オベロン無惨「立香、おい立香」
「マスターちゃん、呼んでるよ~」
不平そうに唇を曲げるオベロン・ヴォーティガーンのことは無視したかったが、はじめちゃんからも声をかけられたら聞こえないふりはできない。
「どうして俺が骨拾いなんかに来なきゃいけないんだ」
「それはあんたがNPチャージ要員だからだよ」
コートをはためかせて疾風のようにスケルトンへ踊りかかる土方さんをうっとり見ながら、スーツ姿のはじめちゃんは言ってはいけないことを言う。
「ちょ…」
「そうさ、それは俺もわかってるさ」
オベロンは肩をぷるぷると震わせた。
「俺のスキルがサイトーを喜ばせることだけに使われてるのが我慢できないんだよ!」
「ここが! 新! 選! 組! だぁぁぁっ」
「いやぁいつもお世話になっております」
オベロンの言葉尻を消すほどの土方さんの号叫に、はじめちゃんはでれでれとやに下がっている。明らかに鼻の下が長い。
「開き直るな! 本当にタチが悪いな汎人類史!」
オベロンは頭を抱えた。
そもそも今回のレイシフトは、はじめちゃんのスキルレベルを上げるのに必要な狂骨一〇八本を集めるために行われているものだ。はじめちゃんは自分が消費するものだからと立候補して、土方さんはごく自然に「ここは新選組が引き受けた」と言ってくれた。オベロンは逃げる前に二人がかりで確保された。
周囲のスケルトンたちが一掃されたので、わたしは使えそうな骨を拾う。土方さんとはじめちゃんは、燃え盛るビルの陰に固まっているスケルトンの群れを見つけたようだ。
「斎藤、星」
「はいはいっと」
土方さんの最低限の言葉での命令に、はじめちゃんはスキル『抜刀自在』でクリティカルスターを振り出して土方さんに渡した。
「足んねぇな」
「ほら、オベロンちゃん、あんたも星」
土方さんとはじめちゃんの視線に、オベロンは顔を引きつらせる。
「…オベロン、令呪をもって命じる、『朝のひばり』で自分にNPチャージお願い」
「あーっめんどくさい!」
召喚に応じたサーヴァントはその特性上、マスターの令呪での命令には逆らえない。オベロンは心底うんざりという口調でスキルを発動させた。もちろん生まれたスターは、『局中法度』でスター集中率を上げた土方さんの懐へと入る。
「ありがとさん。マスターちゃん、僕の骨あと何本必要?」
わたしは手許の骨を数える。
「あと三十五本だね」
「半分は超えたね。じゃぁ行きますか、副長…ってあれ」
はじめちゃんの言葉を聞く前に、土方さんは既にありったけのスターを持ってスケルトンの群れへと吶喊(とっかん)していた。
「待ってくださいよ副長~あークリティカルからエクストラチェイン決める副長バチクソにかっこいい~」
「立香、俺も宝具を撃つぞ、いいな? あいつらの獲物を一体でも減らしてやる…」
普段は汎人類史に協力的ではないオベロンも、さすがに腹に据えかねているらしい。どんな心持ちであれ、戦力になってくれるならわたしも嬉しい。
明日もこの編成で来よう。