仮面セイバーと「斎藤」
「はいはい、星ですね」
土方さんの無言の要望に、はじめちゃんは間違えることなく応える。
今日はランサークラスのエネミーを相手にした素材集め周回だ。最近聖杯を受けて強さが増したはじめちゃんは優先的にパーティーへ組み込み、はじめちゃんの与ダメージが100%上がるので土方さんにも同行をお願いした。またオベロン・ヴォーティガーンがストライキを起こしたため、今日はサポートとして蘭陵王に来てもらっている。
「仲睦まじいことですね」
蘭陵王はしみじみと言う。
土方さんにNPをチャージし、パーティー全体のArts攻撃力を上げ、とどめに美貌の宝具で二人の士気を上げた蘭陵王には、わたしの守りをお願いしている。
一応、はじめちゃんと土方さんの仲は公言されていない。ただわたしは『けじめ』として報告を受けたし、何人かの目ざといサーヴァントは気づいているようだ。蘭陵王もその一人らしい。
「主従にして恋仲…私は生前、部下にも心を開けなかったので、とてもうらやましく感じます」
「蘭陵王の性格なら、慕われたんじゃないかな?」
わたしの言葉に、蘭陵王は淋しげに笑った。
「この貌(かお)は人を惑わせます。相手が私という人間を慕っているのか、この貌に惹かれているのか、私にはわかりません。人間として信頼を置かれていると思った相手から裏切られるのは…とても、つらいです」
召喚時につけていた物々しい仮面は、蘭陵王の心の鎧だった。今はマスターとサーヴァントとして心を許してもらっているはずだけれど。
「ですから、土方殿と斎藤殿の阿吽の呼吸は、見ていて清々しいものがあります」
わたしたちから少し離れたところで戦っていたはじめちゃんの「んじゃま、下がってなマスターちゃん」という声が聞こえた。宝具を撃つのだ。蘭陵王は半歩前に出て、わたしの盾になった。その背中に向かって、わたしは語る。
「わたしは蘭陵王のこと信じてるよ。こうやってわたしを守ってくれるし」
「恐悦至極」
顔は見えないけれど、その声からは喜びが伝わってくる。
顔なんてあってもなくても、蘭陵王の人柄はわかってもらえる。そのことをもっと誇りに思って欲しい。
「新選組、出るぞ」
遠目にも満身創痍の土方さんも宝具を撃つ。あれはめちゃくちゃダメージが入りそうだな…。
周囲の敵を殲滅し、はじめちゃんが土方さんに肩を貸して戻ってくる。
「おかえり」
「おかえりなさいませ」
「蘭陵王、マスターちゃんを守ってくれてありがとさん。マスターちゃん、副長を治してくれる?」
言われなくても。礼装の力を借りて土方さんに癒しを送る。鈍い光が放たれて、土方さんは自分の足で立てる程度に回復した。
「よし、次行くぞ次」
「ちょっとあんた、まだやるつもりですか」
「まだガッツは剥がれてない」
「あーもう、行きましょう! どこまでもおつき合いしますよ!」
無茶を言う土方さんに、はじめちゃんは根負けした。
「マスターちゃん、蘭陵王、大丈夫?」
「そりゃ、わたしは助かるよ」
「私はマスターに従います」
わたしたちの言葉にはじめちゃんは笑顔を見せて、さっさと先を行く土方さんの後を追いかけた。
「行こう、蘭陵王。わたしにはあなたも必要だよ」
素顔の目を見て言えば、蘭陵王もにっこりと笑った。
弱体無効礼装はつけたくない。人としてわたしを信じようとする蘭陵王を裏切ることになるからだ。なんとか意志の力で耐えなければ。またマスターとしての試練を感じて、わたしはお腹に力を入れた。