『千両万両あの赤をみよ』 今日は唐の書風をまねた。
学園の門番は入門票に名が記されたことに満足した。手蹟のちがいには目くじらを立てず。本人を証立てる筆の運びでなく、出入りの数ばかり重視する姿勢は、警固のつとめの半分も果たせていない。しかしそれでも忍術学園は陥落を知らぬのだから、無断で出入りすることの多い曲者にとやかく指摘する筋合いはなかった。
己が守る門の内に客を入れた小松田は首をひねった。
「伝言があるんです」
「なにかな」
「それがですねえ、今日のおあげがおいしかったなあと思い出していたら、隠れちゃって」
待っててください見つけますからと真剣な顔つきが空を睨む。鳥来る冬だった。鴨って食べたことありますかと忍者を志す若者が訊く。あれはね雁だよとタソガレドキ忍組頭は穏やかに答えた。「どちらも食べたことがある」
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