〜幕間後編・次男と弟達とアツシ「あれ、ねえ…じゃあチョロ松兄さんは?今の理屈で言うと、チョロ松兄さんの運命の相手って…」
「…まだ、もう一人。見付かってないのがいるだろう」
「…あ、」
「今の話に確信はない、俺の考えた単なる妄想に過ぎないかも知れない。でもまだ、見付かってないのがいるんだ。可能性はゼロとは言い切れない」
「…おそ松兄さん」
眠ってしまったアツシをリビングの隅に敷いた布団に転がし、水を持って一松の所へ戻る。俺が話した事を一松なりに考えているんだろう、そんな真剣な顔さえも愛しいと思う。
「…これでチョロ松兄さんが一番におそ松兄さんを見付けたら」
「見付けただけなら確信にはならない。そうなるのは二人が想いあっていると分かった時だ」
「…チョロ松兄さんはきっと、想ってるよ。前世の本人は気付いてなかったみたいだけど」
「何故そうだと?」
「…おそ松兄さんを見る目が、カラ松を見るぼくの目と同じだったから」
「そうか。……え?」
何だか凄く都合の良い幻聴が聞こえた気がするんだが…俺の聞き間違いか?
「…一松、今のは」
「あんたが今言ったじゃん。運命の二人は最初に出会うって。…前世から好きだったのが自分だけだと思うなよ」
「一松、それは物凄く嬉しい告白に聞こえるんだが」
「間違ってなければその解釈で合ってると思うよ」
「そうか…これが抗えないDestiny…やっぱりお前はmy sweet little catだな、一松」
「うわ、前世ぶりに痛いの聞いた!てか何か発音めちゃくちゃネイティブで流暢なのもムカつく」
「語学だけは勉強したからな。…冗談はさておき、それが本当ならこんな嬉しい事はないぞ。前世から好きでいてくれてありがとう」
「…そんなの、ぼくの台詞だし」
抱き締めると素直に腕が背中に回る。抱き返してくるその仕草も、肩に埋まる赤くなった顔も、愛しくて可愛くて仕方ない。
一松は俺が絶対幸せにするし、十四松もトド松もそれぞれ幸せの相手がいる。
だから、なあ…早く出て来てチョロ松を幸せにしてやってくれ。それはお前にしか出来ないんだぜ?ずっとチョロ松が好きだったじゃないか。なあ、兄貴。
「…カラ松?」
「早く兄貴も見付かると良いな」
「そうだね…どこにいるんだろう」
ぎゅっと抱き着いてくる一松を抱き上げ、寝室に向かう。ちょっと今日はいつも以上に可愛過ぎて色々限界だ。
「ちょ、カラ松?」
「俺達もbedと言う名のheavenにgoだ、honey」
「…現世でもそのキャラ貫く気なら、ぼくも闇松復活させるからな、クソ松」
「ふっ…冗談だよ」
二人して顔を見合わせ、同時に噴き出す。
ああ、先に謝っておこう。済まない、どうやら今夜は手加減してやれそうにない。
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「うわあああんカラ松兄さあああん」
「ちょっ、落ち着けトド松。どうした、何があったんだ?」
アツシを連れ帰って一緒に飲んだ翌々日の日曜日。突然トド松から連絡があり、急いで指定された場所に向かう。昨日夜から仕事して朝帰りだけど、まあ何とかなるだろう。
一緒に来るか、と訊いてみた一松は首を横に振った。
「多分だけど、カラ松だけの方が良いと思う。それに誰かさんのせいでめちゃくちゃ腰痛いし?何かあったら連れて来なよ。頑張ってね、カラ松にーさん」
と言う申し訳なくも有り難いお言葉を頂き、更にトド松が人に聞かれたくない話なんだ、と困った顔で言うからこうしてカラオケボックスに二人でいる訳だけれど。
「何かあったのか?」
「…アツシ先生の事」
「アツシ?何かされたのか?」
「…兄さん達、こないだ一緒に飲んだんでしょ。何か変な事言わなかった?アツシ先生がボクに愛想尽かすような事!」
「は?いや、何も言わなかったはずだぞ?」
「じゃあ何で、急にもう会えないとか言い出すのー!」
「…アツシがそう言ったのか?」
「そうだよ、もうボクとは会えないから元気でねって…」
おかしいな。アツシはトド松の事が好きなはずだ。と言うか、今の内容だと既に付き合ってるような雰囲気が読み取れるんだが…。
「トド松、ちょっと待ってくれ。あー…その、アツシと付き合ってるのか?」
「…ボクはそのつもりだったんだけど」
「…好きなのか?」
「嫌いだったら付き合わないよ」
「そうか…」
やっぱり、俺の考えは間違った方向には行っていないようだった。トド松がアツシと最初に会ったのも運命だとしたら、転生してる可能性が高い。
「なあ、トド松。お前、本当に欠片も前世の記憶ないんだろ?」
「…ない、よ。何も思い出せない」
「そうか…」
「それとアツシ先生と何か関係があるの?」
「いや、こないだ一松と話してたんだ。アツシも転生してるんじゃないかってな」
「え!どう言う事!?」
「実はな…」
こないだ一松と話した事をトド松にも聞かせると、呆然とした表情から徐々に顔が赤くなっていくのが分かった。相変わらず不意打ちや予想外の出来事には弱いらしいな。
「…じゃあ、ボクが思い出したらアツシ先生の事も分かるの?」
「多分、な。俺の推測に過ぎないが…」
「絶対思い出す!兄さん達みんな運命の人との記憶あるのに、ボクだけないとかズルイ!何でボクだけ!?」
「…ぷっ」
「…何?」
「その言い方、前世のお前そのままだと思ってな」
「え、ボクこんなキャラだったの?」
「キャラと言うか…」
前世のトド松がどんなだったか、当たり障りのない範囲で話してやった。自分の知らない自分の過去話を、興味深そうに聞いている。
「それでその時、おそ松がな」
「…おそ松って、長男の?」
「そう。まだ見付かってないんだ」
「そっかあ…長男かあ。ボクも会いたいな。全部思い出して、来るのおっそいよ兄さん!って言ってみたい」
「会えるさ、きっと。必ずな」
「何でそう思うの?」
「兄貴が一番寂しがり屋で構ってちゃんで、でも誰よりも兄弟が好きで必要としてたから」
「うわー、構ってちゃんとかウザっ!」
「前世のお前もそう言って笑ってたぞ」
「…前世からじゃ構ってちゃん治らないかな」
「だろうな」
笑う顔も記憶にあるままなのに、それはトド松は共有出来てなくて。いつか思い出せたら良いと思う反面、このまま兄と慕ってくれるならそれで充分だと納得出来る気持ちもあった。
「取り敢えず兄さん、アツシ先生の話聞いて欲しいの!何で急になのか、ボクの事嫌いになったのか…何も分からないから」
「…可愛い弟の頼みだ。分かった、引き受けよう」
「ありがとう!兄さん大好き!」
とは言え、アツシの本当の気持ちを知ってるからこそ、どこから踏み込もうか迷っていた。
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「…と言う事があって、トド松に泣き付かれた訳なんだが。急にどうしたんだ?」
トド松に頼まれた翌日。今日は雑誌の撮影だけで午前中で仕事が済んだからまずチョロ松と連絡を取り、アツシと会えるように計らって貰った。二人の会社に近い、良く行くらしい居酒屋で仕事終わりの約束。…まあ、チョロ松が着いて来たのは予想の範囲内と言うところか。
「え、何で?アツシ、トド松と付き合ってたんじゃないの?」
「チョロ松、お前知ってたのか?」
「あー、うん、ちょっとした偶然でね。それよりアツシ、何僕の弟泣かしてんの?返答次第によっては…」
「ちょ、待て待てって!」
俺とチョロ松に挟まれたアツシは、慌てたように首を振る。それをどう受け止めるか、取り敢えず話を聞こう。
「…考えたんだよ、俺だってさ。でもトドくんはまだ高校生だ。その上男同志。どう考えたって俺が手を出して良い子じゃないって気付いた」
「俺なんか一松が15の時から一緒にいるぞ?男同志で、更に言うなら兄弟だ」
「そうだけど…今は血は繋がってない訳じゃん?お兄さんと一松くんは前世からそうだったみたいだし…」
「でもさ今時男同志だから恋愛しちゃダメとかないよね。随分認められてきてるし日本でもパートナーシップって名目で事実婚出来るとこ出来たじゃない。血縁だって男女間で子供出来た時に血が濃くなり過ぎるからダメな訳でしょ?男同志ならそもそも子供なんか出来ないしこれも問題ない、そもそもアツシとトド松には関係ない事だし。あるとすれば未成年って事だけ。でもそれだってあと二年もすればトド松は成人だよ?少し我慢すれば良いだけで何の問題があるのさ」
…おお、久しぶりに聞いたチョロ松のマシンガントーク。それだけで言ってる事が正論に聞こえるから大したもんだ。
「でも、トドくんはまだこれからの子だし…恋愛だってたくさんのチャンスがあるかも知れないのに」
「それでもトド松はお前じゃないとダメなんだ」
「…何でそんな事、」
「カラ松?」
「多分だけど、アツシとトド松は運命の相手なんだ」
「…え、痛いキャラ復活?」
「違うって」
チョロ松、その蔑むような目はやめてくれないか…兄さん心が痛いぞ。それはさておき、二人にも前世からの運命の話をしてみた。チョロ松は記憶があるからすぐに納得出来るだろうけど、アツシはどうだろうか。ましてや前世では俺達とは面識がないのだから。
「…あれ、待って。僕、前世で名前聞いた事あるかも」
「え?アツシの?」
「うん。確かトド松が合コン行くとか言って、その時にアツシくんも来るから女の子みんな取られちゃうんだよねー、とか…」
「チョロ…それ、本当に…?」
「待って待って、記憶探る。トド松が良く合コン行ってたのって、二十代前半くらいだよね」
「ああ…多分その頃だ」
それは俺も覚えてる。一度連れていけと兄弟全員で大騒ぎした記憶もある。だから年代的には合ってると思うけれど。
「…うん、間違いない。一軍エリートのアツシくんって言ってた、何だかんだ仲は良かったみたいだけど。僕は実際前世のアツシに会った事がないから、本人かどうかは分からないけど…でも多分…」
「それが本当なら、俺も転生してるって事…?」
「ああ。俺の仮説が間違った方向ではない、って言うのが今のチョロ松の話で確信出来た。だからアツシ、今更色々考えて悩んでも無駄なんだ。お前とトド松は俺達と同じ、前世からの縁があるんだよ」
「俺とトドくんが…」
「前世で二人がどうなったのかは分からないけれど、今この時代のトド松を幸せにしてやってくれないか」
「僕からも頼むよ、アツシ。大事な弟なんだ、泣かせたくない」
「その代わり俺達に出来る事なら何でもサポートするから…トド松を任せても良いだろうか」
「…ちょっと俺、トドくんの所行ってくる」
「…!ああ、頼んだぞ!」
「頑張ってアツシ!」
二人ともありがとう、と笑いながらアツシが店を出て行く。チョロ松は良かった良かったと満面の笑みだ。
…きっとあの二人は大丈夫だろう。記憶がなくても出会って愛し合ったんだ、それだけ縁が深かったと思っても良いくらいに。さあ、後は問題は隣で笑って飲んでる、俺の可愛い弟だけだ。
なあ、カリスマレジェンドなんだろ?早く出て来いよ。いつまでお前が一番大事だった弟を泣かせておくつもりなんだ。