雲深不知処の冬の朝
藍忘機の朝はいつも決まっている。
卯の刻ぴったりに目を覚ます。
傍らで眠る魏嬰の温もりをほんの少し抱きしめ、幸せを噛みしめる。
柔らかな温もりを起こさぬよう、慎重に褥を抜け出す。
身支度をさっと整え、いまだ夢の住人である道侶の柔らかな髪に口づけを落とす。
後ろ髪をひかれるように、勤めへと向かう。
その日の朝も静かに身支度を済ませ、道侶を振り返...
ずぼっ!!
...ろうとしたところで、足元に冷たいなにかが突っ込んできた。
「っ!!!!」さすがの含光君も驚いて肌が泡立つ。
足元を見れば黒い尻尾が裾から生えている。
「うぇいいん」
正体はがたがたと震え、温もりを求める魏嬰だった。
「さむ~い」とかすれた声が聞こえる。
そういえば朝方、急に冷え込んだ。
室の外からはしんしんと雪が降る音が聞こえてきていた。
「魏嬰出てきて。これでは動けない。」
魏嬰は寝ぼけているのか、動こうとした含光君の脚に抱きつき頬を摺り寄せてくる。
何とか動こうと藻掻くが、魏嬰の腕がますます絡み、含光君はついに動けなくなった。
「うぇいいぃんん...」
まるで迷子のような情けないか細い声が静室に響く。
必死に藻掻いた結果、魏嬰はその内腿へ頬を寄せていた。
魏嬰はまだ夢の中。すりすりすりすり...
なかなか姿を見せない含光君を心配した思追と景儀が、耳を真っ赤に染め微かに震え脂汗を滲ませた師を見つけるのはもう少し後のこと。