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    お箸で摘む程度

    @opw084

    キャプション頭に登場人物/CPを表記しています。
    恋愛解釈は一切していません。

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    お箸で摘む程度

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    0(連載 ビリー中心・CP要素無し)

    ##平面上のシナプス

    平面上のシナプス0

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    この物語はフィクションです。
    実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。


    ――――――――



     それが、一番初めに目に入ったものだった。続いて、四色の風車みたいなマークと、花が開くみたいなモーション。何が書いてあるかを認識する隙も無く、それらはすぐに消え去って、瞬時に暗くなった画面には百万ドルの夜景が反射した。
     一体何だったんだろう、確認するのを妨げるように、横断歩道の信号が青だ進めと主張する。ハイハイ、分かりましたヨ。交差点の先はエリオスタワーのふもと、そのセントラル大通りの片隅に、ぽつんと人影があるのが目に入った。ア、目が合った、あれは司令だ。

    「今日もスクープが大量大量~♪ 寝る前に情報の整理をしなくちゃネ」

     こんな時間に出くわして、何だかちょっぴり決まりが悪い。ルーキー研修も一年が経過し、俺の素行なんてとっくに知れてはいるだろうけど、何故かこの司令に対してはいろいろと言い訳がましい台詞を吐かずにはいられないのだ。情報屋の仕事をしてきたことと、今すぐ帰らなきゃいけないこととを両方混ぜこぜに伝えてみると、司令はおもむろに手を伸ばし、俺の左胸のあたりに触れてきた。堅い感触が俺にも襲って、当然、胸ポケットは不意の瞬間に備えて、いつだって仕掛けを潜めている。

    「いつでも期待に応えられるよう、常にマジックのタネは仕込んでおかないと……☆」

     アハハ、バレちゃったかなァ。そんな風に茶化してみると、司令は満足したのかやっとのことで去っていった。ほっと胸を撫で下ろす、これでようやくタワーに帰れる。エントランスに向けたその動線を断ち切るようにして、突然、目の前にホログラムのジャックが現れた。
    『エマージェンシー、エマージェンシー。カーマインストリート付近にサブスタンスが出現しマシタ――』
     オーノー! 何というバッド・タイミング。 仕方なく踵を返して南方向へ駆け出しながら、右耳にインカムを装着する。途端に切り替わるヒーロースーツは、何故か探偵仕様だった。これって結構前の衣装なんですケド。どういう仕組みか、ヒーロースーツはその時その時でさまざまなバージョンになり、季節も状況も自分の意志も関係なしに装備される。まあ、新しい衣装はしばらく連続で着ることが多いし、あそこでの戦闘はあの服が多いナとか、場合によって傾向はあるけれど。多分、何かしらの相性で、司令が指示を出しているのだろう。よく知らないけれどそのあたり、ヒーローは司令に言われるがままだ。ハイテクノロジーの全貌も知らされないまま、結局俺たちは実働部隊でしかない。
     そんなことを考えている間に、カーマインストリートが見えてきた。あそこにいるのはディノパイセンと神父の恰好をしたレンレン、それから海賊姿のアッシュパイセンが、道の反対側から走ってくる。ちぐはぐなメンバーが四人揃うと、目の前にサブスタンスが現れた。戦闘開始の合図だ。


    「オラッ、覚悟しな……!」

     アッシュパイセンの繰り出した技を受けて、バトンタッチするように走り込む。良いカウンターだ。ストリングスで動きを抑え込んだら、ディノパイセンの構える方にコンタクトを送る。ここも上手く連携が出来そうだ。

    「ディノパイセン、お願い!」
    「ラジャ!」

     鋭利な爪が一閃して、ピラミッド型のサブスタンスが無事に確保される。ふと見れば、レンレンはたった一人で攻撃を仕掛け、こちらに見向きもしていない。アッシュパイセンの先制攻撃、その裏をついた俺のサポート、ディノパイセンのとどめの一撃。レンレンが単独で銃弾を放つ。どことなくルーティンワークのような一連の動きが、頭で考えるまでもなく身体で勝手に行われてゆく。
     そんな風に戦闘を続けて、サブスタンスはたまの反撃以外に何を引き起こすこともなく、無事に一式回収された。俺っちにかかれば、どんな事件も即解決! これでやっと一日の仕事が終了だ。

     こんな夜中から外で遊ぶようなメンバーでもない。急に閑散とした気がする夜更けのレッドサウス、充足感も相まって、どうせ同じ部屋に帰るのであろうパイセンに擦り寄ってみる。

    「ふぅ、俺っち頑張りました! アッシュパイセン、褒めて~」
    「うるせぇ、その口閉じろ! 殴るぞ!」

     いつも通りの掛け合い、でも何となく今のパイセンはトゲトゲしてる感じ? こんな時はすかさずディノパイセンが間に入ってくれるだろうと思ったのに、ひとり通常ヒーロースーツの尻尾が揺れるばかりで何も言って来なかった。レンレンは言わずもがな、一人でタワーへの道を歩き始めている。
     このままじゃレンレンが迷子になっちゃう、ここは四人で帰路に着くのがいいだろう。平穏の訪れた通りを見渡し、俺たちは揃ってその場を立ち去った。


    ////////


     という一連の行動が、画面の中で行われていた。俺は端末をスリープさせて、壁側に向き直ると深く息を吐いた。
     身体が震える。手に汗が滲む。信じ難い仮説を前に、脳が拒否反応を起こしている。

     今目の前で繰り広げられたものは、確かに、俺たちが幾度となく経験してきたことそのものだ。謎めいた人選、脈絡のない衣装、不自然に佇む敵の姿。特定の連携、特定の台詞、特定の会話。手元の液晶には編成画面が映されている。ヒーロースーツのディノパイセン、神父の恰好をしたレンレン、海賊衣装のアッシュパイセン。それから、探偵衣装を着た俺。リンクスキルなる文字列。レンレンのカードに表示されたノースの三人の顔。タップしたら、研修メンバーのさまざまな衣装が一覧になって映し出された。慌てて前の画面に戻る。
     バックを押して、押して、辿り着いたのはホーム画面。情報が氾濫するその背景は、セントラルスクエアふもとの大通り、そこに、俺が一人で立ち竦んでいる。

    『今日もスクープが大量大量~♪ 寝る前に情報の整理をしなくちゃネ』

     ああ、俺の声がする。司令に放ったこの台詞、つまりはこの場で司令とは俺、すなわち〝画面の外の存在〟のことだ。


     端末をスリープさせて再び開くと、画面はホワイトアウトして消えていた。今しがた液晶の中で笑っていたはずの俺の顔が、ガラスに青ざめて反射している。夢でありますようにと咄嗟の祈りは、唱える前から打ち消された。
     この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。それが、一番初めに目に入ったものだった。続いて、四色の風車みたいなマークと、花が開くみたいなモーション。続いて現れた文字列、おそらくはこの〝物語〟のタイトル、

    「エリオスライジングヒーローズ……」



    (続)
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    お箸で摘む程度

    TRAINING研究部
    感覚からヴィクターを想起してみるノヴァのお話。
    move movement poetry 自動じゃないドアを開ける力すら、もうおれには残っていないかもなぁ、なんて思ったけれど、身体ごと押すドアの冷たさが白衣を伝わってくるころ、ガコン、と鉄製の板は動いた。密閉式のそれも空気が通り抜けてしまいさえすれば、空間をつなげて、屋上は午後の陽のなかに明るい。ちょっと気後れするような風景の中に、おれは入ってゆく。出てゆく、の方が正しいのかもしれない。太陽を一体、いつぶりに見ただろう。外の空気を、風を、いつぶりに感じただろう。
     屋上は地平よりもはるか高く、どんなに鋭い音も秒速三四〇メートルを駆ける間に広がり散っていってしまう。地上の喧噪がうそみたいに、のどかだった。夏の盛りをすぎて、きっとそのときよりも生きやすくなっただろう花が、やさしい風に揺れている。いろんな色だなぁ。そんな感想しか持てない自分に苦笑いが漏れた。まあ、分かるよ、維管束で根から吸い上げた水を葉に運んでは光合成をおこなう様子だとか、クロロフィルやカロテノイド、ベタレインが可視光を反射する様子だとか、そういうのをレントゲン写真みたく目の前の現実に重ね合わせて。でも、そういうことじゃなくて、こんなにも忙しいときに、おれがこんなところに来たのは、今はいないいつかのヴィクの姿を、不意に思い出したからだった。
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