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    mitsuhitomugi

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    mitsuhitomugi

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    風花の話 キリの良いところまで書けたら都度貼り付けていく予定

    #山岸風花
    #ペルソナ3
    persona3

    巌戸台の駅前商店街、その一階に佇む年季の入った古本屋は、風花の密かなお気に入りスポットだった。
    経営している老夫婦はいつも穏やかで優しいし、本の虫という名前も可愛らしい。何より品揃えが豊富で、学生の味方の参考書から随分前に絶版になった幻の本まで置いてある。
    所狭しと並ぶどころか棚に入り切らずに机に平積みされている本もあって、それを見るのもまた楽しかった。自分の未知の世界がまだまだ広がっていることを実感すると、風花の心は高揚感でほんのりと色づくのだった。
    (最近はついネットばかり見ちゃうけど、こういうのも大事だよね)
    父親の影響で昔から機械に関心があった風花は、この年頃の女子にしては機械関係に詳しかった。学生寮の自室には基板やら愛用のはんだごてやらが置いてあるし、情報集めのために自前のノートパソコンを使うことはもはや日課になっている。やろうと思えば壊れたデータの修復やハッキングだってできてしまうし、実際にそのスキルを見込んで頼みごとをされたこともあった。
    誰かに頼りにされるのは心から嬉しいし、皆の役に立ちたいけれど、と風花は思う。メカが好きなんて女の子らしくないし、ちっとも可愛くない。お洒落でスタイルも良くて、いつも自信を持って堂々としているゆかりちゃんや桐条先輩の方が、私なんかよりずっと魅力的。そんな風に考えて、風花は自分のことを好きになりきれないでいた。
    (私って、なんでこうなんだろう)
    はぁ、と思わず吐いたため息は、そのまま古本屋の埃っぽい空気の中に吸い込まれていく。
    俯いて視線を落とした先には、少し厚い一冊の本があった。背表紙しか見えていないはずなのに、不思議と本と目が合ったような気がして、風花は少し屈んで本棚からその本を抜き取った。日に焼けた表紙には「フラワーアレンジメントの教科書」の文字と、小ぶりなバスケットの中でめいっぱい着飾った花々の写真が印刷されている。
    ページを優しく捲っていくと、一枚の写真が目に入った。ビーズやリボンを合わせて作られた、カラフルな熊のアニマルフラワーが写っている。テディベアのような愛嬌のある表情に、可愛いもの好きの風花はすっかり心を掴まれてしまった。
    そういえば、部屋にまだ使っていない花が残っていたはず。機械に次ぐ趣味としてフラワーアレンジメントを嗜む風花は、写真で見るでもなく花屋で買うでもなく、自分で作る方向で頭を回転させた。きっと作ってる内に足りなくなるからラフレシ屋に寄った方が良いよね、なんて考えながら、本を手に軽い足取りでカウンターへ向かう。
    「あの、すみません、誰かいますか?」
    いつもならお爺さんかお婆さんがいるはずのそこには誰もいなかった。遠慮がちな声で呼んでみると、返事の代わりにいびきが微かに聞こえてくる。風花が困った顔でそのまま待っていると、やがて奥からお婆さんが少し慌てた様子で現れた。
    「ごめんなさいね。お爺さんが居眠りしていたものだから……」
    お婆さんがあまり申し訳無さそうにしているものだから、風花はなんだか自分まで申し訳無いような気分になってきた。いえ、いいんです、とふるふると首を振る仕草はどこか小動物じみている。そのまま会計を済ませて、お婆さんから受け取った本を手提げ鞄にそっと仕舞った。
    「お嬢さん。よかったらこれ、お詫びのしるしに持っていってちょうだい」
    お婆さんがゆっくりとした仕草で取り出したのは、綺麗な金色の飴が沢山入った袋だった。若い方の口に合うかわからないけれど、とお婆さんは恥ずかしそうに眉尻を下げる。
    「ありがとうございます」
    丁寧にぺこりと頭を下げて、今度こそ落ち着いて笑顔でお礼を言った。思いがけず触れたあたたかな気遣いは、うっすら曇っていた風花の心をふんわりと包み込む。そうして伝わった温もりのおかげで、風花は少しだけ晴れ間が差したような気持ちになれた。
    お婆さんに見送られながら古本屋を後にする風花の足取りは、それでもやはりどこか忙しない小動物のようだった。


    駅前の花屋で花やパーツを買い足して寮に帰ると、風花はさっそく作業に取り掛かった。
    先ほど見たアニマルフラワーのページを開き、机の上に花を並べていく。
    (せっかくだから好きな色で作った方が楽しいよね)
    ざっと見て心惹かれた色の花を手に取って、本に書かれた通りの手順で進めていく。顔のパーツを作り、花を束ね、段々と熊の形になっていく過程を見ていると自然と愛着が湧いてきた。
    「できた!」
    完成にはそれほど苦労しなかったが、やはりイメージ通りに作れると嬉しいものである。淡い水色で着色された花を使ったそれは、澄んだ瞳でじっと風花を見つめていた。
    「もう一個、作っちゃおうかな?あなたもきっと一人じゃ寂しいよね」
    少し弾んだ声で水色の熊に話しかけると、その隣に置かれた可愛らしいピンク色の花を手に取った。同じように束ねて、パーツと組み合わせて、熊の形を作り上げる。そうして出来上がった可憐なピンク色の熊は、慣れてきたからか、一つめよりも綺麗に仕上がっているような気がした。
    「この子、なんだかゆかりちゃんみたい」
    明るいピンク色がよく似合う美人さん。その特徴から、風花は快活でお洒落な友人を連想せずにはいられなかった。ふと思い立ち、装飾用の赤いリボンを切り取って優しく熊の首に巻き付けていく。正面で一度リボンをきゅっと結び、そのまま蝶に似た形に整える。ピンク一色の熊に溌剌さと華やかさを与える赤いリボンは、さながらゆかりの胸元を彩る制服のリボンのようだった。
    「うん、やっぱり可愛い。流石ゆかりちゃんだね」
    風花は満足げな顔で熊を見つめているが、その内側ではさらなる創作意欲が湧き出ていた。せっかくゆかりがいるのなら、他の仲間たちも全員分作ってしまいたくなる。今の自分はとんだ欲張りだと思いながら、風花は新たに深紅の花を摘み上げた。


    そうして美鶴と天田の分を完成させた頃には、すっかり夕方になっていた。窓の外の空を見れば、爽やかな青と赤紫のグラデーションが初秋の日暮れを知らせてくれる。
    美鶴を模した熊はゆかりのものよりもやや大ぶりなリボンを纏い、その隣にちょこんと並ぶ天田の熊は他の仲間たちよりも小さめに作られていた。
    「ちょっと時間かけすぎちゃったかな……?」
    眉尻を下げて苦笑する。凝り性で一度決めたら突き詰めたくなってしまう性分のせいで、一つ完成させるのに要する時間がどんどん長くなってしまったのだ。おまけに小物や装飾品にまでこだわったものだから、九人いる仲間のうちまだ三人分しかできていないのである。
    「次の子も早く作ってあげなきゃね。順平くんにしようかな?」
    言いながら、風花は花のストックを指先で弄んだ。順平の普段の様子を思い浮かべながら、何色の花で作るかを考える。いつも制服のシャツの前を開けて青いインナーを見せているから青か、それとも私服のタンクトップやキャップの色から黒か。
    「間をとって……紺色?」
    口ぶりではまだ迷っているようだが、その手の動きには一切の迷いがなく、紺色の熊を作るべく爽快なまでに素早く動いていた。教本通りの熊らしい形になったところで、風花のこだわりを詰め込むフェーズに差し掛かる。
    「順平くんは男の子だからちょっと大きめのほうがいいよね。あとは……ちょっと黒を入れて髭を……」
    頭の中で構想を練りながら花を足したり抜いたりしていく。その集中力は凄まじく、時折ぶつぶつと独り言を口にしながら、しかし着実に作業を進めていった。その最中、ちょうど熊の頬の辺りを弄っていた時である。
    「風花ー。今ちょっといいー?」
    コンコンと扉を叩く軽やかな音と共に、ゆかりの声が聞こえてきた。慌てて時計を見ると、いつの間にやら七時半を過ぎている。今日は休日だから他の寮生たちは皆出掛けていて、寮には自分しかいないはずだったのだが、どうやら違ったらしい。
    「ちょっと待ってね、今出るから……」
    返事をしながら作業の手を止め、作りかけの紺の熊を机の上にそっと下ろす。少し焦りながら扉の方へ向かったせいか、愛用のノートPCの充電コードに足を引っかけてしまった。きゃっ、と思わず短い悲鳴が漏れる。
    「ちょっ、どしたの?大丈夫?」
    「だ、大丈夫!なんでもないよ……!」
    扉の外まで声が聞こえてしまったことを恥じつつ、ちらりとPCの方を振り返る。コードに引っ張られて少し位置がずれただけでなんともないようだったが、それに押されて側にあった熊が移動してしまっていた。中でも順平を模した作りかけの熊は、机の縁ぎりぎりで落下の危機に瀕している。
    風花の視線がPCから熊に移ったのと同時に、自身の重さに耐えきれず紺の熊がふらりと前へ傾いた。そのまま机から離れ、花でできた体は床に向かって落下する。風花はなんとかそれを受け止めようと身を翻し、慌てて熊の方へ手を伸ばした。
    「あっ、駄目、順平くん……!」
    「はあ!?ちょっと順平アンタ風花に何して……!
    バン、と勢いよく扉が開かれる。
    焦りと怒りで半ば臨戦態勢を取るゆかりの視線の先には、花でできた小さな熊を手にしたまま横転している風花の姿があった。


    「……つまり、皆をモデルにアニマルフラワーを作ってて、この青いのが順平だったってワケね?」
    「う、うん……そう……」
    風花がおおよその事情を説明し終えると、ゆかりは反芻するようにして確認を促した。予想外の展開に縮こまっている風花とは対照的に、ゆかりは全身の力が抜けたように大きくため息を吐く。
    「な〜んだぁ……。もう、びっくりしたじゃん……。順平なら変なコトやらかしそうだしさ?」
    「あはは……ご、ごめんね?」
    「にしても良くできてるね、コレ。他のも風花が作ったんでしょ?」
    ゆかりは感心した目でまじまじと五つ並んだアニマルフラワーを見つめた。
    「うん。せっかくだから色々こだわろうと思ったら、結構時間かかっちゃって……」
    言いながら、風花はこっそり自分自身を責めた。あまり褒められることに慣れていないせいか、まるで言い訳をするようにマイナスのことを付け加えてしまう。風花が目を伏せたままでいると、ゆかりは不意に何か思いついたような顔をして言った。
    「ねえ風花」
    「な、なに?」
    「これさ、私も一緒に作っていい?」
    「えっ、一緒に?」
    きょとんとした顔で首を傾げる。もちろん、ゆかりと一緒に作るのが嫌なわけではない。ただ、風花の中に「一緒に」という発想が存在しなかったのだ。そんな風花の表情を見るや、ゆかりは明るい声で言葉を続けた。
    「だって、なんか楽しそうなんだもん。風花みたいに上手くできるかはわかんないけどさ。それに、皆の分作るんだったらまだ結構かかるでしょ?なんていうか、人手は多い方が良いかなって」
    「ゆかりちゃん……」
    自分を想っての申し出だったことを知り、風花は胸の奥に温かいものが満ちていくのを感じた。思わずゆかりの手を包み込むように優しく握って、穏やかな笑顔を向ける。
    「ありがとう。ふふ、すっごく嬉しい」
    「え、そんなに……?」
    大袈裟とも言える風花のリアクションに、ゆかりは若干気圧され気味だ。それでも構わず早速作業に取り掛かろうとする風花を、半ば呆れ気味にゆかりは制した。
    「あー、ストップストップ。もう良い時間だし、先にご飯にしない?」
    「え?あっ、ホントだ。気付かなかった」
    「気づかなかったって……ホント妙なトコ抜けてんだから……」
    輪をかけて呆れた顔でゆかりはため息を吐く。気恥ずかしそうに頬を赤くする風花を見ながら、そのまま話を続けた。
    「せっかくだし、一緒にどっか行かない?てか元々ご飯誘おうと思って風花の部屋来たんだけどさ」
    「あっ、そっか。じゃあちょっと待ってて。すぐ用意してくるから!」
    「いや、そこまで急がなくていいよ。ゆっくりで全然オッケーだから」
    また転ばれても困ると苦笑しながら声をかけられ、風花は再び恥ずかしさに顔を熱くした。
    「お、お待たせ!」
    支度を終えた風花が元気よく立ち上がる。
    「もー、なんでそんな気合い入ってんのよ」
    「だって、ゆかりちゃんに誘ってもらえて嬉しいから」
    揶揄うようなゆかりの言葉に、風花は柔らかい笑みと共に素直に答えた。あまり真っ直ぐに返されたせいかゆかりは風花と代わるように赤面してしまう。なんでそういうのははっきり言うかなー、とかなんとかぶつぶつと呟いているゆかりを見て、風花はふふっと小さく笑った。


    揃って寮を出た二人は、駅前にある商店街のラーメン屋へ向かった。
    注文したが届くまでの間、取り留めのない雑談に花を咲かせた。保健の授業が眠いとか、最近天田の身長が伸びた気がするとか、日常の些細なことを話しているだけであっという間に時間は過ぎてしまう。
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    mitsuhitomugi

    DONE3月5日には間に合わなかったし言うほど3月5日に寄せた話でもない、後輩達の卒業を祝う美鶴の話です。
    スターチス その日中に終えねばならない粗方の仕事を片付け、ふうと息を吐く。するとふっと力が抜けて、こんなにも肩に力を入れていたのかと美鶴はようやく気が付いた。
     ここ暫くは公安と共同での非公式シャドウ制圧部署の設立及び始動に向けた各所への調整、交渉、加えて各地に出現したシャドウの対処など、やるべきことが隙間なく詰まっていて休む暇がほとんど無い。当然、仕事で手抜きなどするつもりは毛頭無いが、やはり疲労は相応に溜まってしまうものである。
     気分転換に紅茶でも淹れよう。そう思い立ち席を立った時、窓から差し込む夕陽が目に入った。時計を見やると、時刻はそろそろ18時になろうかという頃だった。
     ほんの少し前までは、この時間になるととっくに陽は落ち切っていた気がする。春というのはこうも知らぬ間に訪れているものだったか。大人になると時の流れが早くなる、とは聞いたことがあるものの、いざ実感すると何かに置いて行かれてしまったような寂しさがあった。それはきっと、1年前まで寮で共同生活をしていた仲間達を想う懐かしさと一体の感情なのだろうと美鶴は思う。
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