャーギャーうるせぇな? ガキか?」

    辺りを見回すと、こんな場所に珍しく猫がいた。
    サカリのついたメス猫らしく、汚ぇ声でオスを呼び寄せていやがる。
    三ツ谷の方へ視線を戻したら、さっきまでプクプクと膨らませていた頬をシュッと萎ませ、嘘くさい薄ら笑いを浮かべていた。
    百面相でもやってんのか。表情だけでも忙しいヤツだな。

    「どうした?」

    「な、な、な……何でもない…デス」

    どうも三ツ谷の様子がおかしい。
    発情期の猫を見ただけで、こんなに真っ赤になるようなタマじゃねぇだろう。
    何か理由があるんだろうが、コイツは本当に言いたいことはなかなか言わねぇからな。
    ――そう言えば、「やってる時、辛そうにしてた理由」の明確な答えもまだ聞いてねぇ。
    まぁいい。こいつを素直にさせる効果的な方法はこの前だいたい分かった。
    トロトロになっちまって機嫌よく喉を鳴らす子猫のような三ツ谷も、また見てぇしな。

    「大寿君こそ……、何か悪い顔してる……けど?」

    勘の良い三ツ谷はさっそくオレの企みに気付いたようで、眉毛を八の字にしてオレの様子を探ろうとしてきた。
    素直に本音を漏らさねぇのは、何もテメェの専売特許じゃねぇ。
    オレが「そうか?」と惚けると、三ツ谷は頭の中でグルグルとオレの企みについて考察を始めたようだ。
    三ツ谷の不安を更に煽るため、普段見せないような顔でニコリと笑えば、酸欠の金魚みてぇに口をパクパクし始めた。
    くっくっ、せいぜいモダモダしてろ。

    さて、今日はどうやって溶かしてやろうか。
    オレは空になったカップをソーサーの上へ戻した。
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