じゃんけん「じゃんけん、ポイッ!」
じゃんけんをした。文字通りの他愛もない、シンプルで知名度も高い勝敗の決め方である。誰しも一度ではなく何度も勝った負けたを経験しているはずだ。
しかし、俺たちがしているのは、ただのじゃんけんではない。今後続いていく夜の営みのポジションという己の尊厳をかけた大勝負だった。
「……」
「……」
杁が出した一手は、硬く握りしめられたもの。けれど、俺の手は平和の象徴の形をしていて、サーッと血の気が一気に引いた。
「……さ、三回勝負だ」
「いや、お前が一回だって決めただろ」
「一回じゃ勝負がつかない時もある」
「おいおい。そんなことあるはずねぇだろ。今まさに勝敗がついてるじゃねぇか」
目の前の現実を受け入れられず、支離滅裂なことを呟いてしまった自覚はある。しかしここで食い下がらなければ、今後こいつに組み敷かれ続ける羽目になる。二十年以上出口だと思っていた部位が入口になるのだから、不具合を起こす心配を今後何十年もしなくてはならないのだ。痔になって病院にお世話になるということは避けたい。
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