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    teasぱんだ

    @nice1923joker

    紅茶とパンダが好き。
    好きなものを好きな時に好きなだけ。
    原ネ申アルカヴェ沼に落ちました。
    APH非公式二次創作アカウント。
    この世に存在する全てのものと関係ありません。
    䊔 固定ハピエン厨
    小説・イラスト初心者です。

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    teasぱんだ

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    モブ視点🌱🏛️匂わせ話。

    #アルカヴェ
    haikaveh

    香り 気になる人がいる。いや、気になるってほど気になってるわけじゃないんだけど、僕が勤務する店に来たとしても連れの方が購入するだけで自分は買わないってスタイルの人だから、正直接客したこともなければ会話したこともない。
     でもその人は有名人みたいで、教令院の学生をしていた親友は妙論派の建築学専攻だけどいつか会ってみたいって息巻いてた。
     男だぞって返したけどそんなの関係ないなんて言われてムッとした。それで名前を覚えていたから、金持ちの常連さんに連れられて来店した彼が呼ばれていた名前を聞いてピンと来た。
     それがもう数ヶ月前の出来事だ。
     それから彼、カーヴェさんはこの店に来店したことはない。あの一度だけ見た日以降、ずっと頭の片隅にいて、気になって……るほどではないんだけど。
     なんていうか、来店されたら万全の体制で接客しなきゃとか、まあなんか色々考えているわけだ。この僕が。接客なんて好きじゃないし、どちらかと言えば嫌いなのに。
    「おはようございます」
     今日のスメールは一気に訪れた寒気で急激に寒くなった。離してくれないベッドに泣く泣く別れを告げて、ぐるぐる巻いたマフラーに首元を埋めて今日も出勤。挨拶を送った女性の店長は、調合用の容器に液を移し替えているところだった。
    「おはよう。これ、お願いできる?」
     細かな装飾の施された瓶が何個も並んでいて、僕は了承の返事を返す。鼻につく香りは働き始めこそ苦手意識もあったが、今では慣れたものだ。
    「私、二階にいるから何かあったら声かけて。もう開店準備はできてるからね」
     お客様がいつ来てもおかしくない状態だと言い残して、店長は軽い足取りで二階へあがっていく。この寒さだ。気温があがる昼までは閑古鳥が鳴く。そう見越して、きっと上で家事をするのだろう。
    「わかりました」
     足音に返事をして、並べられた瓶を手にする。持ち上げた瞬間、カランコロンと軽い音が店内に響いた。
     あぁ、タイミングが悪い。今日は店長と僕だけなのに、接客をしなければいけないかもしれない。いつも同じものを購入していくマダムでありますように。そう祈って顔をあげて、声は喉を通らなかった。
    「すまない……もう開いているかい?」
     外は雪が降り始めていたらしい。
     肩に乗った水滴を払って、店の中が濡れないように首に巻いた布を外す青年。困ったような表情を浮かべる真ん中で潤んでいた赤い瞳にまず目がいった。店内を照らす暖色系の灯りは、彼の金色の髪に乗った水滴にキラキラと反射する。
    「あの……?」
     もう一度声をかけられて、僕はようやくハッとして息をのむ。咄嗟に出た声はこびりついたマニュアルの通りだった。
    「いらっしゃいませ。もう開店してますよ」
     こちらの返答に、一度目を開いて、ほっとしたように口元に笑みを浮かべる。彼。
     赤い外套の裾を揺らして、金色の髪を跳ねさせたカーヴェさんは、一人でこの店に来店した。
    「以前来たときに、自分好みにカスタムできると聞いたんだ。それで、よければ作らせてもらいたいのだけど」
    「はい。ご自身の好みに合わせて調合させていただきます。まずはこちらのシートに、大まかなイメージや好みをご記入ください」
    「へぇ。面白いな。……サンプルに触っても?」
    「もちろんです。どうぞ」
     カーヴェさんは椅子に腰掛けると興味深そうに紙に視線を落として、嬉しそうに横に置かれた小瓶へ手を伸ばす。
     その姿を見ながらも、僕の心臓はバクバクと音を鳴らしていた。一度だけ目にしたことのあった、えーっと、教令院の妙論派。カーヴェ。
     至近距離で見る彼は、とんでもなく美人だった。これは確かに、親友がお近づきになりたいと騒ぐわけだ。僕は決してそういった下心があるわけじゃない。決して。男同士だし。いや、別に、性別云々はそこまで重要じゃないけど、だからその。
    「これで、一度作ってもらえるかい?」
     いつの間にか真後ろに立ったままでいたらしい。どれくらいそこに突っ立っていたのか覚えていないが、カーヴェさんはあまり気にしていなかったようだ。良かったと心の中だけで胸を撫で下ろし、差し出された紙を受け取る。
    「お、お持ちしますね。実際に試してみて、決めていただけますので……」
     しどろもどろになりながら返事をして、バックヤードに引っ込む。この時間に出勤しているのは僕だけ。いや、小さい店だから、平日のこの時間なんて店長と僕だけなのがいつものシフトだ。でも心の底から思ってしまう。今日は女性スタッフがいなくて良かった。
     彼女たちがいたら、僕は声を聞くことも叶わないだろう。それくらい、以前来店した時も彼の人気は凄かったから。
     棚から瓶をいくつも取り出して、装飾の施されたワゴンに乗せる。煌びやかなこのワゴンも、店内の装飾も、自分にはやり過ぎに見えて好きではなかった。それなのに。
     ワゴンを押して店内に戻れば、僕を待っているカーヴェさんの周囲を彩る調度品はその力を遺憾なく発揮している。いや、この装飾に負けない煌びやかさを彼が持っているというだけのことなのだろうけど。だけって、だけじゃないだろう。いや、だからその。
    「お待たせしました。実際にお手にとってお確かめください」
    「へぇ。綺麗な瓶だな。こちらはシンプルながらも引き算の美しさがある……そうだな……」
     実際に五感で感じ取って、数回悩んでからカーヴェさんは紙を提出した。なんだか執事にでもなった気持ちになりながらそれを受け取って、選んでもらった瓶に要望通りの品物を注ぐ。予想外の品物を選んでいて、でもそれを知っているのは自分だけで、そこに優越感を感じてしまった。
    「ありがとう。助かったよ。また世話になると思うから、その時はよろしく」
     せっかくなのでご褒美にどうですかとマニュアル通りに包装を提案すれば、一瞬悩んでからカーヴェさんは頷いた。彼が受け取る小さな品物はとても似合っていて、その中身とのギャップにドキドキした。
     店を出ていく姿を見送って、それから後の一日の記憶はない。店長に腑抜けてないで働きなさい。と頭を小突かれたことしか覚えていなかった。

    「なんか最近雰囲気変わった?」
     同じバイトの女性従業員に話しかけられて、僕は目を丸くする。
    「前に買い物してたじゃない。店にはつけてきていないけど、彼女でもできたの?」
     返事をするより先に言われた言葉に肩を揺らして、どう返すか悩んでいるうちに入口の方からカランコロンと軽い音が響いた。これ幸いと彼女をバックヤードに残して、店内へ顔を出す。そこに立っていた人物に息をのむ。
    「すまない、調合をお願いしたいのだが」
     銀色の髪は外にはねて、僕があの髪型をしていたら寝癖を直せと店長に言われるだろうに、見上げた先の彼にはなんの問題も無いかのように似合っていた。顎をあげないと顔が見えないほどの高身長に、鍛えられた肉体。圧倒的な男としての理想を前に一瞬足が動かなくなったが、それを叱咤して笑顔を浮かべた。
    「お待たせいたしました。調合ですね。承っております。当店で作られたものでしょうか?」
    「そう聞いている。これを持っていけばいいと言われたのだが、問題ないだろうか」
     差し出された紙を広げて、調合内容に目を通したまま思考が停止する。数秒黙っていたせいか、アルハイゼン書記官は首を傾げた。
    「何か問題が?」
    「い、いえっ……! こ、こちらは当店で作らせていただいたものでお間違いありませんっ。……少々お待ちください。すぐに調合しますので…………あの、瓶を選んでいただきたくて……」
     自分って、仕事ができるようになったんだなと冷静な頭が囁く。心臓はドクンドクンと嫌な音を立てて、冷や汗が止まらないのに指先はちゃんと並べられた瓶の方向を指差していた。
    「……ならば以前と同じ、これで」
     アルハイゼン書記官が指差した瓶を見て、僕の心はもう限界だった。それでも思考を放棄してバックヤードに引っ込んで、広げた紙の通りに瓶から液を移し替えていく。
     どうしたのよ。えっ……アルハイゼン書記官!?と聞こえた気がしたが無視した。それどころじゃない。瓶に注がれる液体。透明なそれは混ざり合って、注文した彼好みの香りを表現していく。
     先ほど紙を受け取った時にも嗅いだこの香りに右頬を打たれたように思えた。思い上がるなと。それはそうだ。これは僕の自業自得。
     差し出した瓶に、マニュアルの通り包装を希望するか伺う。声は震えていた。包装してくれと思った。
    「いや、必要ない。これは私用のものだからな」
     小さな瓶を受け取って、店を出ていく後ろ姿を見送る。あぁ、帰ったら破棄しなくては。注文の際に覚えた、カーヴェさん好みの香り。それを真似して作った、僕の部屋にある香水の瓶。これは、確かにカーヴェさん好みで間違いはなかったのかもしれない。ただ。
     それを身につける人として彼に選ばれたのは、アルハイゼン書記官だったというだけのことだ。

    End
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