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    Satsuki

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    Satsuki

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    ◎無双のレトユリ。ジェラルト&ベレトの支援会話を擦った結果。220821(220809)

    歩まなかった過去と未来「ふうん、なかなか様になっちゃあいるが……着心地はどうだ?」
     ユーリスの言葉に、ベレトは自分の格好をしげしげと見下ろした。この士官学校の礼服は、ユーリスが数年前に使用していたものだという。父であるジェラルトがかつて騎士団長を務めていた、セイロス騎士団。その本拠地であるガルグ=マク大修道院に併設されている士官学校に、自分が入学する道もあったのかもしれない。以前そんな話を聞かせた時に、じゃあ気分だけでも味わってみるか、なんて笑っていたユーリスが、わざわざ自分の服を持って来てくれたのだ。
    「少し、きついな……それに、動きがとりにくい」
    「ま、礼服は戦闘向けじゃねえしな」
     言いながら、ユーリスは両手を伸ばしてベレトの首元を緩めてやる。肩や背中も、ちょっと、いや結構な具合で窮屈そうだ。ユーリスが十代の頃に着ていたものなのだ、仕方がないだろう。かくいう本人も当時の級長服を身に付けてみているのだが、やはりこの戦争のせいで筋肉がつき、体格が変わったらしく、寸法が合わなくなっている。
    「その服は動きやすいのか?」
    「礼服よりかはな。これは級長専用の服でな、白いマントが目印さ。級長ってのは、学級で一番偉い奴のことで、戦闘でも指揮をしたり、生徒たちを守ったりする役目があるんだ」
    「なるほど、きみは適任だな」
    「……ふっ、まあ、灰狼学級じゃそうかもな」
     制服を身に付けたユーリスは、結わえた髪を横に長し、白いブーツを履いた足を組んで寝台に座る。成熟した大人の体で士官学校の制服を身に付けている姿は、ちぐはぐな魅力が倒錯的だった。もちろんベレトにそんなことは分からないが、普段と違う格好である、というところがきちんと魅力的に見えてはいるはずだ。
    「よし、それじゃあ……」
    「うん? 気が済んだのか?」
    「ちょっとジェラルトに見せて来る」
    「待て、それはやめとけ。その恰好で外には出るな」
    「いけないのか。何故だ?」
    「……学生が基地の中を歩いてたら、驚くやつがいるだろ? 次の宴の時にでも、余興でもう一度着せてやるから、その時にとっとけよ」
    「そうか……」
     声の調子も表情もろくに変わりはしないが、ベレトは少々残念そうに肩を落とした。そんな格好で外を歩いたら、青獅子学級の奴らに面白がられて囲まれるかもしれない。彼らと楽しそうに話すベレトを想像して、ユーリスは少しだけ唇を曲げた。
    「ほら、脱がしてやるからこっちに来いよ」
    「色々とありがとう、ユーリス」
    「いいってことよ……いや、ひとつ貸しにしとくかな。……もしも俺とあんたが一緒に入学してたら、学級はどこだったろうな。騎士団長の息子なら、同じ青獅子学級だったかも」
    「そうしたら、きみが級長か?」
    「ははっ、俺は青獅子学級じゃ普通の生徒だったよ……けど、灰狼学級じゃ級長だ、級長の言うことは絶対だからな。あんた、俺の言うこと聞かなきゃならなかったぜ」
    「ふふ……例えば、どんな風に?」
    「そうだなあ……」
     ユーリスは、懐かしくもあり、痛みでもある士官学校のことを思い出し、目を眇める。もしも士官学校でベレトと出会っていたら、互いにどんな道を歩むことになっていただろう。彼なら、今のように自分の手助けをしてくれただろうか。なんて、ありもしなかった未来のことを、考えながら。
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    Satsuki

    DOODLEレトユリアシュのようなユリアシュのようなもの。アッシュくんがかわいそう。
    「君とベレト先生が、キスしてるのを見たって人が……それって本当なの?」
     それを聞いて、ユーリスはハハッとアッシュを笑い飛ばした。笑い声を聞いて、アッシュはカッと顔を赤くする。言うべきじゃなかった。彼の気を引きたい一心で口走ってしまったその噂話は、下品だし、本人に確認するようなことではなかった。でも、彼に振り向いてほしかったのだ。青獅子学級に来た時からピンと来ていた。ローベ伯のところにいた子でしょう、と話しかけても、どうやらユーリスはあまりその話をしたくないらしく、疎まし気な視線を寄越しただけだった。僕はロナート様のところにいたんだ、と自分の話をしても、「ふうん」「そうかよ」としか返事してくれない。一緒に草むしりをしても、馬の世話をしても、ユーリスは何故だかアッシュに冷たい。冷たいように、見える。実際彼は、青獅子学級の面々と一線を引いているようだった。アビスというところがどんな場所だか、詳しいことは知らない。だが、アッシュには想像がついた。親を亡くして、行く当てもなく兄弟と彷徨ったあの街。人々の視線。生きるために仕方なく、食べ物や金目のものを狙って盗んだ、あのときの自分。今ではとても恥ずかしい過去だけど、もしかしたらユーリスは今、そんな状況なのかもしれない。先生とキスをしていたという噂だって、ユーリスを貶めるためだけの誰かの作り話かもしれない。陰口を本人に伝えるなんて、してはいけないことだ。アッシュは急に胸がツンと痛んで、ユーリスの顔が見られなくなった。
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