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    すばる

    ヒッジとなぎこさんが好きです。

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    すばる

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    よくわからないテンションで書いた、続きの斎土です。需要はわたしにあるという気持ちで書きました。こういうカプほんと手癖です、すみません。もっとクールでカッコいい斎土を書きたい。

    #斎土
    pureLand

    荷物は荷物でいたくない 土方さんを支えて――なかば担いで歩いて、最寄り駅に着いた。改札へと促そうとしたら、土方さんは歩みを止めた。
    「今電車乗ったら吐く」
    「だっ、大丈夫です?」
     心配すると同時に、途方に暮れた。この、明らかにいつも通りではない人を、どうやって家に送ればいいのか。
    「タクシー乗るぞ」
    「僕、乗ったことないです……」
    「駅前なら、乗り場があるだろ。そこで待ってりゃ向こうから来る」
     初めての体験に、僕の心拍数は上がる。土方さんの体調がこれ以上悪くなったら……という不安もある。
     タクシー運転手には、たまに悪質な者もいるという。こちらを若造と舐めてかかるような人を捕まえてしまうのが怖い。
     不安を感じながら、乗り場に並ぶ。次々と到着したタクシーがお客さんを乗せて去り、僕らもほどなく後部座席に収まることができた。
     土方さんは思ったよりも意識レベルが高く、タクシー運転手に住所を告げた。何度も訪れ、夜を越え、朝食を食べた部屋の所在地を、僕は初めて知った。
     タクシーが走り出すと、土方さんは窮屈そうにシートベルトを締め、背もたれに身体を預けた。
     先ほどの、坂本さんの奥さんの言葉が頭をよぎる。僕は思い切って訊ねてみた。
    「僕は……土方さんのお荷物なんですか?」
    「あん? 何言ってんだ、お前」
     はぐらかされた。
     最初から、釣り合わないと思っていた。ありえないと思っていた。こんなにカッコいい、大人の雰囲気をかもし出す人が、僕なんかのことを好いてくれるなんて。
     僕の一目惚れだった。会うたびに口説いて、拝み倒して、僕は土方さんの言質(げんち)を取った。
    『抱かれる方』を選んでくれた土方さんに、僕はひたすらがっついた。これ以上は無理だ、と訴えられても、強引に続けることもあった。
     土方さんの方が収入が多いからと、しばしばおごられた。『ランクの高い』店に連れて行かれると、僕でも手が届くファストフードやファミレスでおごるのも気が引けた。
     なぜ、土方さんは僕と一緒にいてくれるのか。
     無様に恋する僕を見て、誰かと笑っているのだろうか。
     僕は最悪な想像をする。その誰かに抱かれながら、土方さんは僕の醜態を話す。
    『あいつ、本当に下手くそでよ。そのくせ弾数だけは多いんだから参るぜ』
     誰かとの行為中、色気のある低い声が僕を嘲っているのさえ聞こえる気がした。
     妄想に情緒をぐちゃぐちゃにされていたら、土方さんのマンションに着いた。
     運転手から金額を示されて、はっとした。僕には手持ちがない。先ほど、虎の子の四千円を坂本さんに渡してしまった。
     途方に暮れていると、シートベルトを外した土方さんが財布から現金を出して運転手に渡した。小銭のお釣りを断って、タクシーから降りる。
    「部屋まで連れてけ」
     土方さんはまだまっすぐ歩くことはできないようで、僕はまた肩を貸し、腰を抱いた。
     それにしても、細い。僕より上背があるのに、僕より痩せている。原因は、沢庵と白米ばかり食べているせいだ。節約のためでなく、ただ好きだからというのがまた業深い。外食ばかりでも栄養が偏るものだが、この人の場合は外食してくれた方がよほどありがたい。
     あらかじめ教えられている暗証番号でオートロックを解錠し、エレベーターに乗る。
     狭い密室を、沈黙が支配する。土方さんは体調不良のせいだろうが、僕は積極的に何かを喋る気持ちになれない。
    『荷物』
     その言葉が、頭の中をぐるぐると回る。
     好きな人が、僕を負担に思っている。そのことを、自ら友人たちに明かした。
     僕の方から関係を絶ってしまおうか。嫌われていることがはっきりする前に。
     しかしそれができれば苦労はない、と腕で抱いている腰の細さを感じて思う。
     エレベーターを降り、持たされている合鍵で土方さんの部屋に入った。三和土に座らせて、大きな靴を脱がせる。座る姿勢を維持するのも難しいらしく、壁にもたれて苦しげな息を吐いている。
    「ソファがいいですか?」
    「ベッドだろ、莫迦」
     うぐ、と言葉に詰まる。
     ベッドには行きたくなかった。
     しかし病人(正確には少し違うが)にとっては、より楽になれるベッドの方がいいに決まっている。
     この家では、2DKの奥の部屋を寝室にしている。寝室にたどり着いて、僕は長駆をベッドへ横たえた。土方さんは自ら仰向けに転がった。
    「……じゃ」
     今の精神状態で、二人きりになりたくない。立ち去ろうとした僕に、土方さんは声を投げた。
    「帰るのか?」
     耳を疑った。帰って欲しくなさそうな響きを感じたからだ。
     そんな、ありえない、僕は『荷物』なのに。
     しかし、そう命じられたら、僕は従わざるを得ない。
     ――いや、それは欺瞞だ。
     命令を言い訳にしている。本当は残りたいのに、うだうだと自分に言い聞かせて、意志を抑えつけようとしていた。
     こうして許しを得れば、自己嫌悪を放り投げて嬉々として残る。
     勝手な男だ。『荷物』と思われるのもしかたない。
    「こっち来いよ。首許が苦しい」
     土方さんが求めていることを察して、いっぺんに体温が上がる。
     僕はベッドへ上がり、両膝で細い腰を挟むようにまたがった。差し出された首に手を伸ばし、少しだけくたびれたワイシャツのボタンをひとつずつ外していく。アンダーシャツを着ない主義の土方さんの胸板が、僕の手によって暴かれる。相変わらず血色が悪くて、細い。
    「下も」
     僕は夢遊病者のように身体を動かし、ベルトを緩め、スラックスのボタンを外した。
     頭に血が上るなんてものではなくて、今すぐにでもあらわになった喉仏に噛みつきたくなる。
     しかし、土方さんはそんな僕を言動でたしなめる。
    「洗面器持ってこい。念のためだ」
     風呂場へ行って、洗面器を持って戻ると、土方さんは身体を右に向けて背筋を丸めていた。
    「……大丈夫ですか」
    「お前の方が大丈夫か」
     え?
     言葉の意味がわからず、思わず赤い瞳を見返す。
    「酒も飲んでねぇのに、ひでぇ顔してる」
     僕は思わず自分の顔に手をやった。
    「何くだらねぇことで悩んでやがる」
    「くだらなくなんてないです!」
     反射的に言い返していた。
    「聞いたんですよ、俺があんたの『荷物』だって。俺、負担になりたくないのに……俺、まだまだあんたと比べたらガキだし、もっと頼れるいい男になりたいのに……」
    「それがくだらねぇって言うんだ」
     土方さんは、少し苛立っているようだった。
    「俺がてめぇに合わせてるとでも思ってるのか」
     僕はまた言葉を失った。
     だって、そんなの。
    「俺、あんたのこと口説いて、それであんた、俺とつき合うことになって……だから、だから」
    「俺が泣きつかれて同情で抱かせるような男に見えるのか」
     僕は口をつぐんだ。そんな人なら、そもそも好きになっていない。
    「『荷物』って言ったのは誰だ」
    「坂本さんの奥さんです」
    「あぁ、あの嫁か。あいつぁちっとんばい言葉がおかしいところがあるからな……」
     横向きで寝転がったまま、土方さんは微笑んだ。昼間見せるうっすらした微笑ではなく、ベッドでの僕を挑発する笑みでもなく、慈愛の籠もった優しい顔だった。
    「俺は案外、荷物を背負(しょ)って歩くのが苦じゃねぇらしい」
     それって。
     土方さんは、右手を僕の頭に伸ばした。青灰色の髪を、くしゃくしゃとかき混ぜてくれる。
    「言った通りの意味だ」
     僕は思わず、横たわった長駆に抱きついた。しかし土方さんは、
    「俺が最中に吐いていいなら抱け」
    「……ごめんなさい」
    「背中が寒いからあっためろ」
     お泊まりのOKが出た。
     実のところ、この家には僕の着替えも歯ブラシも専用バスタオルもある。急な泊まりにも臨機応変に対応できる。
     しかし、あまり甘えては、また荷物になるのではないか。そんな僕の危惧を見て取ったのか、
    「言ったろ、荷物背負うのは嫌じゃねぇって」
     僕は大人しくシャツとジーンズを脱ぎ捨て、肉の薄い背中に密着した。
    「あったかいです?」
    「悪かねぇ」
     背中から抱きついて、いろいろなことを考える。
     朝ごはんはどうすればいいだろう。僕が動かなければ安定の沢庵コースになるだろうから、少し早起きしてコンビニへ走ってサラダやスープを買うべきだ。
     けれど、この身体から離れられるだろうか。この、全身で僕を気持ちよくしてくれる人から。
    「当たってんぞ」
     土方さんが、愉快げに笑う。
    「あっ、すみません、そんなつもりじゃ」
    「今夜は我慢しろよ」
     何の気なしに発された言葉だろうとは思うが、僕は勝手に含意を汲み取ってしまう。今夜でなければ――。
     愚かな僕に、土方さんはますます苦笑した。
    「硬くしてんじゃねぇよ」
     低く、色っぽい声。
     この人に手を出さずに朝を迎えられるだろうか。
     期待と不安を持て余しながら、僕は愛しい人を抱きしめる。
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