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    waremokou_2

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    waremokou_2

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    毎日更新がもくひょうなので! 内容よりかいすうですので!
    製本時には加筆しますので!

    ねやねが紅茶を飲む話 ――午後三時。黒柳家のおやつ時はいつも決まってこの時間である。今日の黒柳は午前中、年末に向け使用人たちの年末手当や年始の契約更新手続きなどの書類作成や事務手続きに追われていた。昼食後も暫く作業に追われながら、どうにか半日掛かりですべての事務処理を片付けたところで軽食のご準備が整いました、とメイドに声を掛けられたのだが。
    「――おやおや、随分と立派な角じゃないか」
     ごろりと寝そべるのは虎も紛うような大型の三毛猫だ。子供二人に伸し掛かられ、体を好き勝手にされながらも、爪を立てることも抵抗するそぶりも見せない従順っぷりである。頭に巻かれたリボンには、段ボールと色画用紙で作ったのだろう角らしき装飾が施されており、まるで絵画やおとぎ話に登場する架空の生き物そのものの様に、黒柳は思わず口角を緩めた。すごかろう、と自慢げに三毛縞を見せる二人の子供は、先日の動物園でみたトナカイの大きな角にさぞ感動したようで、その遊びに付き合ってやっているのだろう三毛縞の、無抵抗なさまが黒柳にはあまりに新鮮で愉快だった。角の生えた大きな猫は、子供二人もぶら下げたままのっしのっしと部屋を闊歩し、おやつの時間なんだからさっさと席に着きな、と言わんばかりである。子連れ虎さながらに二人をあやす三毛縞に、黒柳は助けを出すでもなく自らも用意された席に着いた。
    「なあなあ、カルマっちの角って、大きなったらなくなるん?」
     そうしてふと、着席した照也は業と黒柳誠を見比べ不思議そうにそう問いかけた。黒柳は勿論、自分の持つ角が大人になると無くなるのではという予感に業はたちまち真っ青になって、あわてて自分のまだ小さな角を隠すように握りしめた。
    「何故なくなると?」
    「だってまことは角がないやん」
     不思議そうな照也の素朴な疑問に、黒柳は思わず頬の内側をかみしめた。純粋な、知らないことに対する疑問を笑うようなことを黒柳はしたくなかったが、動物園で虎を見て三毛縞も〝そう〟なのだと思い込んでいた照也らしい問いかけは、ここ数日の日課になった紅茶を運ぶ三毛縞を大いに笑わせる。なぜ三毛縞が笑ったのかもわかっていないようで、照也はずっと不思議そうにきょろきょろと大人二人を眺めることしかできないようだった。
    「私にも角はある」
     そうして、僅かに髪をかき上げる黒柳は、めったに解くことのない擬態を照也の前で初めて解いた。髪の生え際、額の辺りから木のしなる様な音とともに、徐々に太く、渦巻くように伸びる角はまさに山羊の王と称されるにふさわしい禍々しくも、畏ろしく美しいまさに芸術である。照也のまんまるに見開かれた目が、ぱっと好奇心に輝きだす。うっとりとその角を見つめる業の、尊敬と憧憬の視線はほほえましくもあった。
    「普段はこの男と同じで隠しているだけだ。お前たちもいずれ擬態を習うだろう。しかし、我々に与えられた本来の姿が消えるわけではない」
     まあ、あれはなんというか随分愉快な格好だがな、と瞳孔の細まった瞳が見つめる先に、振り返った子供たちが一斉に笑い出した。
    「お前らがやったんだろうがよお」
     ばつが悪そうに頭を掻く三毛縞は、相変わらず猫の頃のまま、まだ頭に巻かれたタオルから手作りの角をにょきりと生やしたままである。もう取っていいか、とむず痒そうに払おうとする三毛縞に向けられる残念そうな瞳に、この男が勝てるはずもない。
    「めっちゃかっこええやん! ええなぁ、おれもそんな角ほしい」
     少年心をくすぐるだろう、黒柳の角は知る限り、在学中でさえ学校一だと称されるほど美しいものだったから当然だと三毛縞は久々に見た黒い曲線に目を奪われた。照也の子供らしい素直で無邪気な称賛は、シャイな黒柳もさすがに嬉しそうに微笑ませる。
    「ぼ、ぼくもかっこいい角になるからね!」
     それにほんの少し、必死になって食いつく業に楽しみやなあ、と笑ってみせた照也の優しさに、こりゃ人誑しの才があるなと三毛縞は思わず目を丸くする。目の前の渦巻く角の曲線に、思い出すのは初めて触れた時の事だった。もう忘れたと思っていたはずなのに、自分は存外思い出を大事にしまっておくタイプらしい。懐かしい感触をまだはっきりと思い出せる未練たらしい自分の性格を、三毛縞はごまかす様に紅茶を飲み干した。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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