守将(オジサンの方)と食堂で、蕎麦と沢庵定食の乗ったトレイを持って歩いていると。
「よぅ、彼氏」
この人物がそう呼ぶのは僕のことだ。振り向くと、ヘクトールが椅子の上であぐらをかいていた。喫煙所でもないのに煙草は…と思ったが、よく見ればくわえているのは棒つきの飴だ。
「朝食デリバリーか? 毎日熱烈だねぇ、立派立派」
「はぁ、まぁ」
曖昧に返すが、ヘクトールは構わずにやにやしている。
僕たちは二人の関係を公言していないが、この目ざとい驍将は、僕が甲斐甲斐しく副長の世話をしているところを見かけているらしい。正直愉快ではないが、余計な波風を立てて他の好色なサーヴァントたちに副長の魅力を見つけられるのも避けたい。
「若いねぇ、オジサンにはとうてい真似できんよ」
と言うが、この自称オジサンが年若いライダー二人を惑わせていることも、目ざとい者は知っている。始終腰痛を訴えているのも故のあることなのではないか、と僕などは穿った見方をしてしまう。
「お前さんのいい人は朝から沢庵で飽きないのかね」
「蕎麦伸びるんで、行きますよ」
「はいよ、また喫煙所でな」
手を振るヘクトールの視線を振り切って、食堂を出る。
副長に手を出すことはないだろうが、韜晦が得意な食わせ者という点では僕と同類である。あまり気を許してはいけない。
部屋へ戻ると、副長はベッドから上体を起こして待っていた。首筋や肩や胸に散らばる情交の跡が無惨だ――全部僕がつけたのだけど。
僕はサイドテーブルにトレイを乗せ、箸とご飯茶碗を差し出した。
「いただきます」
僕は無駄に元気な声で、副長は心もちかすれた声で。沢庵の咀嚼音と、蕎麦をすする音が部屋に響く。
「今日の予定は」
「僕ら二人ともオフです。地下菜園まで大根掘りにでも行きます?」
「悪かねぇな」
副長は、長いつき合いの者にしかわからない上機嫌さを見せる。
「じゃぁ野良着出しとくんで、持ってきましょ」
僕の言葉に副長はうなずき、味噌汁をすする。
地下菜園は、その響きよりもずっと広い。本物に限りなく近い陽光もある。空間に作用する魔術を使う魔術師や、太陽系サーヴァントが関わっているのかもしれない。
済んだ食器を返すついでにエミヤに二人分のおにぎりもお願いしよう。沢庵という報酬のために身体を動かすのは楽しいことだろう。
「そういうことなら、首筋もっと遠慮するんでしたね」
「別に誰も気にしねぇだろ」
「僕が気にするんです」
うさんくさい自称オジサンのことも忘れ、僕たちは一日の予定を決める。実にさわやかな朝だ。