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    waremokou_2

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    waremokou_2

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    ねやね こうちゃのはなし。

    「ゆきや!」「つもってる!」
     振り返る窓の外では庭の草木や塀にうっすらと雪が積もり始めている。降る雪の激しさは次第に増しはじめ止む気配はなさそうだった。部屋着のまま飛び出そうとする子供二人を慌てて引き止め、セーターから帽子、手袋をはめジャンバーを羽織らせながら思うのは事務所に向かった黒柳のことだ。このまま降り続ければ黒柳が退社する頃には随分積もっていることだろう。傘は持って行っただろうか、革靴だろうが雪道を帰ってこられるだろうか。きよとら、と窓から二人の子供が目だけをのぞかせこちらを見ている。すっかり雪まみれの手袋をひょいと振って呼びかけてくる子供たちは三毛縞にも雪の降る外へ出て来いという。
    「えぇ…… お前たち元気だねえ……」
     仕方ないなあ、と重い腰を何とか持ち上げ手を振り返す。ジャケットを羽織り、マフラーに手を伸ばした時に見つけたもう一本のマフラーに、三毛縞の夜の予定が決まった。
    「かまくらつくるで!」
    「えっ!? ちょっと雪たりるかねえ……」
    「かきあつめたらええねん!」
    「そりゃ頑張って集めねえと」
     すでにせっせとバケツに雪を集める照也はすっかり鼻の頭を真っ赤にしていた。入るほどのかまくらを作るにはあと少し雪が降り積もる必要がありそうだが、この調子なら明日には子供用のサイズくらいなら作れるかもしれない。一方でちっちゃな雪玉を作って持ってきたのは業の方で。
    「ゆきだるまは?」
    「お、うまいうまい」
    「きよとらもやって」
    「おれもぉ!?」
    「だってなにもしてないじゃん」
    「お、言うねえ……」
     ぼうっと突っ立って照也を見ていたせいだろうか、僅かに唇が紫になっている業に促されるまま三毛縞もしゃがみ込んで雪を集める。手から全身に駆け巡る様な冷たさはどこか懐かしく無邪気な楽しささえ思い出す。十二月にはまだなかったかもしれないが、畠中にも雪は積もる。特に学校のある山の方はよく積もっていた。業のほんのりと血色を悪くさせた唇は間違いなく親譲りだ。
    「お前ら寒くないの?」
    「ぜんぜん!」「へいき!」
     無邪気な返事に、三毛縞は思わず白い息を吐いて笑った。

    「よお、お疲れサン」
    「悪いな」
    「全然。忘れてただろコレ」
     渡された紙袋に詰められたマフラーに、たしかにそうだと少し冷え始めた首筋を撫でる。相変わらず三毛縞は寒がるくせに、黒柳よりずっと薄着に見えるいで立ちでいる。上着は厚みのあるジャケットに、きっちりとマフラーを巻いているくせに、下は相変わらずジーンズだけで。一方の黒柳はと言えば上から下まで普段の細身な骨格をまるきり覆い隠してしまっているほど厚着である。厚みのあるコートは黒柳の長身でありながら足首まで隠すような丈の長い仕様で、雪の降る夜の闇に黒柳を溶かしてしまうようだった。その暗闇にもまた、ちらちらと降る雪が積もり始めている。とうとう鉄道も止まり、傘を並べて歩く帰路はいつもより人が多い。特に背丈のある二人が並んで歩くと傘が一つ上に飛び出していて。そんな帰り道も徐々に人が減っていき、黒柳邸の前の通りは静かな雪の降る音と、二人分の足音だけだ。玄関をくぐろうとした黒柳は、傘を畳み見下ろした先にいた四つ並んだ小さな家族に思わず口角を緩めた。
    「明日はかまくら作るらしいぞ」
    「――それは随分重労働だな」
    「お前さんも参加な」
     一瞬ぎょ、っとして振り返った黒柳に、三毛縞はにししと肩を震わせた。
    「腕も治ったこったし」
     ジャケットを脱いでそういう三毛縞は、黒柳にはどこか嬉しそうに見えた。わくわくしているような。きっと三日間の絶対安静が三毛縞には退屈だったのだろう。もともとだらけて見えるくせに存外アクティブな男だから三日とはいえ堪えたはずだ。帰路で冷え切った体が部屋の暖かさに溶ける様に温もりを取り戻していく。子供たちは明日の登園に備えもう眠りについているようで、部屋を覗けばベッドには子供が二人寝息を立てている。その小さな額に手を伸ばすも、黒柳が寸でで手を止めたのは自分の指先が冷え切っていたことを思い出したからだ。僅かに迷う指先が、そっと二つの頭を撫でる。眠った子供の高い体温に、黒柳はまたほんの少し安心を覚えるのだった。
    「よく寝てたろ」
     雪で大はしゃぎしてたからな。そう呆れたように言うくせに、三毛縞はどこか楽しそうで。毎度思うけど何処からあんな元気出てくるんだろうな。感心したように言う三毛縞に、黒柳も思わず頷いた。まだ幼く小さな体の中に、彼らは溢れ漲るパワーを秘めている。照也が黒柳邸に来てからというもの、業も昔では考えられないほど活発になったし、そのための身体もできてきたように思う。虚弱だったと思っていた業が照也と一緒に雪遊びに駆け回っている姿は黒柳にとってもはや感動的でさえあった。明日はきっと、子供たちが目を輝かせるほどに積もるだろう。今年の冬は殊更に寒い。ただどうしてか、それもまた悪くないと思った。セイロンの香りはそれだけでどこか暖かく、穏やかに二人の間を漂っている。
    「明日も雪遊びで即寝コースだな」
    「さあ、そう上手くいくならいいがな」
    「だよなあ」
     にゃはは、と三毛縞が笑う。来る日に備え二人のサンタクロースは、密かに計画を立てるのだった。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
    2725

    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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