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    ザリガニ見習

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    【譲テツ】USで医者やってる譲介が病気から回復したTETSUとの再同居を賭けてコイントスをやっては負け続けている話。フォロイーさんの設定が元になっています。20230920

    #譲テツ
    ##K2

    『ダイム・スイート・ダイム』 この店のドーナツも一通り食べきってしまった。
     そもそも味が五つしかない。シュガー、シナモン、チョコスプレー、カラーチョコスプレー、青色の何か。最後のだって、最初に口にしたとき、TETSUは対面の、今はむすっと機嫌を斜めがけにした若いのと声を揃えてチョコだな、チョコですねと品評し合った。チョコ味であった。つまり厳密には味のバリエーションは三種類だ。けれど仕方がない。ここはダイナーであって、ドーナツショップではなく、しかもアップルパイが絶品なのだ。
     二十二時を回って売れ残るドーナツの穴を眺めながら、TETSUがよしなしごとを考えるのは、会話相手の口がひん曲がっているからである。むくれている。コーヒーのお代わりを注ぎにきた亭主に、どう思う、と若者を顎でさしながら尋ねた。
    「外してやりなよ」
     亭主は肩をすくめ、前掛けに回収したコーヒー代のつりを置いてカウンターに戻った。
     外してくださいよと、とうとう譲介が口を開いた。
     外させてみせろよとTETSUは冷めゆくポテトを閉まる戸口に突っ込んだ。
     芋から舌にへばりついた油をコーヒーの苦味で譲介は流し込んだ。
    「……マジシャンに弟子入りしようかな」
    「お誕生会にでも呼ばれたか?」
    「今です。いま。あなたに披露する用にです」
     皮肉で応じる余裕もないらしい。譲介は黙然の合間に手許に寄せたつり銭から10セント硬貨をつまむと、右手親指の爪に乗せ、上に弾いた。
     くるくる。きらきら。
     ここ、アメリカ合衆国第三十二代大統領の肖像が表に、炎をあげる松明と二本の枝葉が裏に浮き彫りされたワンダイム。二十四時間営業の看板に恥じぬ店内の照明。夜の暗さ何するものぞと楽しげに、銀色の笑いが、待ち受ける左の甲に舞い降りる。
     そして右手の閃き。コインをはじき飛ばすしくじりもとうに昔の、両手の重なりをずいと突きつけ、儀式の呪文。heads or tails?
     TETSUは悩むそぶりも見せなかった。「裏」
     つづらの蓋が開かれる。譲介は呻いた。勢い下がったふわふわの頭をひと撫で、半端に浮いた左手から燃える松明を回収する。
     さて、これで何枚目か。そういう細かなことを記憶するのは若い方の役目だったので、遠慮なくTETSUは尋ねた。
    「今日で三枚。通算で六四枚目です」
    「おや。オレの歳を越しちまったか」
     一緒に暮らしましょうよ、とは、譲介から切り出されたものだった。
     家賃は折半、家電は充実、職場に近くて、ピザがそっくり入る幅の冷凍庫とキングサイズのベッドが有るんです。
     心惹かれるアピールではあった。いささか家具の宣伝に片寄りすぎてはいたが。常勤医師の譲介が夜更かしをしてよい晩――例えば今夜のような――に、同じ職場からやや離れたTETSUの住居に足をお運びいただき、ふたりでしか出来ないことをした。それから泊まっていくこともあれば、こうして夜食を経由して送り届けることもあった。TETSUの部屋にベッドの余分はない。遠からぬ処分のことを考えれば物を増やしたくなかった。くすんだ緑色のソファで背中を翌朝痛めることに飽きた譲介は僕も若くないのでと切り出した。
     断るには立派な理由があった。TETSUの貯えの問題である。非常勤の医師として稼ぎは確保しているが、二十年弱体に巣食った病と加齢により、あと何年勤められるか。遠からぬ無収入のことを考えれば家賃の折半など適わない。若い譲介に金のことで厄介になりたくはなかった。
     その前に死ねればいいのだが。
     これを表白せば、かつて過ごした昔日の幼い顔つきで情人が泣くので、ポテトとともに噛み砕いた。
     次はケチャップもつけてくださいと、一時間前の残り火をたたえた左手がTETSUの右手に添えられる。自分で食えとTETSUは皿ごと甘えを押しやった。
    「手品を覚えて、サマするンならよ、完璧に騙せよ。騙されていることも疑わせるな」
    「無茶苦茶を言う。それに、手品とイカサマは違うものですよ」
    「あぁ? じゃあ弟子入りってのは何だ」
    「表も裏も、出なければいいのになって。投げたコインがリムで着地したら、それもハズレではあるでしょう?」
    「魔法だな」
    「魔法に期待するしかないんです。今の僕は。ぜんぶ当てるんだもん。六十四回連続ですよ? コイントスに頼らなければよかった」
     軽い誘いだったのは確かだ。無難にシュガードーナツを分けっこした晩、つり銭のダイムを見た若造が言い出した。徹郎さんは当てる方が得意そうだから外したら僕と暮らしてください。そしてつたないコイントス。回らず戻ってきた表裏の行く末はTETSUでなくとも見定められた。その後、どこで練習したものか。勝負の回転数は上がったが、TETSUの眼識もまた達者であった。
     まあ、譲介と同居して生活費を折半すれば貯蓄は持つのだ、実際。体調も経済も家計も、このまま行ければ。同居の案を断るために自分を納得させる理由を考えるのも面倒になったので誘いを承諾したが、くだらない嘘を吐いて自ら勝負を降りるのは矜持に反した。
     TETSUのベッドを訪ねては、ナイトボードの明かりに輝くクエイド印のばかでかいマグカップに貯めこまれた敗北の残骸を譲介はうらめしげに視た。中身が溢れたら今度はそっちが当てる番だと、まだ本人には告げていない。告げれば驚き、やる気で笑顔を満たすだろう。むくれる様子もカワイイが、毎日見るなら別の表情がいい。
     コインは両面あって成立する。やり方のひとつが上手くいかないなら、もう一面を試せばいいのだ。
     TETSUはいたって「器用」である。
     譲介はきっと一発で当てられるだろう。
     別な世界へと連れてゆく、夢の10セント硬貨を、TETSUは高く投げ上げた。
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    DONE【雑伊】現パロ。ヘアドネするために伸ばしている伊作さんの髪が雑渡さんのボタンに絡んでしまった話。曲者ではない雑渡さんです。20240308
    『交差』「骨折だってありえますよ!」
     学生の心配は大きかった。
     自転車に当て逃げされたのは雑渡である。転倒し、打ちつけた掌と前腕の擦過傷に、ゆるやかに水をそそぐ細やかさを発揮しながら、目撃者の想像は実に大胆だった。
     骨折か。経験したことはなく、現在洗浄真っ最中の傷も過去を凌駕する痛みではない。そんなに酷くはないよとからになったペットボトルの蓋を閉める学生に告げた。彼(たぶん)は次にティッシュを差し出しながら、きっぱりとこちらを見上げた。後頭部の中ほどで結わえた髪がシャツの肩からずり落ちる。僕がそうでした。若き経験者の切実さに雑渡は肚をくくった。
     腕の水滴を拭き、警察へ通報。一方、学生もスマホを手に取り、証言します自転車の色も覚えていますと奮然と、しかし冷静に周囲の整形外科を検索した。通信容量を割いてもらった上、この辺りは通学に使うだけだから評判のいい病院も知らなくてすみませんと謝られ、雑渡はこれがジェネレーションギャップかと感じた。高校生ってこんなんだったっけ? 二十年前の己の姿などおぼろげだ。明瞭なのは逃げた自転車。衝突によりスポークが外れたのか、カカカッと喚き去った。消えるなら一生消えてしまえ。当て逃げするような奴と金輪際関わりたくはない。ないが、寸暇を置かず大丈夫ですかと駆け寄ってきた振動が、いまも隣で響いている。
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    DONE【譲テツ】サンタさんからプレゼントを貰っちゃって焦る譲介(高1)と、子どもに伝承される「サンタさん」という夢の話。20231226
    『僕のサンタ』 ポイントは目に涙をためること。
     さも「事実」を知って傷ついた子どものふりをする事だ。
     僕たちには親がいないからサンタさんも来ないんですよね、だって、サンタさんの正体は、
     親の成りすましだと暴くもよし。言葉を濁すもよし。養護施設の職員をまごつかせる遊びだった。サンタクロースを信じる子どもが職員にまとわりついている時を狙う。眼を張り、耳を傾け、大人の機嫌を乗りこなす正しい方法を懸命に探りながら、大人の語る欺瞞ゆめを信じて握る小さな手。その矛盾に譲介は耐えられなかった。期待は裏切られるために在る。早く「真実」を知るべきなのだ。
     だから今年も譲介は、目覚めのプレゼントを投下した。

     高校入学前に移った施設の食堂で、くしゃくしゃのピンク色の画用紙を譲介は拾った。引き裂かれ、棚の裏に隠された悪意の花びらを案内の職員に渡す。ひどいやつがいますねと眉をひそめて見せた。みつけてくれてありがとうと顎の位置で髪を切り揃えた職員は微笑んだ。こちらに同調して世話してるガキ共を腐さなかったなと譲介は胸中に記録した。
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