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    ザリガニ見習

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    DONE【雑伊】現パロ。ヘアドネするために伸ばしている伊作さんの髪が雑渡さんのボタンに絡んでしまった話。曲者ではない雑渡さんです。20240308
    『交差』「骨折だってありえますよ!」
     学生の心配は大きかった。
     自転車に当て逃げされたのは雑渡である。転倒し、打ちつけた掌と前腕の擦過傷に、ゆるやかに水をそそぐ細やかさを発揮しながら、目撃者の想像は実に大胆だった。
     骨折か。経験したことはなく、現在洗浄真っ最中の傷も過去を凌駕する痛みではない。そんなに酷くはないよとからになったペットボトルの蓋を閉める学生に告げた。彼(たぶん)は次にティッシュを差し出しながら、きっぱりとこちらを見上げた。後頭部の中ほどで結わえた髪がシャツの肩からずり落ちる。僕がそうでした。若き経験者の切実さに雑渡は肚をくくった。
     腕の水滴を拭き、警察へ通報。一方、学生もスマホを手に取り、証言します自転車の色も覚えていますと奮然と、しかし冷静に周囲の整形外科を検索した。通信容量を割いてもらった上、この辺りは通学に使うだけだから評判のいい病院も知らなくてすみませんと謝られ、雑渡はこれがジェネレーションギャップかと感じた。高校生ってこんなんだったっけ? 二十年前の己の姿などおぼろげだ。明瞭なのは逃げた自転車。衝突によりスポークが外れたのか、カカカッと喚き去った。消えるなら一生消えてしまえ。当て逃げするような奴と金輪際関わりたくはない。ないが、寸暇を置かず大丈夫ですかと駆け寄ってきた振動が、いまも隣で響いている。
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    DONE【譲テツ】サンタさんからプレゼントを貰っちゃって焦る譲介(高1)と、子どもに伝承される「サンタさん」という夢の話。20231226
    『僕のサンタ』 ポイントは目に涙をためること。
     さも「事実」を知って傷ついた子どものふりをする事だ。
     僕たちには親がいないからサンタさんも来ないんですよね、だって、サンタさんの正体は、
     親の成りすましだと暴くもよし。言葉を濁すもよし。養護施設の職員をまごつかせる遊びだった。サンタクロースを信じる子どもが職員にまとわりついている時を狙う。眼を張り、耳を傾け、大人の機嫌を乗りこなす正しい方法を懸命に探りながら、大人の語る欺瞞ゆめを信じて握る小さな手。その矛盾に譲介は耐えられなかった。期待は裏切られるために在る。早く「真実」を知るべきなのだ。
     だから今年も譲介は、目覚めのプレゼントを投下した。

     高校入学前に移った施設の食堂で、くしゃくしゃのピンク色の画用紙を譲介は拾った。引き裂かれ、棚の裏に隠された悪意の花びらを案内の職員に渡す。ひどいやつがいますねと眉をひそめて見せた。みつけてくれてありがとうと顎の位置で髪を切り揃えた職員は微笑んだ。こちらに同調して世話してるガキ共を腐さなかったなと譲介は胸中に記録した。
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    DONE【オールキャラ】一人先生の診療所兼自宅に増えた人と茶碗の話。20230514
    『神代さんちの食器棚』〈1996年〉
     神代一人は十九歳。
     割れた茶碗の片づけ方など、十分に知っていた。新聞紙で包み、「ワレモノ」とくっきり表示して、燃えないごみの日に捨てる。たった三つの動作。むかし、母から教わった。神代家が暮らす村は山間に位置する。村内におけるごみの収集は提携する隣市の回収車が担っていた。次の燃えないごみの日は再来週の木曜日。新聞の端を止めるガムテープは廊下の作業棚。ペンは診察室の机の上。古新聞は食器棚の側に積んである。台所仕事で何かと重宝するからだ。これも、むかし、母から教わった。
     そう頭は働くのに、体は動かなかった。
     ようよう動かせたのは瞼で、ぎゅっと目を閉じ、再び瞼を動かし開けた視界にも、彼の飯茶碗は床で割れたままだった。砕けた音を聞きつけて大丈夫かと尋ねる声は駆けつけない。神代家に暮らすただひとりのひとりごとは食器棚のガラス戸をそっと震わせた。どうしよう。取りやすい高さに並ぶ母の、父の、村井さんの茶碗は彼のものではなかったので、客用のひとつを借りることに決めた。そして炊飯器の蓋を開いて湯気に当てられたところで、やるべき事を思い出した手は慎重に借りものの器を離した。踵を返し、新聞紙を摑む。中学の頃より毎日食事をともにした彼の破片を集めた。怪我をしないように重々気をつけた。神代一人は村でただひとりの医者である。己が傷の回復を悠長に待つ時間ひまなどなかった。
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    DOODLE【譲テツ】同居時代にソファに並んでピザ食ってる譲介とTETSUの小話。体裁を整えた作文ではないので読みづらいです。20230401
    『TETSUとピザ』 誰からの便りも送られてこない二人のおうちのポストを、普段の“仕事”として覗いた譲介がピザの広告を発見。ちょうど家主不在時でもあったのでカレー味のピザを頼む。生地の耳にソーセージも入れちゃう。やがてインターホンが夕飯の到着を告げる。オートロックを解除して玄関で待機していると、外から聞き慣れた杖の音が耳に届いた。和久井さんですか?と初めて聞く声が尋ね、聞き慣れた声がそうだと応じる。配達と帰宅が重なったのだ。開けるに開けられなくなったドアが向こう側から叩かれる。この場にいなかったふりは通じないだろう。いま開けますと大きく返事をして鍵と鎖を外せば、玄関扉は恭しく主人の帰還を迎えいれた。
     片手に杖、片手に八角形の平たい箱を抱えたTETSUの前に、靴を脱ぐに使う腰掛けを用意する。椅子を放した両手は、ほらよと渡された箱で満たされた。ほかほかだった。すんなり引き渡されたことに驚き、却って言葉に詰まる。座って屈んだ背中に、お金を、と声をしぼり出す。もう片方の靴に取りかかり、振り向かぬ背中が坦々と、てめぇの食費はもともとオレ持ちだ。杖を支えに膝が立つ。仕事を果たした椅子を廊下の隅へ。それからTETSUは洗面所に。譲介はドアを開け放ったままリビングのテーブルにピザを置き、蓋を開け、ほのかに立ち昇る熱を嗅いで、ようやくピザが一枚しかない事実に気がついた。それもMサイズである。生地のふちに包み込まれたソーセージがカロリーを補うと言えど、はたして自分より体格のいい大人が半分で間に合うだろうか?
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