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    yuno

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    yuno

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    男やもめ江澄で曦澄の下書き。のっけから妻君のお葬式で始まる暗い展開ですが、全体的にはほのぼの雰囲気でいく、はず。どっちも既婚者で死別や離縁を経てくっつくという、読む人を選ぶ話です。不妊とかあるので、苦手な人は回れ右。

    #曦澄

    【曦澄】もう一度 #1「そんな……」

    突然の訃報に藍曦臣は言葉を失った。
    江宗主、江晩吟の妻君が亡くなったという。
    病に侵されたなどの話は聞いていなかった。つい先月会った時も元気そうだったのに。

    信じがたい気持ちで届けられた文に目を落とす。だが、そこには葬儀の日取りが淡々と書き添えられていただけだった。

    「……」

    本当なのか。
    身内を失う痛みを彼の人はまたも味わうのか。天を仰ぎ、沈痛な面持ちで藍曦臣は深くため息をついた。


    そして葬儀の日。暗く沈んだ蓮花塢を訪れた藍曦臣を出迎えたのは魏無羨だった。
    訃報を聞き、真っ先に駆けつけた後、細々と葬儀の手配を手伝っていたらしい。
    こっちに江澄がいるから。そう言って案内された部屋には、棺の傍に控える江晩吟がいた。二人の幼い子供が父親の衣の裾を握り締めながら寄り添っている。

    「江宗主……この度はなんと言ったらいいのか……」
    「……藍宗主、澤蕪君。来ていただいたこと、感謝する」
    「いえ……」

    拱手を返す江晩吟は憔悴した面持ちだった。無理もない。本当に仲の良い夫婦だった。
    妻君は子どもたちを連れて運河の畔を歩いていた折、不意に水の怪に襲われ、子を庇って重傷を負ったのだという。
    伴の門弟が駆けつけ、怪は倒したものの、彼女の傷は深く、必死の手当の甲斐もなく、亡くなったのだと。
    最後に言葉を交わせたのがせめてもの慰めだった。
    そう涙を見せる江晩吟に、藍曦臣は掛ける言葉もないまま、ただその背を抱いた。


    江晩吟と妻君の出会いは、夜狩りだったと聞いている。
    妻君は小さな仙門の息女だった。仙子ではあったが、修位はさほど高くはなかったらしい。
    その日は近隣の村人から畑を荒らす邪宗を払ってほしいとの嘆願を聞き、親族で連れ立って山に入ったのだという。
    畑を荒らす程度の微弱なものと想定していたところが、追ってみれば大きな猪が変じた化け物で、気性も荒く、手に負えない。
    奮われる牙に負傷者も出て、たまらず救援を呼んだところ、駆けつけたのが江晩吟率いる雲夢江氏だった。
    強く猛々しい江宗主の勇姿と、言葉こそ荒っぽいものの、的確な救護と負傷者への気配りに、すっかり惚れ込んでしまって、どうか娶っていただけないかと押しかけたんですよと、二人の馴れ初めを彼女は朗らかに笑っていた。

    彼女がそう言って笑うたび、江晩吟は傍らで顔を赤くしながらも顰め面になるという器用なことをしていた。照れ隠しだろうことは傍目にも明らかで、藍曦臣も微笑ましく思っていたものだった。
    妻を娶り、子を成した江晩吟は、家庭を持ったことで落ち着いたらしい。人当たりも丸くなったと周囲の評判も変わっていった。
    彼自身、意外なほどに愛妻家で子煩悩な面があったらしい。
    苛烈さは健在で、道に反したことには厳しい態度を示すことに変わりはないものの、妻子を得たことで、年重の宗主たちとの共通の話題ができたこともあったのかもしれない。
    そうして、良い意味で変わっていった江晩吟に、藍曦臣にも妻を娶ってはどうかと話が来るようになったのは自然な成り行きだった。

    流れに逆らえずと言っては語弊があるだろうか。ただ、そろそろ自分も家庭を持ってもいいかと思ったのは確かだった。
    弟夫夫が仲睦まじく暮らしていることもあり、また知人が穏やかな家庭を築いていると聞けば、影響も受ける。
    自分も妻帯してもおかしくない年齢だ。むしろ遅すぎたかもしれない。
    周囲に勧められたこともあり、藍曦臣も江晩吟に続くように婚姻を結んだ。

    だが、藍曦臣の夫婦生活は彼らのように順風満帆とは行かなかった。
    婚姻して十年ほど。江晩吟は妻君との間に二児をもうけたが、藍曦臣は子宝には恵まれなかった。
    子が産まれないことを一門の長老たちだけでなく、周囲の者たちにまであれこれ悪く噂され、藍曦臣の妻は気を病んでしまった。
    どうか離縁してほしい。そう申し出された時は愕然とした。

    妻とその両親から、いつまでも孕めぬことが心苦しい、このまま夫婦として暮らしていても、藍氏宗主の妻としての責務を果たせそうにないことが辛いのだと涙ながらに訴えられ、離縁してほしいと懇願された。
    妻が心の病を患い、苦しんでいることは藍曦臣も知っていた。子の授かりは天の采配のようなものだからと言い聞かせ、気に病むことはないと話していたけれど、周囲は放っておいてはくれなかった。
    どれだけ耳に入れぬよう気を配っても、人の陰口を完全に遮ることはできず。十年近く連れ添いながらも子ができぬ事実もまた彼女を追い詰めたらしい。
    藍曦臣が責めることなく慰めてくれることさえ辛いのだと泣かれ、これ以上夫婦関係を続けることは彼女のためにもならないと、申し出を受け入れ、離縁した。それが昨年のことだった。

    自分には妻子の縁が薄いのだろうか。
    江晩吟や聶懐桑の子どもたちと触れ合うことは藍曦臣の心を温めたが、思えば、自身の子が欲しいと切望したことはなかった。その心持ちの違いを、別れた妻は感じ取っていたのかもしれない。

    再婚を促してくる周囲の声を躱しつつ、もうしばらくは一人でいよう、宗主として民の安寧を願い、暮らす身でいようと藍曦臣が心を決めた折だった。
    藍曦臣が見守りたいと願った幸福の形。そのひとつだった江晩吟の家族の悲報。酷く心が痛んだ。
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     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
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     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
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     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
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    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
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    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
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    「よかった、あなたをお守りできて」
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