冬の星空と僕の恋人くったりした土方さんの身体を簡単に清め、情事に火照った頭を冷やすため、スウェットとフリースジャケットを着込んでベランダへ出た。冬は空気が澄んでいて、夏よりも星がよく見える。空気が汚いとか街の光が強すぎるとか言われていても、本当に美しいものはそんな試練に負けず僕らの許へ届くのだ。
遠い遠い恒星が何百年、何千年も前に放った光のことを考えていたら、突然視界が白くけぶった。
「わっ」
驚いて振り返れば、スウェットの上にカーディガンを羽織った土方さんが、煙草を手に立っていた。
「どうした、変な声出して」
僕はとりとめのないことをコンパクトに言語化しようとして五秒考え、諦めた。その代わり、
「身体、大丈夫ですか? どこか痛くないです?」
変なプレイはしていないとはいえ、最中はどうしても自分を省みられないから、無理や無体を強いたのではないかと不安になる。これも本当のことだ。
土方さんは、
「きつくなくはねぇが、煙草吸いたくなってな」
と言って紫煙を吐き出す。また、星空が不透明になる。
まるで煙に覆われることで、ここから見える空が――僕の視界が簡単に土方さんのものになったかのような錯覚を覚える。
もし土方さんが何も考えずただ煙草を吸っているだけだとしても、僕はその感じ取り方を悪くないと思ってしまった。
そんな風に支配されると、甘い束縛感が呼び起こされる。好きな人から縛られるのは、案外心地いい。
灰皿代わりのコーヒー缶に吸殻を落とし、土方さんは僕の肩を抱いた。
「寒くねぇか」
「寒い、ですね」
僕もその身長に比べて細すぎる腰に腕を回す。
「戻るぞ。一人でベッドにいても寒くてしょうがねぇ」
半ば僕を抱きしめたまま、土方さんはベランダから部屋に戻ろうとする。僕も歩調を合わせて掃き出し窓を開け、僕らは吸い込まれるようにベッドへ倒れ込んだ。土方さんは足許にわだかまっていた羽毛布団を長い脚で引き寄せ、僕を巻き込んでかぶる。
僕という抱き枕兼湯たんぽに頬を寄せ、目を閉じて気持ちよさそうなにしている人の顔は、普段ほど歳の差を感じさせない。
僕の視界さえ支配してしまう無意識の傲慢さと、目が覚めたら隣に僕がいなくて寒く淋しく感じる無意識の甘えは、土方さんの中で矛盾なく並び立っている。
つくづく、深い沼にはまってしまった。
それがまったく不快ではないという何十回めかの気づきを得て、つい苦笑いが浮かぶ。
うっすら赤い目を開けた土方さんが、八割がた夢の世界に落ちた人の声で、
「へらへらしてんなよ…」
僕の首筋を甘く噛む。
外ではあれほど男らしくて恰好いい土方さんが、僕の腕の中では婉然と身をくねらせ、また末っ子モード全開になる。
この世で今のところ僕だけに与えられたギフトだ。
望外の幸運を噛みしめながら、僕は黒い癖毛を指で梳く。規則正しい寝息が聞こえてきた。