『仮面』「人は誰しもが何らかの仮面を被っている。ただその仮面はいつか人の手に引き剥がされ本来の自分を引きずり出される」
いつかどこかで読んだ本の受け売りを類は思い出す。その時はなんてことないと思っていたが司によって『仮面』を引き剥がされてから類はだいぶ楽になった。司はいつだって類の望みを叶えてくれる、そういわば神様に等しい存在だ。司は類に温もりを与えてくれた。その温もりは類にとって探し続けた温もりであると同時に離れ難いものだった。
仮面のことを思い出したのは類が司のことを意識し始めてからだった。気づけば彼を目で追っていてそして気づいた自分が彼に向ける想い。綺麗な思いばかりでは無いその思いに類は大きくため息をついた。外したはずの仮面をまたつけなくては。偽ることは苦ではない。ずっとそうしてきた。だから大丈夫。彼の望む神代類を演じればいい。そうすればずっと彼のそばにいることが出来る。ずっと。
「類、彼女がオレの…」
「初めまして、神代類です。噂はかねがね…」
司に彼女が出来た。以前から会わせたいと言われ今日がその初対面。品定めするように類は司の彼女をちらりと見ると冷ややかに彼女を見る。表面上は人好きのする笑みを浮かべているがその笑みは絶対零度だ。なのに女はその笑みの意味に気づかない。自分の幼なじみが知ったら彼女は間違いなく悪趣味と言うだろう。まあそれでもこの遊びは辞める気はないが。
「…類、オレ、また振られた…」
「おや。ちなみに振られた理由は?」
「他に好きな人が出来た」
「前と同じ理由だね。」
「…しかも決まってお前に会わせた直後に振られるんだ。なんでなんだろうな」
司の問いかけに類は彼の望む仮面をつけたまま言う。
「司くん、人の心は変わりやすいんだ。例外なんてないんだよ。これからも今までもね。でも僕は違うよ。ずっと君のそばにいてあげる。ずっと」
「それは本当か?」
「もちろんだとも」
笑顔で答える類に司はじっと彼を見て一言。
「なら今すぐここで誓ってくれ。何があってもオレから離れないと。オレ以外誰も見ないと」