一番綺麗な星は赤い瞳だけれども友達に約束をドタキャンされた。腹は立つが、うだうだしても手持ち無沙汰な時間がなくなるわけではない。映画館の時間を調べるものの、見たい映画とはタイミングが合わない。ひまつぶしの手段を検索していたら、近くのビルにプラネタリウムが入っていることを知った。映画よりも上映時間が短く、時間の融通が利く。プラネタリウムなんて、小学校の課外授業以来だ。
チケットを買ってプラネタリウムに入ると、ちょうどいい空調の効いた円形の室内にリクライニングシートが等間隔に並んでいる。天井を見られるように背もたれを倒す。
照明が落ち、満天の星が輝きだす。もちろんこんな空は、東京ではとてもお目にかかれない。
この季節の星や星座について、柔らかい男性の声がしっとりと教えてくれる。三つ星が目を惹くオリオン座や、カストロとポルクスからなる双子座が、わけもなく懐かしい。他にもいくつかの星座の見つけ方を聞いた。
照明が点き、意識が昼の東京に連れ戻される。僕はWi-Fiのあるカフェに入り、まずはメッセージアプリを立ち上げた。
『土方さん、僕と、星見に行きませんか?』
『どうした、藪から棒に』
ちょうど仕事の手が空いていたらしい。即レスに気をよくして、僕は続ける。
『土方さんと綺麗なもの見たくなって。できれば冬のうちに』
『急だな』
『忙しいです?』
『まぁ…一泊くらいならなんとか』
やった。
『どこか、空気の綺麗なところで。僕、調べます』
『任せる。日程はいくつか候補を出す』
歳下の彼氏だからと甘やかしてくれているのではないかという危惧もないでもないが、基本都合の悪いことや嫌なことはそう言ってくれる。
スマホで『星 綺麗』という曖昧な言葉で検索しても、検索エンジンは目当ての言葉を見つけてくれる。
この季節だと、山奥では雪が降っている。ほどほどに人里離れた場所を探すと、いくつか候補が見つかった。
車を借りて、高校卒業前に取った普通免許を役立たせて。車中でご機嫌な音楽を流しながら、とりとめのない話をして。
何よりも、好きな人と綺麗なものを見たい。歳を取った時の思い出が欲しい。もちろん、二人で語り合うための。
自分の上機嫌に気づかないまま、僕は計画を組み立てていく。いつもよりもコーヒーがおいしい。