ある「元」光の戦士の6.01その9「ただいまー」
ペンダント居住館の自室に勢いよく入る。あたりはすっかり暗くなったが無事帰還した。
部屋の中にはだれもいない。背後をドワーフがまじまじとこちらを見ながら通り過ぎていった。
フィーネはちら、と振り返ってそそくさと中に入り扉を閉める。
「ただいま」
椅子の下を覗き込むも、求めている姿はそこにはいない。
「我が『美しい枝』~?」
戸棚の瓶の陰を探す。
「おかしいなあ」
フィーネは荷物を下ろす。旅装を脱ぎ捨て、放り投げる。ドレッサーを開けて軽装に着替え、ソファに腰をおろしてようやく息をつく。
座ったまま荷解きをしながら、持ち帰った食材を取り出していく。
「なんだっけ、これ」
青々とした葉っぱをつまみあげる。そういえば、茶葉になりそうなので試しに持ち帰ったんだった。後で処理して煎茶にしてみよう。
「ちょっと。なにごともなかったような顔をしているじゃない?」
天井から声が聞こえてきた。
「やっぱりいたんじゃない。ただいま、フェオ」
ごろり、と音がして頭上から大量の粒が落ちてきた。
「うわ」
反射的に飛び退いて、直撃をまぬがれるが、いくつかの粒は服に入り込んだようだ。
「なにこれ、わ、つめたっ」
服から落ちてきたのは氷の粒だ。フェオが魔法で作ったものだろうか。
「ちょっとフェオいきなりなに?」
声をかけると、フェオが球状の照明の裏に現れたが顔は見えない。
「フェオなにか怒ってる」
フェオが窓の外を指差して、つられて視線を移した瞬間、再びごろりと音がして、頭に降ってきたのは先程よりも大きな氷だ。拳ほどはあるだろうか。
「~~~」
気を取られていたフィーネは今度は避けられず、頭の痛みと全身の冷たさで床を転げ回る。転がりすぎて鉢植に足の小指を強打した。
「いっっっっっ」
言葉にならないうめき声を上げながら頭と足を同時に押さえ時間とともに痛みが消え去るのを待つ。
「おさまっいやいっっったぁ」
こんな痛みを感じるのは久々だ。戦いの中で感じる痛みは、なんというか感覚が麻痺していて耐えられるものだが、気を抜いているときは本当に痛い。
「だれが悪いのかしら」
「いたずら好きのピクシー」
反射的に答えて後悔した。フェオと目があった時にはその頬は紅潮している。完全に怒らせてしまった。
「若木なんて知らないのだわっっっ」
フェオが窓から外へと飛んでいく。
「しまったなあ」
彼女との付き合いは長いが、ふとした瞬間に気を抜くと怒らせてしまう。
フィーネは彼女のことを信頼しているしかけがえのない友だと感じているのだが。どうしても人付き合いが苦手で上手く伝えられない。
床に散らばった氷を眺めながら、フィーネは大きなため息をついた。