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    しらい

    mhyk | 主にネロ晶♀

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    しらい

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    ネロから見た晶ちゃんのセカンドインプレッションの話。
    未来でネロ晶♀になる。

    二度目まして、こんにちは「……けて……」
    (ん?)
     よく晴れているから外の方が気分がいいだろうと、人気のない居心地のよさそうな場所を探して庭を歩いていると、微かにひとの声が聞こえた気がして立ち止まる。
    「助けてください……!」
    「え」
     今度ははっきり聞こえた。助けを求める女の声だ。上、しかもかなり遠くの方から聞こえるから驚いた。
    「賢者さんか⁈」
     訊きながら、目の前の、魔法舎を囲うように生えている木立のどこかにいるんじゃないかと感じ、魔法で箒を出して浮上する。
    「ネロ……! ここです! 助けてください……!」
     思った通り、木にしがみついている彼女を見つけた。
     地上から賢者さんのいる位置まで、軽く十メートルはあるだろう。可哀想に、魔法も使えないからぶるぶる震えて助けを待つことしかできなかったんだ。
    「≪アドノディス・オムニス≫」
     移動距離ができるだけ短くなるように、ギリギリまで木に近付いてから、彼女を魔法で箒まで運ぶ。運ばれている間、ぎゅっと目をつむって手足を縮こめている賢者さんは、親猫に咥えられながら移動する子猫みたいだった。彼女は人間でいえば大人な歳だろうに。よく知らない間柄ながら気の毒だ。
     今以上に怖い思いをしないようにと、できるだけそっと、箒におろそうとした。柄の細い部分だと初心者は不安定だから、穂の根元、柄をくるんでるところに。重心が傾かないように魔法で調整しながら自分も一緒に移動して、掴まってもらいやすいように。椅子に腰かけるような姿勢が楽だろう。
    (あ、ちくちくしちまうかな)
     お尻がつく直前、気休めになればとポケットの中にあったタオルを下に滑らせた。
     誰かを、しかも非力な人間の女を箒に乗せるのはひどく久し振りだったから、色んなことが一度に気になってしまう。
    「ちゃんと掴まってな」
    「はい……! ネロ、本当に助かりました。ありがとうございます……!」
     はい、と言いつつ、わき腹の腰のあたり、シャツが余っているところを握るぐらいのことしかしてこないのが気になった。どっちにしろまだ高いところにいるんだから、腹に腕を回してくるなりして身をこちらに預ければ安心だろうに。
     遠慮深いというか我慢強いというか、いっそいじらしいほどに、ほとんど初対面の俺との距離感を守ってくれてるんだなと感じた。
    「大変な目に遭ったな」
     徐々に高度を下げながら、短い空の旅の道中、気まずくならない程度に話ができればいいと思った。
    「はい……。ムルがやってきて『賢者様、何を見てるの? 空? 雲? 近付きたい? 近付いたらきっと楽しい~♪』って言われたと思った瞬間には体が浮いていて……」
    「ああ……。なるほど……。それは寧ろ木の上におろしてもらえて良かったな」
     言いながら、その場面が目に浮かぶようで、胸がざわざわした。いかにも西の魔法使いがやりそうな、イカれた「愛のある」行動じゃないか。
    (しばらくこの魔法舎で暮らすってことは、さっき賢者さんが遭ったような目に俺も遭うかもしれないってことなんだよな……)
     北の国で感じていたのとは違う意味で寿命が縮む心地がして、密かに背筋をゾクゾクさせた。
    「はい、お疲れさん」
    「本当にありがとうございました」
     箒で十メートルを降りるのは、ほんの一瞬。文字通り地に足を着けて、ようやく安堵の表情を見せた賢者さんにこっちも何だかほっとする。
    「ネロが気付いてくれなかったらと思うとゾッとします。魔法舎に来てもらって早々、迷惑をかけてしまってすみませんでした」
    「いやいや、あんたのせいじゃないだろ。謝んなくていいから。こんぐらい、何てことないし」
     本当、どこまで自分の責任にするつもりなんだ、この人は。
    断りもなく勝手に魔法を使われた結果だってのに。
     思えば、最初からそうだ。異世界から突然魔法舎に呼び出されたってことだけでも大変だろうに、この人は、初めて目にする魔法使い、しかも異性ばかり二十一人と一緒に≪大いなる厄災≫と戦うことを運命づけられて文句一つ言っていない。いや、文句を言わないどころか、運命を受け容れ、俺らと一緒に暮らすっていう未来に向けた眩しい提案を理性で飲み込んだ。
     ひとと関わることを避け続けている俺からしたら、本当、考えられない。まあ、その選択のあおりを受けて、いたくもない場所にいるのはこっちだから、何とも言えないけど。
    「……あの、ネロ」
    「何?」
    「タオル、ありがとうございました。嬉しかったです。それから、やっぱり箒に乗るって気持ちががいいですね」
    「……そっか、どうも」
     では、と一礼して魔法舎に戻っていく賢者さんを見送る。
     なるほど、こういう人間なんだ。真木晶っていう俺たちの賢者様は。自分の身に降りかかった災難の中で、自分のお気に入りを見つけようとする、ある種の頑丈さ、しぶとさ、逞しさ、健気さ、そしてそれを伝える素直さのある人。そのうえ、それを相手に押し付けようとしているわけでもない。
    (飯屋の客でもなかなかいないタイプだ)
     客としてなら、間違いなく満点(人に点数をつけるのはどうかとも思うけど)を付けたい人柄だ。店の物も雰囲気も、この人に壊されることは多分ないだろう。そして、毎回、帰り際に「ごちそうさま、ありがとう」って言ってくれるような想像がつく。でも……。
    (何か苦手だな。できるだけ丁寧に扱わないとダメなやつじゃん)
     客としてじゃなく、賢者の魔法使いとしてこの人に着いていかなきゃいけないことを考えると、ちょっと気が重かった。
     自分が、この人の丁寧さに十分に応える自信が全くない。使われる身として信頼されるのも苦手なのに。かと言って、「信用するな」と言える程の距離にもまだいなかった。
    (近付くにも遠ざかるにも面倒くさそ……)
     それが、俺の、賢者さんへの「第二印象」だった。
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