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    つつ(しょしょ垢)

    @strokeMN0417
    げんしんしょしょ垢。凡人は左仙人は右。旅人はせこむ。せんせいの6000年の色気は描けない。鉛筆は清書だ。
    しょしょ以外の組み合わせはすべてお友達。悪友。からみ酒。
    ツイに上げまくったrkgkの倉庫。
    思春期が赤面するレベルの話は描くのでお気をつけて。

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    POIPOI 33

    モラショ小話。
    雛鳥時代の無邪気仙人はなんぼ妄想してもええと思ってます。

    ##モラ魈
    ##小話

    雛鳥雛鳥

    最初は枝でも落ちてきたのかと思った。
    それほどに軽く、他愛もない重さで自然とぽとりと落ちてきたのだ。
    しかしそれはぱちぱちと瞬きをし、自分の身に何が起きたのか理解できていない風体で、視線がぶつかると泡をくって手足をばたつかせるものの当人も想定していないことだったのか、自分の手足さえ「どのようになっている」かわかっていないのかふとした拍子に彼が手にしていた本を蹴り上げてしまった。
    軽く舞い上がりぱさりと「それ」の腹に落ちる。
    「落ち着け」
    ぽんと頭を撫でてやるとようやくそれはひとまず動くのをやめた。
    「ごめんな、さい」
    すっかり怯えてしまった声にそれほど怖い顔をしていただろうかと青年はふむと息を吐く。
    「見たところ…夜叉か」
    人間であれば四、五歳ごろの少年といったところ、しかし抑えることさえできていない仙力は人間の比ではない。特徴的な仙力に素性はすぐに察知できる。
    どうすればいいのか分からず身動き一つできなくなった少年を抱えなおし向かい合うように膝に乗せて抱える。
    お互いの顔が確認できるようになって、青年は少年の愛らしい顔を、少年は青年の秀麗な顔立ちを知る。
    「なぜ空から来たのだ」
    ごく自然な疑問をぶつけると少年は少し頬を赤らめてモジモジしながら答える。
    「おそら、とぶれんしゅうしてたの。もらくすさまみたいにとんでみたかったの」
    照れくささでモジモジと動いていたのかと思ったが、見れば体のそこかしこに翡翠の羽毛が生えており、どうやら変化がうまくできなかったのを恥じ入っているようだった。
    それもさることながら出てきた名前に思わずほうと息がこぼれる。
    「モラクスのように」
    「さま」
    敬称を付けなかったことを指摘され、青年は苦笑する。
    「そうか、モラクス様のようにか」
    「うん、いっしょにね、とびたいの」
    「何故だ」
    「うーんとね、みたの。おそらとんでるとこ。かっこよかったの。だからいっしょとびたい」
    頬を紅潮させ、全身が興奮を抑えきれずにもぞもぞと動いている。一生懸命伝えようとしている様が愛らしく、青年は堪えきれず笑った。それが少年の気に障ったのか笑顔が一転して頬が膨らむ。
    「すまない。お前の夢を笑ったわけではない。お前の笑顔が可愛いから笑ったんだ」
    「かわいくない」
    完全にへそを曲げてしまったようだ。ぷいと横を向いて「もうおろして」と青年の胸を両手で押す。
    「悪かった。そうだな。練習に励むのはいいことだが、まだお前は幼い。こうして俺の膝に落ちてきたからいいものの、そうでなければ大怪我だ。ちゃんと少しずつ高く飛ぶ練習を続けなさい」
    「やだ。すぐとびたい」
    「急だな」
    「だってもらくすさまちかくにいるの。とんでさがさないと、いなくなっちゃう」
    ああ、そうか。
    青年は苦笑しそうになるのを飲み込んで、ごまかすように少年の頭を撫でた。

    最前、政務の合間を縫ってしばしを休息を得るために本性のままゆるりと空を満喫し、読書でもするかとこの場所に降りたところを見られたようだ。

    「大丈夫だ。モラクス…様はまた璃月を見回るために空を翔ける。その時にはお前も誘ってくれる日が来るだろう」
    「いつ」
    「お前がちゃんと空を飛べるようになったら、いつでもモラクス様のところにくるといい。モラクス様は記憶力がいい。今日の約束もきっと覚えている」
    「おにいさんはもらくすさまじゃないよ」
    「ん 俺がいつモラクスじゃないと言った」
    その言葉に少年はぱぁっと顔を輝かせ、と同時に膝に乗っている自分に幼いながら畏れを覚えたのか慌てて降りようとする。
    青年…モラクスは今度こそ笑うのを堪えきれず少年の頭を力任せに撫でる。
    「待っているぞ、夜叉の雛。共に飛べる日を待ってる」

    待っていた。
    その言葉を思わず吐き出しそうになった。
    目の前に立ちふさがる儺面の夜叉は、ゆらゆらと黒煙のように仙力を立ち昇らせて歯向かってくる。
    間違いない。間違えようがない。
    翼は、もがれてしまったのか

    否。

    夜叉から翼を奪った魔神を下し、浮かび上がってきた「それ」を誰にも知られることなく手のうちに収める。
    血の海に沈む夜叉を抱え上げると自陣へと戻った。

    側近たちの視線は刺さるほどに痛かった。無数の無辜の民の命を奪った罪人。赦しを与えるにもほどがあると口々に非難の声を上げるが、同族のものたちは泣きながらその慈悲を受け入れた。
    「この子はおそらく真名を守る術も知ることなくかの魔神にかどわかされたのでしょう」
    弥怒が昏々と眠る少年の手当てを手伝いながら告げる。
    「同族とはいえ住む里が違えば真名を知る術もございません。この子には仮初であれ守り名を与える必要がありますが、いかがいたしますか」
    「それなら問題ない」
    包帯を巻かれた手を取りながら、その指先に祝福の口づけを与える。
    「魈。この子はこれより魈だ」

    夜叉たちとともに任務をこなすうちに本来「鵬」であったこと、そして美しい金色の瞳を持つことから「金鵬」の号を与えられた少年は普段その名を呼ばれることが多い。何よりモラクスが直接与えたという守りの名前を安易に呼ぶことが憚られたのか自然とまわり自然と号で呼ぶようになった。

    そうして過ごすようになったある日、モラクスに呼び出され魈は彼の執務室へと現れた。
    「金鵬大将、招致により参上いたしました」
    「そうかしこまるな。誰もいない」
    お茶を二つ入れながら、座るように促す。それでもなおモラクスより先に座ろうとしない少年にやれやれと肩をすくめ先に座る。
    一言二言と近況を伺うも、生来の気質なのか己の「立場」を気にしているのかあまり長くは話をしない。
    沈黙が訪れ、茶をすする音が響く。ぱたぱたと鳥の羽ばたく音が窓の外からして、何気なくそちらを二人で見上げる。
    「魈、最近のお前の働き、見事なものだ」
    突然の誉め言葉に魈は短く「もったいなきお言葉です」と応え、再び沈黙が降りる。
    「褒美を与えねばと常々思っていた」
    「そんな」
    この言葉には驚くほど素早く反応がきた。モラクスは僅かに眉を上げ続きを待つ。
    「そんな、我は、我は十分に褒美をいただいております。この身を救っていただいただけでなく守りの名まで頂戴して・・これ以上何を望んでもそれは、身に余ります・・・」
    次第に小さくなる声。
    褒美を与えるという彼を否定していることに違いはないのだ。それが恐ろしい。しかし受け取るわけにはいかないという葛藤が喉に痛い。
    「何も望みはないと」
    「はい」
    感情を感じ取れない確認に魈は身を固くした。

    「□□□」

    唐突に聞きなれない、いや、「聞いてはならない」音がした。
    視界が黒に染まる。脂汗が流れ、体が強張る。
    それでも、行かねばならないと何かに引っ張られるように立ち上がり、モラクスの足元に膝をつく。
    「お望みはなんでしょうか。どこにいってなにを殺せばよいのでしょうか。それとも我の身を所望ですか」
    必死に声を振り絞り、許しを請うように震えるを伸ばせばぐいっとひっぱられ膝に乗せられる。そしてとんとんと優しく背中を撫でられた。
    「すまない。真名を使えばお前も素直に望みをいうかと思ったが・・・なるほど、まだお前の「疵」は癒えてなかったのだな」
    がくがくと震える魈を慈しむように撫で、いつのまにかぽろぽろと零れだした涙に口を寄せる。
    「魈、魈、俺の顔が見えるか」
    頬を包むと口を食む。
    流れ込む膨大にして純粋な岩元素に紗がかかっていた金色の瞳に光が戻る。
    「魈」
    「モラクス…様」
    じっとりと額に滲む汗を拭いてやると状況に気づいた魈は泡を食って逃げ出そうとする。しかし逃してやるつもりはない。
    「お離しください」
    「改めて聞くぞ、魈。褒美をやる、望みをいえ」
    「ですから」
    「お前はもう覚えていないかもしれないが、ずっと昔に約束をしたぞ。それを果たすのも悪くない」
    昔 との呟きにやはり幼かったあの日の少年は覚えていなかったかと、まるで幼子を寝付かせるかのような調子でこんこんと昔話をする。
    己の若き日の行いに青くなったり赤くなったりと忙しない雛鳥を抱え、モラクスは胸の内に溢れる温もりに笑みをこぼした。

    それから数刻ののちに璃月の空にはゆったりと空を舞う岩王帝君と金鵬の姿があったという。

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