触られたいのかな?バイトはほどほどにして勉強しろ、と土方さんにはよく言われる。
しかし、来年の土方さんの誕生日までに、少しでもお金を貯めておきたい。どんなことを望まれてもいいように、頼りがいのある彼氏だと思われるように。
そんなわけで、僕はカフェでベテランバイトさんの作ったラテアートを運んだり、キッチンでひたすら洗いものをしたりと、せわしなく働いている。
特にこの季節、洗いものをするとてきめんに手が荒れる。皮膚が乾いてがさがさになり、爪の下にささくれができる。日常生活を送る上でも気になるし、水を使うとしみる。安いハンドクリームを使うものの、とうてい追いつかない。
先週、ベッドで身体をまさぐった時、土方さんはかすかに、しかし確実に不快そうな顔をした。だからといって萎えはしなかったが、終わった後に『今後しばらく触るのはやめよう…』と反省をする程度には落ち込んだ。
金曜の夜、僕は例によって土方さんの小綺麗なマンションを訪れた。
僕がいれば、沢庵以外のものを食べてくれる。今日は二人で中華のテイクアウトを取った。
洗いものをする必要もない。空いた容器をまとめて袋に入れて縛り、土方さんはビールを、僕は甘いサワーを飲む(正直、ビールは苦い。土方さんの唇越しに味わうと大人の味を感じられて好きなのだが)。
ほどよく酔いが回ってきた頃、土方さんは一度寝室に下がり、おしゃれなクラフト紙の包みを持ってきた。
「やる」
「なんです?」
「開けてみろ」
好きな人からのプレゼントなら、基本的には何でも嬉しい。選ぶ時に僕のことを考えてくれているのがわかるからだ。
お言葉に甘えて、銀色のシールを剥がして中身をテーブルに出す。爽やかなミントとお茶の香りが僕の周囲を包む。
スライムを切って伸ばしたような、傷の治りの早い絆創膏と、ハンドクリームが入っていた。ハンドクリームは僕の使っている安物とはパッケージのたたずまいから違い、同時に男が持っても違和感がないほどシンプルだった。
「ありがとうございます、嬉しい…」
「手、荒れてるだろ」
感激で少し目を潤ませる僕とは違い、土方さんはあくまで涼しい顔で僕を見る。
「先週、お前にしては触ってこなかったからな」
その言葉に、一拍遅れて感情を動かされる。
確かに、土方さんに嫌な顔をされてからは、スキンシップには慎重になった。男らしい手に触れるのも気が引けたし、端正な顔に手を伸ばすなんてとんでもない。僕は服の上からしか土方さんに触らなかった。
「風呂入ったら、よく塗り込んどけよ。絆創膏は明日の朝でもいいかもしれねぇが」
土方さんは、少しだけ挑発的に笑った。ベッドで見せるぎらつきを、ほんのわずか灯りの下で漏らすような。
下半身に来た。
「そういう風に受け取って、いいんですか」
「好きなように受け取っとけよ」
白い歯を見せる土方さんは、暖色の蛍光灯の下でも抜群にエロい。
「今すぐ抱きたいです」
「風呂には入れ」
にべもなく断られる。こういうところが、歳上の余裕だ。
「じゃ、ソッコーで入ってきます」
「ちゃんと耳の裏も洗えよ」
お湯を浴びた程度では許してくれない。ある程度きちんと身体を洗わなければ、身体を許されないだろう。もちろん、お風呂上がりにはハンドクリームを塗って。
もどかしさで沸騰しそうな僕へ、土方さんの赤い目は楽しそうな光を向ける。
可愛がられている。歳上の恋人から。それは僕が甘んじて受け入れ、同時に許しがたく感じていることだ。
「入るなら、早く入ってこいよ」
しかし、そのにやにや笑いが崩れる瞬間を、僕は知っている。
待ってろよ、後で絶対ぐずぐずのぐちゃぐちゃにしてやるから。泣いて俺の無敵ちんこをねだるまで責め立ててやるから。