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    お箸で摘む程度

    @opw084

    キャプション頭に登場人物/CPを表記しています。
    恋愛解釈は一切していません。

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    お箸で摘む程度

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    ビームス兄弟 ワンライ
    お題「雪」お借りしました。
    ビームス家の架空の使用人目線です。雪に閉ざされた庭の話。

    ##ビームス兄弟

    ひめやかな絵画 ――その日、私が窓辺で遅めの昼食をとっておりましたとき、建物と建物、そしてその渡り廊下に挟まれた静かなお庭は、昨晩から降り続いた雪が束の間の日差しにきらきらと輝いておりました。背の高いハナミズキの枝には小さな氷の雫が震え、しばらく屋内にじっとしていたビオラの鉢は数日ぶりの外の空気に喜んでいます。うつくしい景色が阻まれるのが勿体なく、私はストーブの火を弱め、窓の結露を拭きとりました。木枠のふちに伝う水滴を追っておりますと、その影から窓の景色に飛び込んでくるものがあります。それは、ビームス家の次男坊であられるフェイスさまでいらっしゃいました。
     フェイスさまはクリーム色のダウンに薄水色のマフラーをぐるぐると巻かれ、足元は室内履きのまま、あたらしい雪の上にその小さな足跡を残してゆかれました。私が時計を確認いたしますと、フェイスさまはまだお勉強の時間であられます。私はご子息のことも頼まれておりますゆえ、フェイスさまをつかまえてお部屋にお戻ししなければなりません。けれど、うつくしいお庭にのびのびと遊ばれるフェイスさまを見ていると、その純白は壊れていくのですけれども、うつくしいお庭がいっそううつくしく見て取れまして、私はフェイスさまを止めにゆくのも、スープを飲むのも忘れ、しばらくそのようすを眺めておりました。

     ふと、フェイスさまが何かに気付き、マフラーに覆われた口元から白い靄を揺らめかせ、何か話しておられるようです。見れば、フェイスさまの視線の先にはブラッドさまがおられました。ブラッドさまは紺色のコートを着られて、手元には小さな靴を持っておられます。あれはおそらく、フェイスさまのスノーブーツでしょう。私は自分がフェイスさまのところへ行かなければならなかったことをこの時心づきましたが、しかしブラッドさまがあらわれれば、それが一番よいことであると思いました。ブラッドさまはビームス家の長男坊で、私よりもずっと幼くあられるのですが、そのお人柄はよほど大人のようで、私がお仕えするのも当然のことのように思われます。ブラッドさまが歩いてゆかれると、フェイスさまは走ってその足元に飛びつかれました。ブラッドさまは、きっともう全身濡れておられましょうフェイスさまをとうぜんのように迎え、やさしくその頭を撫でられました。そのまま乱れたお髪を整えたり、マフラーを巻き直したり、室内履きをブーツに履き替えさせたりしておられます。フェイスさまは私どもの申し上げることには反発されることも少なくはありませんが、ブラッドさまにはいつでもすなおであられます。それはきっと、フェイスさまが兄であられるブラッドさまに全幅の信頼を寄せられ、お慕いされているからでもありましょうが、ブラッドさまもまた、フェイスさまを心から愛し、尽くしているからでもありましょう。たっとぶべき兄弟愛のようすが、私の目に、まぶしく映りました。

     ブラッドさまとフェイスさまは、うつくしく輝く午後のお庭で、しばらくの間仲睦まじく遊んでおられました。傾いてきた陽が木立の間をすり抜けて、雪の上に長い影を描いています。空気が冷えてきたのでしょう、ふわりふわりと、軽い雪が舞ってきました。フェイスさまは駆け回って、地面に落ちる前の雪をつかまえようと手を伸ばしています。ブラッドさまはしゃがみ込んだまま、離れていくフェイスさまをいとおしげに見ておられます。お二人とも、私の視線などには、お気づきにもなりません。


     私は暗く冷えた部屋の中から、その景色を見ておりました。窓枠に切り取られ、明るくうつくしいその景色は、私にとってはなんだか、絵画のようにも見られました。



    ひめやかな絵画 完

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    お箸で摘む程度

    TRAINING研究部
    感覚からヴィクターを想起してみるノヴァのお話。
    move movement poetry 自動じゃないドアを開ける力すら、もうおれには残っていないかもなぁ、なんて思ったけれど、身体ごと押すドアの冷たさが白衣を伝わってくるころ、ガコン、と鉄製の板は動いた。密閉式のそれも空気が通り抜けてしまいさえすれば、空間をつなげて、屋上は午後の陽のなかに明るい。ちょっと気後れするような風景の中に、おれは入ってゆく。出てゆく、の方が正しいのかもしれない。太陽を一体、いつぶりに見ただろう。外の空気を、風を、いつぶりに感じただろう。
     屋上は地平よりもはるか高く、どんなに鋭い音も秒速三四〇メートルを駆ける間に広がり散っていってしまう。地上の喧噪がうそみたいに、のどかだった。夏の盛りをすぎて、きっとそのときよりも生きやすくなっただろう花が、やさしい風に揺れている。いろんな色だなぁ。そんな感想しか持てない自分に苦笑いが漏れた。まあ、分かるよ、維管束で根から吸い上げた水を葉に運んでは光合成をおこなう様子だとか、クロロフィルやカロテノイド、ベタレインが可視光を反射する様子だとか、そういうのをレントゲン写真みたく目の前の現実に重ね合わせて。でも、そういうことじゃなくて、こんなにも忙しいときに、おれがこんなところに来たのは、今はいないいつかのヴィクの姿を、不意に思い出したからだった。
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    れんこん

    DONE付き合う事について雑談するベスティのお話
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    「……なんだかご機嫌だね。」

    談話室で何やらるんるんと楽しそうに大きな声で鼻歌を歌うビリー。
    手元にはいつもハニーと呼ぶ、髪色と同じようなスマホがあって、その画面を手袋をつけた細身の指が辿っていく。
    特に用事もないので、隣に座ってどうしたの、と尋ねると、ビリーはにやりと笑って特徴的な八重歯を見せつけてきた。

    「みてみてDJ〜、昨日撮ったコレが今バズってるんだヨ♡」
    「……え、何…って、昨日寄ったカフェでビリーに隠し撮りされたやつじゃん…。」
    「やっぱりDJが被写体だと反応スッゴイんだよネ〜♪」

    ビリーが見せつけて来たのは俺が頼んだドリンクをただ飲んでいるだけの写真だけれど、たしかにやたらと反応が来ている様子だった。
    ……勝手に載せるなんて、と何度か言ったけど、ビリーは聞きやしないし、実害も特段無いからまぁいいかと今回は不問にする。
    ついでに自分のスマホもチェックすると、山のような彼女からのメッセージ通知の中に、同じようにエリチャンの通知も大量に混ざっていた。

    「……あ、なんか俺のやつも一緒に伸びてる。俺のは最新のショコラドリンクを撮っただけなん 4400