Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    お箸で摘む程度

    @opw084

    キャプション頭に登場人物/CPを表記しています。
    恋愛解釈は一切していません。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💐
    POIPOI 32

    お箸で摘む程度

    ☆quiet follow

    孝雄と潤輝(愚れノ群れ)

    二十代後半ごろ 全部捏造です
    父親の姿をした何かに踊らされたり踊ったりの運命

    父親の剥製 新港ふ頭の風は生温い。孝雄はメビウスを暫し唇の先で弄ぶと、思い出したように胸ポケットのライターを取り出してやっと火を点けた。風除けに窄めた手のひらの内側で、燻された空気は血生臭かった。
     一服して吐き出した煙のカーテンを透かして、潤輝の背中が見える。コンテナの影、彩度の低い長方形の隅に、ダークグレーのスーツがしゃがみ込んでいる。ダークグレーにときどき墨のような黒が混じる。墨のようなそれは、いまや肉塊と化してビニール袋に静かなそれの液体である。

    「……潤輝」

     久方ぶりに喉から出た音は、うまく声帯を震わせきれずに嗄れていた。海を渡ってくる風の声のほうがよほど響いて、それでも潤輝は手を止めた。瓦礫を握りしめた手は白く、そこにも滲んだ墨色の赤のほうが、よほど生命を感じさせる。

    「袋破れんぞ。もういいだろ」
    「……いいけどさぁ。いいけど」
    「ほら。漁船が戻ってくる。早く」

     環境保全の双葉マークがついた、自然に還るビニールが、裏社会に広く流通していることを業界は知っているんだろうか。空虚な考えに思考を泳がせながら、黒くて丈夫でじき土になる袋の端を掴み、固体と液体の中間みたいになっているそれを引き摺る。コンクリートの端から、海に落とした。どぼん、と大げさな音がして、大げさな飛沫が上がる。視界が濡れる。潮を浴びた前髪を掻き上げようとして、その手の臭いを思い出して、止めた。腕の付け根で額を拭うと、出掛けに振りかけたオーデトワレが不意に百合の花を咲かせる。
     六月の横須賀港は空の白むのが早い。ハコスカの二列目に死体を押し込んだときにはまだ宵の入口だと思ったのに、首都高を飛ばすと後ろから朝が追ってくるかのようだった。腕時計は四時過ぎを指している。夏至の空気は冷え込んでいる。

     潤輝が右手を振りかぶって、汚れた瓦礫を海へほうった。こわばった指からそれはうまく離れずに、同じ色をしたコンクリートの上を数度跳ね、転がって、テトラポットの隙間を落ちていった。今度は大げさなほどに無音だった。

    「許せねぇ。あいつさ」

     影が少しずつ濃くなってゆく。傾いていく暗がりから追い出されて、潤輝の薄い色のグラスは指紋で曇っている。

    「西條さんのタマ狙ってあんなことするとか、有り得ねぇよな。マジ、何ですぐヤっちゃったの。全っ然足りないんだけど。なぁ。殴っても殴っても、足りねぇ、殺したくて」

     怒りに任せて地面を打つ拳は、しかし力ない。心はいきり立っていても、肉体は確実に疲弊している。孝雄は短くなった煙草を灰皿の蓋に擦り付け、もう一本を取り出した。潤輝は孝雄に火を差し出しはしない。当たり前のことだ。孝雄はまた錆びた臭いの傘をつくって、紙巻の先端を燃やした。肺の底まで深く吸い込む。目の前に、二十年前の潤輝の小さな拳を見た。孝雄に打ち付けられる、いたい気で純な暴力の幻想。


     潤輝のこの質は危険だ。孝雄は思う。潤輝のこの苛烈なまでの情深さは、いつか己を滅ぼしていくんじゃないだろうか。
     潤輝は愛情に飢えた子どもだった。孝雄とてそれは同じだが、潤輝は組での日々を過ごすごと、萎れた花が水を与えられるかのように健やかになっていった。親父や兄貴分たちに可愛がられ、護られて、潤輝は懸命にその背中を追った。さながら父親を追う息子のようだった。
     チンピラだったものを飽くことなく殴った潤輝。殴り足りないと口では言っても、きっと西條はそれを望まないし、無駄なことをするなと一喝されるのが目に見えている。それを潤輝も分かっているから、眼前の右手は力なく垂れている。
     だが、靖也や龍也に銃口を向ける者が現れたら。孝雄は肺を引き絞るようにして細く煙を吐いた。そうなったが最後、潤輝はどうなってしまうのだろう。潤輝を前に、自分はどうしたらいいのだろう。


     東の空はいよいよ白い。青く霞んだ茫洋の遠くに二つ三つ、黒い船の影も見える。孝雄は潤輝の脇の下に手を差し込んだ。気合を入れて引き上げたが、潤輝の身体は案外簡単に持ち上がった。

    「帰んぞ。コーヒーでも飲んでいくか」
    「……そうだな」

     掠れた声で潤輝は言った。光のない双眸から顎に続いた道筋を、孝雄は見なかったことにした。
     國崎の親父は最近調子が芳しくない。孝雄と潤輝は近頃こうして、締めや後処理を任されるようになった。一方で靖也は取り立てや事務仕事を一任されて、それが向いているとは思われたが、潤輝は気を揉んでいるらしい。
     龍也はもうじき中学校に上がる。相変わらず孝雄と潤輝を父親のように慕っている。
     鈍いシルバーのスカイライナーの中には、埃とヤニの臭いが息を潜めていた。孝雄の手よりは汚れを知らない。潤輝はジャケットを脱ぎ、内側を下に敷いて助手席に座った。孝雄は潤輝のそういうところに触れるたび、胸を搔きむしりたくて仕方がなくなる。


     ビニール袋の中には、髪や皮膚を剥がれた内側の組織だけが詰め込まれていた。バラされ、殴られて、沈んでゆく。腐敗した組織は瓦解する。
     以前どこかで、剥製の作り方を聞いた。内臓や筋肉はすべて煮崩し、外側だけを鞣して元の形を作る。生きたままのような姿で、内側にははりぼてが詰まっている。
     人間の剝製はできるだろうか。つい数時間前に見たチンピラの姿よりも、顔のない父の影が孝雄の脳裡をひらめいた。
     自分たちにとっての父親とは剝製のような存在だ。親父や兄貴に父を見る。龍也を前にそうあろうとする。父親というものの内側を、誰も知らない。はりぼての人形劇に踊らされている。

     東に向かう国道一号線にはトラックの姿が多かった。グラスを外してチーフで拭う、潤輝の指が震えている。孝雄は自分の手が冷えていることを、車線変更のウインカーを出す時にはじめて知った。



    父親の剝製 完
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    お箸で摘む程度

    TRAINING研究部
    感覚からヴィクターを想起してみるノヴァのお話。
    move movement poetry 自動じゃないドアを開ける力すら、もうおれには残っていないかもなぁ、なんて思ったけれど、身体ごと押すドアの冷たさが白衣を伝わってくるころ、ガコン、と鉄製の板は動いた。密閉式のそれも空気が通り抜けてしまいさえすれば、空間をつなげて、屋上は午後の陽のなかに明るい。ちょっと気後れするような風景の中に、おれは入ってゆく。出てゆく、の方が正しいのかもしれない。太陽を一体、いつぶりに見ただろう。外の空気を、風を、いつぶりに感じただろう。
     屋上は地平よりもはるか高く、どんなに鋭い音も秒速三四〇メートルを駆ける間に広がり散っていってしまう。地上の喧噪がうそみたいに、のどかだった。夏の盛りをすぎて、きっとそのときよりも生きやすくなっただろう花が、やさしい風に揺れている。いろんな色だなぁ。そんな感想しか持てない自分に苦笑いが漏れた。まあ、分かるよ、維管束で根から吸い上げた水を葉に運んでは光合成をおこなう様子だとか、クロロフィルやカロテノイド、ベタレインが可視光を反射する様子だとか、そういうのをレントゲン写真みたく目の前の現実に重ね合わせて。でも、そういうことじゃなくて、こんなにも忙しいときに、おれがこんなところに来たのは、今はいないいつかのヴィクの姿を、不意に思い出したからだった。
    2492

    recommended works

    kosuke_hlos

    MOURNINGあのフレーム観て情緒爆発して寝て起きたら浮かんだので形にしたもの。
    フェイディノというかフェ+ディ。
    クラブの朝仕舞いの邪魔をしないよう、すれ違うスタッフと挨拶を交わしながら出口へ向かう。
    その途中で、最近、よく言われるようになった言葉がある。
    「フェイス、忘れもの!」
    また?
    肩をすくめて返事のかわりにする。
    フロアの隅も隅の方で、身体を丸めて膝の間に鼻先を埋めるようにして眠っている人がいた。
    最近メンターになった先輩ヒーロー。その能力と体勢のせいで、ふさふさの尻尾と耳が見えるようだ。
    現場に復帰してしばらくすると、時折クラブの片隅で、こうしてこっそり丸くなっている姿を見かけるようになった。
    普段陽気な人が、喧騒の中騒ぎもせずに、死角で何をしてるのかと思えば、どうやら寝てるらしい。爆睡だ。
    ブラッドの友達と知って、ああこいつもお節介な様子伺い目的なのかと思っていたが、違った。
    音が無いと眠れないんだよねぇ、といつもの明るい声で、ほんの少し疲れた目をして笑うから。

    「ディノ。ディノ、起きて。置いてくよ」
    「それはヤだ!」

    背中を軽く叩くと、パッと空色の目がフェイスを見上げた。

    「おはよ。昨日はちゃんと聴いた?」
    「昨日だけじゃなくて、いつもちゃんと聴いてるってば」

    大きく伸びを 591

    れんこん

    DONE第12回ベスティ♡ワンドロ、ワンライ用
    フェイビリ/ビリフェイ
    ほんのりシリアス風味
    目の前にひょこひょこと動く、先日見かけた忌々しいうさ耳。
    今日は見慣れない明るく所々にリボンがついた装束に身を包み、機嫌が良さそうに馴染まないタワーの廊下を跳ねていた。
    眩しいオレンジ頭に、ピンと立ったうさ耳はまだいいが、衣装に合わせたのか謎にピンク色に煌めくゴーグルはそのかわいらしさには若干不似合いのように思えた。胡散臭い。そういう表現がぴったりの装いだ。

    「……イースターリーグはもう終わったよね?」

    後ろから声をかけると、ふりふりと歩くたびに揺れるちまっとした尻尾が止まって、浮かれた様子のエンターテイナーはくるりと大袈裟に回って、ブーツのかかとをちょこんと床に打ち付けて見せた。

    「ハローベスティ♡なになに、どこかに用事?」
    「それはこっちの台詞。……そんな格好してどこに行くの?もうその頭の上のやつはあまり見たくないんだけど。」
    「HAHAHA〜♪しっかりオイラもDJのうさ耳つけて戦う姿バッチリ♡抑えさせてもらったヨ〜♪ノリノリうさ耳DJビームス♡」

    おかげで懐があったかい、なんて失言をして、おっと!とわざとらしく口元を抑えて見せる姿は若干腹立たしい。……まぁ今更だからもうわ 3591