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    柚月@ydk452

    晶くん受け小説

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    柚月@ydk452

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    魔法舎ドタバタ事件簿シリーズ。

    #魔法使いの約束
    theWizardsPromise
    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra
    #まほやく_SS
    mahoyaku_ss
    #ブラッドリー
    bradley.
    #ミスラ
    mithra
    #オーエン
    owen.
    #スノウ
    snow
    #ホワイト
    white

    Case1,マジカル⭐︎バナナ「ああ、ちょうど良いところに。暇ですよね?」
    「げっ。」
    「うわ…最悪…。」
    魔法舎の談話室で、ミスラに声を掛けられたブラッドリーとオーエンは揃ってげんなりとした。夕食も済み、各々が好き勝手過ごしている自由な時間。ブラッドリーもオーエンも同じ空間に居たとは言え、二人で何かをしていた訳ではない。隙あればもちろん殺し合いをするが、今は奇跡的に殺伐とした空気は影を潜めていた。
    ワイングラスを片手に晩酌をしていたブラッドリーは、チッと盛大に舌打ちする。
    「暇じゃねぇよ、他を当たれ。」
    「大好きな賢者様のところに、早く行ってよ。」
    「今あの人、風呂に入ってるんですよね。」
    二人の抵抗を他所に、ミスラはソファにどさりと身を投げた。そしてテーブル上にあったつまみを、当然のようにして口に入れる。
    一方で、ブラッドリーとオーエンはたまったものではない。いつ気分が変わって、殺意が顔を出すのか分からないのだ。かと言って下手に追い出すと、それもまた地雷になる可能性もある。
    仕方なく、本当に仕方なくオーエンはミスラに返答する。
    「じゃあお前も一緒に入れよ。何で入らなかったのさ。」
    「俺はもう入ったんですよ。あの人、帰ってくるのが遅かったので。もう一回入るの、めんどくさいですし。」
    ミスラの面倒をよく見ている晶が不在の今、彼は退屈凌ぎの相手を探している最中だったという訳だ。幸か不幸か、二人は晶の存在の重要性を今にして実感した。
    「いや、2回入ると血行が良くなって寝つきが良くなるらしいぜ。今からでも行ってこい。今すぐに。」
    「そんな事よりゲームをしましょう。」
    「しねぇよ。」
    「やだ。」
    相変わらずのマイペースっぷりに、二人はさらに苛立った。無意識のうちに、ミスラとの距離、そして窓やドアまでの退路を確認する。
    機会は一瞬だ。ミスラの気が逸れるタイミングを作らなければならない。
    一番良いのは、晶が今すぐ風呂から上がって、ミスラを回収に来る事だ。そのまま面倒事も厄介事も全て押し付けたい。
    時間を稼ぐか、いっそ晶を風呂から拉致するか。
    目まぐるしく策略を駆け巡らせるが、当の本人は気にする事なく会話を続ける。
    「賢者様から教わったものなんですけど、人数がいた方が楽しいって言ってたんですよね。ちょうどいいから付き合ってください。」
    「しないって言ってるだ…」
    『アルシム』
    オーエンが死んだ。
    一瞬で生成された氷柱がオーエンの腹に食い込み、鮮やかな血飛沫が舞う。真っ白なスーツがあっという間に血染めとなり、惨劇の現場が作られた。
    「…待て、人数いたほうが良いんだよな?俺はじじいどもを呼んでくる。ゲームならじじいどもも喜ぶだろ。」
    「はぁ、そうですね。じゃあ連れてきてください。『アルシム』」
    豪奢な扉が、ブラッドリーの前に顕現する。呼ぶと見せかけてあわよくばこのまま逃げ切れると考えていた彼は、今ほどミスラの空間魔法を恨んだことはなかった。
    嫌々ながら扉をガチャリと開けると、「キャーッ!」「えっちー!」と賑やかな声が出迎える。
    「うるせぇじじいども!命が惜しけりゃ、今すぐ来い!」
    「ちょっと男子ー?誘い方雑じゃないー?」
    「ってオーエンちゃん死んでない??」
    ブラッドリーに抱えられたスノウとホワイトは、額縁から影を伸ばすとオーエンの周りをきゃっきゃと騒ぎ立てた。
    「さて、全員揃いましたね。オーエン、さっさと生き返ってください。ゲームを始めますよ。」
    「…げほっ、絶対殺す…!」
    大きく咳き込んだオーエンは、血反吐を吐きながらも立ち上がった。腹部から変わらずどくどくと血が流れ続けているが、苛立ちながらも呪文を紡ぐと、一瞬で身なりが整う。
    青白い顔ではあるものの、無事に生き返ったようだった。
    「やるのは、マジカルバナナです。」
    「……。」
    談話室が沈黙した。それもそのはず、名前からして一体何なのか、誰も検討がつかないからだ。だがその沈黙を一切気にする事なく、ミスラは説明を続ける。
    曰く、バナナから関連する言葉を連想して繋げていく。
    曰く、同じ言葉は使えない。
    曰く、明らかに無関係な言葉も使用不可。
    ルールとしては、以上となる。
    要は単なる言葉遊びだ。確かに暇つぶしにはちょうど良いだろう。
    「お前賢者と毎晩こんな事やってんのかよ…。」
    「そうですね、暇なので。でも割と楽しかったですよ。」
    その時のことを思い出したのか、ミスラはいくらか機嫌よく笑う。
    「ふむ、異界の言葉遊びも面白いのう。どのように始めるのじゃ?」
    「確か、『マジカルバナナ、バナナと言えば』って感じでしたね。あの人は黄色とか、甘いとか言ってましたけど。」
    「ほう、その後はどうするのじゃ?」
    「〇〇と言えば〇〇、を延々と続けたような気がします。」
    「つまり、甘いといえばケーキ、ケーキと言えば…みたいな感じか?」
    「その通りです。さぁ、始めますよ。」
    斯様にして、北の魔法使い達のマジカルバナナが始まった。

    「マジカルバナナ、バナナと言えばブラッドリー。」
    「おいこらてめえ、無関係な言葉も使用不可っつってたじゃねぇか!俺様とバナナを同列に扱うんじゃねぇ!!」
    「良いじゃないですか、あなたバナナ食べてそうな顔してますよ。俺が良いと言ってるので良いです。」
    その理屈でいくと、ミスラがルールの絶対的支配権を持っていることになる。平等も公平も、ミスラの前では無価値だ。
    ブラッドリーは憤慨するが、傍らのスノウとホワイトが宥める。
    「まぁ、ブラッドリーちゃんもバナナを食べないわけじゃないからのう。一応セーフって事で。」
    「それを言うなら、この場の全員が当てはまるがのう…。」
    「次、オーエンです。」
    隣のオーエンは、底意地の悪い笑みを浮かべて即答した。
    「ブラッドリーと言えば弱い。」
    「殺す。」
    ついには愛用の長銃を取り出して、躊躇う事なくオーエンに銃口を向けた。同時にオーエンもトランクを顕現させる。
    「もうー!ただの言葉遊びでしょー!」
    「すぐ殺し合ったら終わっちゃうから!」
    「そうですよ、ブラッドリー。ほら早く、弱いから続けてください。」
    「…てめぇらあとで覚えてろ…。」
    引き金を引こうとした指も、トランクを開けようとした手も、魔法による力技で押さえつけられる。認めたくはないが、力量差があるのは事実だ。今暴れた所で、ミスラと双子も同時に相手どるのは分が悪い。絶対に報復してやることを決意して、ブラッドリーはどさりとソファに座り込んだ。
    「だが弱いは認めねぇ。それ以外だったら続けてやる。」
    「我儘な人ですね。だそうですよ、オーエン。」
    「はぁ、めんどくさ。ブラッドリーと言えば…生きてる。」
    「もっと他に良いのがあんだろ。この場の全員当てはまるじゃねぇか。」
    再び沈黙が訪れた。
    チクタクと時計の針が、時を刻む。
    「そうじゃのう…皆生きておるからのう…。」
    「ホワイトちゃん!?そんな隅っこに行かないで!?」
    ブラッドリーは絶対に隣を見ないことにした。

    「あーなんだ、生きてると言えば、か?」
    めそめそと隣から悲しみに暮れる声が聞こえるがそれを無視して、ブラッドリーは考え込む。
    生きていると実感できる事。自分に置き換えるならば、フライドチキンを食べている時、長年狙っていた財宝をようやく手にした時だろうか。
    盗賊団時代に思いを馳せながら、ブラッドリーは意外にも真面目に考える。
    だがマジカルバナナは、本来であればテンポ良く進むもの。じっくり考え込んでしまっては、ゲームが成立しない。焦らせて思考を奪い、ミスを生じさせるのが肝要だ。
    「はい、ブラッドリー、時間切れです。」
    「あぁ!?時間制限あるなんて言ってねぇだろうが!」
    「遅いんですよ。そんなんじゃ北の国では生きていけませんよ。」
    「言えてる。だから弱いんだよ。負けたからマナ石出しなよ。」
    「分かった、俺にとって生きてると言えばてめぇらとの殺し合いだ。」
    何度も死線を掻い潜って、傷だらけになっても勝利を得られた時の喜びこそ、生きていると実感できる。元より北の魔法使いの本質であり、矜持だ。その答えは、全員が納得できるものだった。
    「まぁ、良いでしょう。続けてください。」
    「…え…この流れで、我が続けるの…?」
    「そうですね。生きてると言えば殺し合い、からです。」
    額縁の中で、スノウは冷や汗が止まらなかった。
    何せ話題が自分達の過去を彷彿とさせるような言葉のチョイスに、隣のホワイトを見る事ができない。
    ただの言葉遊びのはずなのに、もはや楽しさは皆無だった。本当に異界では、こんなものが流行っているのか。晶を問いただそうにも、残念ながらこの場にはいない。
    グギギ、と錆びついたブリキ人形のように、スノウはようやく口を開く。
    「殺し合いと言えば…。」
    「我らのことじゃな。」
    「ホワイトちゃん!?」
    「採用です。次。」
    在りし日のミスラ王国が、ここに再度爆誕していた。
    「殺し合いと言えば双子、双子といえば何が続くの?いつか来る別れ、寂しさ、孤独、喪失。ふふふ、それとも全部?」
    オーエンは綺麗な顔で、毒を吐いたような言葉を重ねる。
    一方でホワイトは、涙を引っ込め、力強く言い放った。
    「双子といえば、『可愛い』じゃ!!我らは一言で表すなら、これ以上的確な表現はないじゃろう!」
    「ホワイト…!」
    額縁の中で、スノウとホワイトがひしっと抱き合っていた。それを見て、オーエンとブラッドリーは砂を噛み潰したかのように苦い表情を浮かべる。何が悲しくて、老人達の抱擁を見届けなくてはならないのか。
    だがミスラは気にならなかったらしい。
    それもそのはず。

    「すみません、ミスラ。お待たせしました。あれ、皆さんで何かやってたんですか?」
    ぽかぽかと湯気が身体から立ち上っている晶が、談話室へ顔を出す。オーエンとブラッドリーにとって、ようやく待ち望んだ瞬間だった。晶の背後から後光が差しているようにも見えてくる。
    「遅いですよ、賢者様。暇なので、ゲームをしてました。」
    「え、殺し合いじゃなくてですか!?」
    「はい。昨日のマジカルバナナです。」
    「え!?すごいですミスラ!平和的に親睦を深める事ができるようになったなんて…!」
    晶は感動していた。ミスラは意外にも、晶が寝物語に聞かせたものや元の世界の話など、ちゃんと覚えている事が多い。ワンチャンを始めとして、なんだったら自分のものにしたり、他の人にも広めたりする事もある。
    何かあればすぐ殺し合いに発展していた彼らの間で、平和的な遊びが流行ってくれれば、晶の心労も軽減されるのではないだろうか。
    「どんな風に続いているんですか?」
    「はぁ。まずバナナと言えばブラッドリー。」
    「ん?」
    出だしからよく分からなかった。説明不足だったのかもしれない。ひとまず沸いた疑問は置いておき、晶はそのまま聞き続けることにした。
    「ブラッドリーと言えば弱い。」
    「殺すぞ。」
    「ミスラちゃん、オーエンちゃんが変えたでしょ!」
    「はぁ、そうでしたっけ。」
    「我儘で面倒なブラッドリーと言えば生きてるにしてあげた。」
    「はは…まぁ間違ってはいないですね…。」
    思わず乾いた笑いが溢れる。よくこれで殺し合いにならなかったものだ。
    「チッ、生きてると言えば殺し合い、殺し合いと言えば双子だろ。」
    「なんでそんなセンシティブな連想にしちゃったんですか…!?」
    「大丈夫じゃ賢者ちゃん!そこから我ら持ち直しておるから!」
    「双子といえば『可愛い』じゃ!」
    きゃっきゃと笑いながら影を伸ばし、晶の周りをぐるぐる回る。
    その様子を見て、晶はほっと息を吐く。危うく魔法舎の治安が悪くなるところだった。
    「せっかくじゃから、ここから賢者にも繋げようかのう!」
    「賢者にとって、可愛いと言えば??」
    そっくりな顔で、スノウとホワイトが晶の顔を覗き込む。まさか自分に振られるとは思っておらず、晶は慌てた。
    「え、可愛いと言えばですか?うーん、そうですね…。」
    頭に浮かぶは、ふわふわの毛にくりっとした瞳、気まぐれに伸びをしては悠々自適に過ごす生き物。
    「可愛いと言えば、ね…。」
    「俺ですよね。」
    全員が動きを止めた。
    何度目かの沈黙が訪れる。
    猫と言い掛けた晶は、急いで口を閉じた。本能が警告していた。選択肢を間違ってはいけないと。
    今この時間、世界で最も強い魔法使いが、晶の目の前で仁王立ちになっている。
    「えっと…。」
    「はぁ?違うんですか?昨日言ってましたよね。」
    「言いました…。」
    何度目かのやりとりで、そう言った気がする。今の今まで忘れていたけれど。
    半分寝ぼけていた頭でマジカルバナナはやるものではないと、晶は固く決意した。
    「あほくさ。これ、結局はミスラを褒めるゲームだったってことでしょ。だからミスラは割と楽しかったんだろ。」
    「お楽しみは他所でやれよ。いちいち巻き込むんじゃねぇっつの。」
    「キャーッ!ミスラちゃん積極的!」
    「お熱いのう!ほれほれ、我らに構わず早よ寝るがよい!」
    「いえ…。あ…おやすみなさい…。」
    囃し立てられるがままに、晶とミスラは半ば追い出されるような形で談話室を後にした。

    今晩も二人は、密やかに語り合うのだろう。
    仲良きことは良いことかな。
    だが談話室に残された4人が共通して思ったことは、ただ一つ。

    やっとミスラがいなくなった。

    ようやく訪れた平和な時間に、珍しくも有り難みを実感していた。
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     彼と連れ立って歩くとちらちらとすれ違う人たちの視線を感じた。その視線は、俺では無く隣を歩く人へと一心に向けられている。それはそうだろう、俺の横にはこの国では見かけない珍しい色彩と、頭一つ飛びぬけた長身、それに整った顔立ちを持った麗人が居るのだから。
     そっと斜め上を見遣ると、彼は珍しそうに立ち並ぶ建物たちを眺めているようだった。色とりどりの看板がひしめき合うように集まり、その身を光らせ主張している。建物の入り口には所々のぼりがあるのも見えた。
     その一つ一つに書かれた文字を確認するように、時折フィガロの唇が開いては、音もなく動く。どうやら看板に書かれた文字を読み取っているようだ。
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