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    mitsuhitomugi

    @mitsuhitomugi

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    mitsuhitomugi

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    真田明彦の誕生日小説です。今回はなんとか遅刻せずに済みました。
    高一設定、捏造ありなのでご注意ください。

    #真田明彦
    akihikoSanada
    #ペルソナ3
    persona3

    誕生日、いつも通りの朝 普段通りの時間に目を覚ました。
     ベッドから下り、カーテンを開く。日の出にはまだ早いらしく、部屋の明るさは大して変わらなかった。そのまま鍵に手をかけ、窓を開けて換気をする。外から侵入してきた冷たい風から逃れるように、窓から少しだけ離れた。ふと学習机の上に置かれたデジタル時計が目について、何とは無しに手に取って持ち上げる。非常にシンプルな造りをした四角いそれは、時刻は午前5時、日付は9月22日を表示していた。
     (ああ、そういえば今日だったか)
     いまいち覚醒し切れていない頭で、真田はぼんやりと自分の誕生日を認識した。子どもの頃は日がな一日そわそわと落ち着かない気持ちで過ごしていたものだが、16回目ともなれば特別感も薄れてくるらしい。
     時計を卓上に戻し、備え付けの洗面台に向かった。洗顔と歯磨きを済ませ、冷蔵庫から取り出したアイソトニック飲料を身体に流し込む。
     就寝中に失われた水分を補給し終えると、寝間着を脱いでTシャツとハーフパンツに着替えた。簡単なストレッチで全身の筋肉を伸ばし、走り込みの準備を完了させる。空腹時の運動は脂質からのエネルギー供給量が増大し、脂肪の燃焼にも効果的なのだと本で読んだのは中学生の時だった。それ以来、ボクサーとしての減量の必要性を考慮して朝食前の有酸素運動を習慣づけている。機能性に優れたランニングシューズに履き替え靴紐を固く結び、愛用のタオルを手にして自室を後にした。
     
     廊下を歩く途中、いつもは何気無く通り過ぎるだけの隣室の扉が不思議と目に止まった。
    「シンジ、お前も……いや、まだ寝てるか」
     せっかくだからたまには一緒に走るのも悪くないだろう、という考えが一瞬過ぎったが、すぐに頭を振ってそれを打ち消す。何せ眼前の部屋の主は朝とは非常に相性が悪いのだ。すっかり忘れていたが、荒垣愛用の実に個性的な目覚まし時計の騒音被害から逃れるため、というのも走り込みの時間を早朝に設定した理由の一つだった。それに無理矢理起こそうものなら延々と小言を聞かされ続けてその後の予定が全て狂うのは目に見えている。
    「仕方ない奴だ」
     普段散々自分に向けられる言葉を扉越しに言い返してやった。やってやった、という幼稚な達成感と優越感とで気を良くした真田は、僅かに軽くなった足取りのまま階段を駆け下りた。
     
     そうして向かったラウンジには誰の気配も無く、照明のひとつも点いていないせいか寂しげな雰囲気さえ醸し出していた。豪華な調度品をそこかしこに並べても余りある贅沢な空間は、たった三人で生活するにはやはり広すぎるのだろう。
     どこか途方もないような感情に囚われかけていると、突然、ガチャリという無機質な金属音が響いた。続けて、ギイと何者かが扉を開く音を聞き、咄嗟に音の方向に振り向く。
    「……ああ、真田君か。随分早いね」
     自分に向けられた間の抜けた声に、そういえばたまに大人一人も増えるんだった、と思い出した。同時に、これ以上空気が冷える前にさっさと行ってしまおうとも思った。
    「幾月さん。おはようございます。俺は今から走り込みなので、これで」
    「感心感心。そんな頑張るボクサーの真田君を僕も鼓舞しようかな?コブシだけに、って」
    「失礼します」
     真顔のまま力任せに扉を開き、足早に外へ飛び出して今度は思い切り閉める。安定したペースのことなどは一時的に頭から抜け落ち、感情の赴くまま我武者羅に走った。
    (いや、今のは無理があるだろ!!)
     流石に明け方の街中で大声を出すわけにもいかず、心の内で力の限り叫ぶ。脈絡が無いにも程があるし、そもそも朝っぱらから寒い駄洒落など聞かせないでほしい。いや、昼だろうが夜だろうがやめてほしい。幾月の駄洒落への鬱憤は挙げ始めるとキリが無かった。
     
     次から次に湧き出る不満が落ち着いてくる頃には、太陽が建造物の群れの隙間から顔を覗かせていた。暗かった空も陽の光を受けてほのかに明るくなっている。太陽付近は淡い青、そこから遠ざかるにつれて橙とピンクを混ぜたような色へと移ろってゆく。真夏のような鮮烈な眩しさこそ無いものの、そのグラデーションは見事だった。
    「……綺麗だ」
     無意識に漏れ出た言葉に自分でハッとする。同じ場所でありながら、影時間の気味の悪い光景とはまるで別世界のようだと思った。
     真田が影時間の適性を得てから、やがて一年近くが経つ。シャドウという人智を超えた怪物を相手に鍛えた力を振るうのは、強力な相手を求める真田にとっては願ってもない好機だった。
     その一方で、未だに影時間の景色には嫌悪感を拭い切れないでいる。人の、ひいては生物の根源的な忌避感を刺激するようなあの眺めは、たとえ慣れたところで断じて好きになどなれやしない。棺桶やら血溜まりやら、そこかしこに死を想起させる要素が溢れているのは不気味で癪に触る。
     だからこそ、影時間に適合し共闘する仲間達と共に、影時間とは正反対の澄んだ景色を共有したいと思った。シャドウを殲滅するべく集った自分達だが、たまには影時間とは無縁の時を共にしたってきっとバチは当たらないだろう。
    「帰るか」
     踵を返し、規則的なテンポで寮への道を辿る。日中は未だ三十度を超える暑さの日もあるが、早朝は秋らしく涼しい気候で、走るのにも最適だった。火照った身体にひんやりとした風が当たって気持ちが良い。
    (明日はシンジも誘ってみるか。日曜だから、寮に戻ってから二度寝でもなんでも好きにすればいいさ)
    (都合がつくようなら美鶴も誘おう。あいつはきっとこういうのも嫌いじゃないだろう)
     仲間のことを思う真田の口元には自然と笑みが浮かんでいた。

     寮に到着した時には既に辺りは随分明るくなっていた。この時間なら美鶴はもう起きていることだろう。優雅に朝食と嗜む美鶴と走り込みを終えて汗ばんだ真田という対照的な二人がラウンジで朝の挨拶を交わすのが、ここ最近は恒例となっている。
     歩道と寮の境に跨る階段を一段昇ったところで、おうい、と突然背後から呼び止められた。聞き慣れない声だが敵意は感じない。警戒を解いて後ろを振り返ると、正体はただの郵便配達員だった。
    「君、ここの寮の生徒さん?ちょうど良かった。これ、渡しといて!」
     そう告げて真田に一通の封筒を押し付ける。呆気に取られている隙に、青年は再び原付バイクに跨って颯爽と走り去ってしまった。
     やがてバイクの姿は見えなくなり、はっとして手元の封筒に目を落とす。宛名には「真田明彦様」と見覚えのある整った筆跡で書かれていた。裏返してみると、差出人として記載されているのは真田の養父母の名だった。
     予想外の両親からの便りに興味と少しばかりの心配を誘発され、思わずその場で開封する。やはり整った字で書かれた手紙の内容は、何ら変わったところもなく、普段通りの両親の温かい想いが数枚の便箋に綴られているに過ぎなかった。
     1枚目、「明彦へ」と宛名が書かれたすぐ下の行、誕生日おめでとうというシンプルな文言で本文は始まっていた。もう16歳になったのか、とかいつの間にかそんなに大きくなって、とか何とも照れ臭いことが書き連ねられている。
     2枚目に移ると、テーマは既に誕生日から移行していた。食事はちゃんとしているのか、あまり危険なことはしていないか。息子の身を案じる言葉に少々ぎくりとする。ここのところ食事は牛丼やラーメンに偏っているし、夜中に時々怪物との戦闘に繰り出している。そもそも寮暮らしを始めた理由自体がシャドウ討伐を目的とする特別課外活動部の結成にあるのだが、流石の真田もそんなことは両親に言えるはずもない。
     やや苦い顔をして次の文に目を移すと、つい二日前の選手権大会での優勝を祝うメッセージがあった。その次には真次郎君は元気か、とお互い顔見知りの荒垣を気遣う言葉。さらにその次は季節の変わり目だからと健康を案じる言葉。そうして最後には、たまには顔を見せに帰ってきなさい、と締め括られていた。思い返せば、寮での生活を始めて以来あまり実家に帰っていなかった。
    「とんだ親不孝者だな、俺は」
     反省と自分への呆れで苦笑する。手紙に綴られているだけでも、自分を心配する気持ちがひしひしと伝わってくるのだ。便箋に収まり切らなかった分を思うと、一体どれだけの気苦労をかけていることか。
     再度封筒に仕舞うべく便箋を元通りに折り畳もうとした拍子に、ある一部分が目についた。産まれた時のことは知らないけれど、それでも明彦は自慢の息子だ。そんなことが書かれていた。気恥ずかしさのあまり読み飛ばしてしまっていたのかもしれない。嬉しいはずなのに照れ臭くて、恥ずかしいからやめてくれと叫びたくなるようなむず痒さが胸に走る。いつだったか、何かの拍子に荒垣に「お前がいてくれて良かった」と感謝を伝えた時のことを思い出した。あの時はよくもそんな恥ずかしいことが言えるな、と一蹴されてしまったが、強くなることを誓い合った旧友と共に戦えることの喜びをそのまま言ったに過ぎないつもりだった。あの時の荒垣はこんな気持ちだったのだろうかと今更ながら思いを馳せる。
     
     ふと、随分昔に誰かに言われた言葉が頭を過った。誰に言われたのかは忘れてしまったし、今日まで思い出すこともなかったそれは、不思議と実感を伴って真田の前に姿を現した。
    「誕生日は、その年齢まで生きられたことに感謝する日……か」
     声に出して反芻し、ぼんやりとした心地で周囲の人々のことを思う。まず荒垣が、次に美鶴の顔が浮かんだ。続いて黒沢巡査と幾月。担任の教師にボクシング部の顧問や先輩。かつて孤児院で世話になった先生。両手で数え切れてしまう年齢で時が止まってしまった妹。もう顔も覚えていない実の両親。ずっと面倒をかけている相手も、もう二度と会えない人も含め、その全ての出会いや別れが今の自分を形成しているのだと、遠い記憶の底に沈んでいた言葉に説教された気分だった。手紙の束を封筒に仕舞い損ねたまま、感慨とも寂寥感ともつかない感情に耽り、立ち尽くす。
    「真田か?どうしたんだ、そんな所で」
     再び背後から声をかけられ、我に帰って慌てて回れ右をした。今度は聞き覚えのある声だった。
    「黒沢さん。おはようございます」
     黒沢巡査。警察官の制服に身を包んだその人は、特別課外活動部の秘密裏の支援者であり、真田にとっては格別の恩人でもある。自身の信条に則って正義を貫く姿勢に、真田は全幅の信頼と憧憬を寄せていた。
    「ああ。で、何してるんだ」
    「いや、特に何も……」
    「そうか」
     簡単に切り上げられこそしたものの、もしやこれは職務質問に当たるのではないか。そんな疑念が引っかかって微妙な顔をする真田も厭わず、黒沢は普段通りの険しげな顔で話を続けた。
    「そういえばお前、今日誕生日じゃなかったか?」
    「ええ、まあ」
    「……そうか」
    ほんの一瞬だけ押し黙った黒沢は、まるで何かをじっくり噛み締めるような神妙な面持ちをしていた。不思議そうな顔をした真田を見つめ、ふっと小さく溜息を吐く。
    「もう16歳か。まだまだ子供だが……でかくなったもんだな」
    どこかしみじみとした物言いが、真田の中で握ったままの両親の手紙と重なった。一見冷徹なこの人も、心の奥底では自分を祝福してくれているのだろうか。
    「あの、黒沢さん」
    「何だ」
    小さな覚悟を決めて、やや畏まって黒沢に向き合う。軽く息を吸い、はっきりとした声で言った。
    「いつもありがとうございます。何かと面倒をかけてばかりですが、これからもよろしくお願いします」
    「どうした、そんないきなり改まって……」
    「言いたくなっただけです。では」
     険しい顔が驚きに染まってしまった黒沢を置き去りに、真田は寮の中へ逃げるように入った。荒垣の時は何も思わなかったのに、いざ自分が言われる側を経験すると不思議と日頃の礼を言うのも恥ずかしくなってしまう。感謝を素直に伝えるとはこうも難しいものだったか。全身に羽で撫でられたようなくすぐったさを覚える。
    「戻ったか。相変わらず早いな」
     美鶴の声で意識を引き戻された。真田が俯いたままこっそり顔を羞恥に歪めていることには気づいていないらしく、紅茶を啜りながらゆったりと朝食を摂っている。
    「ああ。シンジの奴はまだ起きていないか」
    「まだだな。さっきアラームが鳴っていたが、あと30分はかかるだろう」
    「美鶴もなかなかシンジのことが分かってきたじゃないか」
    「まあ、半年も共に生活していればな」
    流石にお前ほどじゃないが、とつけ加える美鶴はどこか上機嫌だった。そんな感情の機微にも気付けるようになった辺り、自分も少しは美鶴のことが理解できてきたのかもしれないと真田は思う。
    「ところで、だ。明彦、少しこっちへ来い」
     突然の招集命令に思わず身を縮めた。特に悪さをした覚えはないが、知らぬ間にお嬢様の気に障ることをしでかしていたのだろうか。自分の行動を振り返ってみるが特に思い当たる節はない。前言撤回、やはり美鶴のことはよく分からないままだ。
    「何だ、俺は何もしていないぞ」
    「説教じゃない。それとも心当たりでもあるのか?」
    「何もしてないと言っただろ」
     口ではそう言いつつ、内心かなりほっとした。それを見透かされていやしないかと若干の警戒を残しつつ、美鶴の座る椅子の傍らに向かった。
    「今日はお前の誕生日だろう。これは私からのプレゼントだ」
     そう言って一枚の紙切れを手渡される。今日はよく紙を受け取る日だ。
    「格闘技の試合の観戦チケットだ。大会の主催団体がグループの関連法人でな。運良く譲って貰えたんだ」
     どうやら美鶴は、荒垣だけでなく真田のことも随分良く分かっているらしい。チケットには名の知れた強豪選手同士の対戦カードが書かれており、それだけでこちらまで燃えたぎるような思いだった。
    「ありがとう。こんなに胸躍るものをお前から貰えるとはな。今から楽しみだ」
    「礼を言うのは私の方さ。……私は今まで一人で戦っていたからな。背中を預け合い共に戦う仲間がいるというのは有難いことだ。お前には本当に感謝している」
     微笑みながらそう言われ、先程までのむず痒さがぶり返した。ああ、今日はそういう日か。照れ臭さに身悶えするような心地を制御しながらぼんやりと思う。この感覚を脱して再び素直に感謝の応酬ができるようになるには、あと何回誕生日を迎える必要があるのだろう。
    「ああ、じゃあ俺は部屋に戻る。まだ朝のトレーニングが終わっていないからな」
     ぎこちなく告げてそそくさと階段へ向かう。忙しない奴、と美鶴が呟くのが微かに聞こえた。
     
     足早に階段を駆け上って二階に到着し、今度は意思を持って荒垣の部屋を見据えた。向かい合うようにして扉の対面で仁王立ちの姿勢を取る。
    (どうせ寝ているだろうし、起きていたとしても構うものか)
     す、と小さく息を吸って、部屋の中にいても聞こえるように声を飛ばした。
    「シンジ!前にも言ったが、俺はお前に出会えて良かったと思ってる!」
    心に侵食してくる羞恥心を薙ぎ払うように腹に力を込め、思い切って荒垣に声が届くように叫ぶ。
    「これからもよろしくな!」
     一際大きな声で告げた時、真田はその日で一番の溌剌とした表情をしていた。荒垣に聞こえていたかは分からないが、言いたいことを言い切ったからだろうか。真田はまるで霧が晴れたような心地だった。己の羞恥心に打ち勝った。その事実に、真田はまた一つ強くなったような誇らしさを覚える。
    (悔しかったら、お前も素直に言ってみればいい。案外悪くないぞ)
     今度は心の内だけで荒垣に告げ、上機嫌なまま真田は自室に戻っていった。
     窓の外では、太陽がその日中の快晴を予告するように煌々と輝いていた。
     
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    mitsuhitomugi

    DONE3月5日には間に合わなかったし言うほど3月5日に寄せた話でもない、後輩達の卒業を祝う美鶴の話です。
    スターチス その日中に終えねばならない粗方の仕事を片付け、ふうと息を吐く。するとふっと力が抜けて、こんなにも肩に力を入れていたのかと美鶴はようやく気が付いた。
     ここ暫くは公安と共同での非公式シャドウ制圧部署の設立及び始動に向けた各所への調整、交渉、加えて各地に出現したシャドウの対処など、やるべきことが隙間なく詰まっていて休む暇がほとんど無い。当然、仕事で手抜きなどするつもりは毛頭無いが、やはり疲労は相応に溜まってしまうものである。
     気分転換に紅茶でも淹れよう。そう思い立ち席を立った時、窓から差し込む夕陽が目に入った。時計を見やると、時刻はそろそろ18時になろうかという頃だった。
     ほんの少し前までは、この時間になるととっくに陽は落ち切っていた気がする。春というのはこうも知らぬ間に訪れているものだったか。大人になると時の流れが早くなる、とは聞いたことがあるものの、いざ実感すると何かに置いて行かれてしまったような寂しさがあった。それはきっと、1年前まで寮で共同生活をしていた仲間達を想う懐かしさと一体の感情なのだろうと美鶴は思う。
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