幕間〜十カノ「十四松くん、チョロ松さんて…」
「…昔むかし、おれのだーいすきだったにーさん」
「やっぱりお兄さんなんだ…」
チョロ松にーさんを駅まで送って帰った夜、迷ったみたいに訊きにくそうに声を小さくしながら訊いて来た彼女。仕方ないよね、今までおれ、にーさんがいるなんて話したことなかったし!急に同じ顔の人が現れておれがにーさんって呼んだら、誰?ってなるよね?うんうん。
「…おれたち、前世は六つ子だったんだよね」
「六つ子!?すごーい!」
「凄いっしょ!上からね、おそ松、カラ松、チョロ松、一松ってにーさんが四人と、おれの唯一の弟のトド松!」
「十四松くんは五番目だったんだ?」
「うん。松野家五男、松野十四松!それがおれ」
「ふふっ、賑やかそー」
「賑やかだったよ、毎日馬鹿やっておっきな声で笑って時々喧嘩して、でもみんなで一緒に寝てたの!」
「仲良しだったんだあ」
前世の話なんて信じられないはずなのに、彼女は凄いねって言いながら笑って聞いてくれた。おれの、ずっと思い出せなかった大切な兄弟たちの話。
「おそ松にーさんはパチンコと競馬が好きでどーしようもない奇跡の馬鹿で、でも時々とってもにーさんらしかった!カラ松にーさんはたまに難しい言葉で分かんない事言うけどすっごく優しくて怒る事も滅多になくて、一緒に歌って遊んでくれた。一松にーさんは猫が好きでね、自分の事ゴミとか言ってたけど誰より家族を、おれたち兄弟を愛してくれてたんだ。トド松はね、本当に可愛いの!おしゃれで人との付き合いも凄く上手だったんだ」
「すっごい、個性バラバラだね。楽しそう!…あれ、チョロ松さんは?」
「チョロ松にーさんはね、アイドルオタクでツッコミ役で、一番変わらなきゃって思ってる人だった。いつも仕事探してて、口は悪いんだけど本当は凄く優しいの」
「…そっかあ。素敵だね、十四松くんのお兄さん達とトド松くん」
「うん、自慢の兄弟だよ!…それでね、おれ、キミにも会ってるんだ」
「…え?」
淹れてくれた温かいココアのカップを両手で包んで持ちながら、驚き顔の彼女を見る。真ん丸おめめ、たはー、可愛い。
「短い間だったけど、キミはおれのやること何でも笑ってくれて、一緒にいてすっげー楽しくて幸せだったの!…キミが引っ越すことになっておれ、新幹線と競争して見送ったんだよ!」
「えー!新幹線と?」
「そう!特技、めちゃくちゃ足が速いよ!だったからね。そんで、また会えマッスル!って言って…キミ、泣いてたけど最後に笑顔見せてくれた。でもその後探しても会えなくて、その時にチョロ松にーさんがね、来世来世って笑ってくれたんだ。…本当に来世、今、キミに会えた」
「…そっかあ。私、十四松くんと前世で会ってるんだあ。…ずるいよ、十四松くんだけ覚えてるの!私、忘れちゃったよぉ…」
「うん、でもね。前のこと、おれがちゃんと覚えてるから。だから、あの…今世の記憶、は、キミとずっと一緒に作っていきたいなって…」
「十四松くん…」
「おれ、まだ働き始めたばかりでお金もないし馬鹿なのは昔っからだけど、キミのこと好きな気持ちは生まれ変わってもずっと変わらないんだ!だから、あの…ちゃんと仕事するし、貯金もするから、貯まったらだけど、待たせちゃうかも知れないけど、おれと、あの…結婚、して下さい!」
…やっちゃった!勢いだけ、じゃないけど…にーさんに会えたテンションでつい!バラの花束も指輪もない、おしゃれなレストランなんかじゃなくて狭いおれの部屋でのムードなんてカケラもない、力任せのプロポーズだったけど、早苗ちゃんは真っ赤になった顔で大きな目から綺麗な涙を落としながら頷いてくれた。
「わっ…私、で良ければ、一生懸命家事も頑張るので、よ、よろしくお願い…します…」
「……ぃやったああああ!!!」
「きゃっ!ちょ、十四松くんっ…!」
「大好きだよ、絶対おれが幸せにしマッスル!」
「…っ、ふふ、じゃあ十四松くんは私が幸せにしマッスル!」
「…わはー!!ありが特大ほーむらんっっ!!」
ああ、おれが好きになったのがこの子で良かった。この子が選んでくれたのがおれで良かった。幸せで幸せで、どうにかなりそう。
「チョロ松にーさんにも報告しなきゃっ!」
「い、義妹って認めてくれるかな、チョロ松さん」
「だいじょーぶ!だっておれのにーさんだもん!」
「そうだよね、十四松くんのお兄さんだもんね。…早く他のお兄さん達とトド松くんも見付かると良いね。私も協力するよ!」
「ありがとう!」
チョロ松にーさんに報告…は後でいっかあ!今はキミのこと、抱き締めたいから許して!
朝起きてチョロ松にーさんに、にーさんのお陰でプロポーズ成功!ってメールしたら、ものすごーい数の怒りマークがズラズラっと並んだ返事が返って来た。でもね、改行地獄が続いた一番下に見付けた言葉に泣いちゃった。
ありがとう、チョロ松にーさん!
『本当に良かったな、おめでとう!幸せになれよ』
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十四松くんが楽しそうにお兄さんや弟くんの話をしてくれる。その横顔を見ながら、やっぱり好きだなあって思った。
私が十四松くんと出会ったのは三年前。お互い高校に入った年で、私がスタバァでバイトを始めたのがきっかけだった。友達と店に来た彼のオーダーを間違えてしまって先輩に怒られた私に、十四松くんは優しく笑ってくれた。
「どっちにしようか迷ったからこれでいーっす!これください!」
そう言って間違えたオーダーをお買い上げしてくれた。
その時の笑顔が凄く眩しくて、太陽のような人だなって。
それから良く店に来てくれて話すようになって、初めてデートに誘われた時はつられて真っ赤になってしまうくらい十四松くんは顔を赤くしていた。
お金貯めたいからあんまり贅沢なデート出来なくてごめんね、って、映画を観たあとに申し訳なさそうに言われた公園のベンチ。その頃にはもう私は十四松くんの事好きだと自覚していたから、場所なんてどこでも良かったのに。公園でもどこでも、一緒にいられるだけで嬉しかったから。
「おれね、施設で育ったんだ」
そんな言葉で始まった、彼の身の上話。
小さい頃に家族と別れてしまってもう身寄りがいない十四松くんは、高校を卒業したら施設を出て自立しなきゃいけないんだって、声に不安を滲ませながら話してくれた。
いつも明るくて元気でそんな事全然感じなかったから逆にビックリしちゃったけど、でもそんな彼を支える事が出来たら良いなって思った瞬間、口から勝手に言葉が出てた。
「そうなったら私、ご飯とか作りに行っても良いかな!」
「…え?」
「ご、ご飯だけじゃなくて、お掃除とかも!…ダメ、かな…」
「…めちゃくちゃ嬉しいっす!!本当に?」
「う、うん、十四松くんが良いなら…」
「わはー!ありがとう!」
キミが来てくれるなら寂しくないねって、寂しさを我慢するように笑って言うから。私が十四松くんの家族になれたら良いなってずっと思ってた。
「チョロ松にーさん!!!」
不意に現れた、前世の十四松くんのお兄さん。
十四松くんの家族が私以外にもいたんだって少し寂しかったけど、あんなに嬉しそうな顔を見たらそんな事どうでも良くなっちゃった。
前世は六つ子だったと楽しそうに話してくれる十四松くんは突然私の方を見て、キミにも前世で会ってるんだよ、と打ち明けてくれた。驚く私に、それがどんなに楽しくて幸せだったかを話してくれて、それから初めてデートに誘われた時のように真っ赤な顔をして。
「結婚、して下さい!」
真面目で真っ直ぐな目をしてそんな事急に言うから、何か考えるより先に涙が溢れて来た。
私で良いのかな、私が十四松くんの家族になって良いのかな、そうだとしたら言葉に出来ない程嬉しくて。
頷いた私を強く抱き締めてくれた十四松くんは、今まで見た中で一番幸せそうに笑ってた。
いつか私も、十四松くんとの事思い出せたら良いな。
彼の記憶の中にいる過去の私に少しだけヤキモチ妬いちゃったのは内緒!