Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    柚月@ydk452

    晶くん受け小説

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 33

    柚月@ydk452

    ☆quiet follow

    ブラ晶♂
    互いに独占欲を見せるブラッドリーと晶くんの話。さらっとオリキャラあり。

    ぎすぎすした終わりにしたくなくて、のんな結末になりました。カクテルの色は互いの瞳をイメージ。きっと老店主は二人の関係性を察したのでしょう。

    #ブラッドリー
    bradley.
    #まほやく_SS
    mahoyaku_ss
    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra
    #魔法使いの約束
    theWizardsPromise
    #ブラ晶♂

    欲の在処 頬に触れる風はほんの少し冷たくて、晶は思わず身を縮こまらせる。その震えが伝わったのか、前を向いていたブラッドリーは晶の方へと振り向いた。
    「寒いのか?」
    「いえ、大丈夫です。」
     箒に乗る前に防寒魔法を掛けてもらっていた。だからこれは、単なる条件反射のようなものだ。
     晶は今、ブラッドリーの箒に乗って、星の瞬く夜空を駆けていた。魔法舎でゆっくり過ごしていたら、突然ブラッドリーが部屋に来て、付いてこいと誘ってきたのだ。目的も行き先も分からないままクロエの所へ連れて行かれ、いつもの服からよそ行きの衣装へと着替えさせられた。あれよあれよという間に箒に乗せられ、今に至る。
     遠目に見ていては分からなかったが、眼下に広がる景色から、どうやら西の国らしいと言うのは分かった。
     近年著しい技術の進歩を遂げ、貧富の差もまた拡大する西の国。元の世界ほどではないものの、まるでネオン街の如く煌びやかな街灯や装飾が、闇夜を彩っていた。
    「ブラッドリー、何処へ行くんですか?」
    「決まってるだろ、夜のお楽しみだ。お前も少しは羽を伸ばせ。」
     やけに上機嫌な彼の様子から、どうやら晶を楽しませてくれるような場所へ向かっているようだった。少しだけ高揚感を抱えていると、遂に箒は降下しだす。
     大通りからは離れて、どこかの路地裏にそっと二人は降り立った。暗闇にまだ目が慣れず、きょろきょろと辺りを見渡すが、人影すらない通りは静寂に包まれている。
    「ほら、手でも握ってろ。」
     するりと当然のように手を握られ、突然の事に胸が高鳴った。幼子に掛けるような台詞なのに、男らしい大きな手と触れる熱に、緊張を隠せない。
     そのまま暗闇の中を連れられると、とある突き当たりに立ち止まった。左右を見ても、どちらも行き止まりだ。道を間違えたのだろうかと晶が首を傾げるも、ブラッドリーは慣れた様子で壁に手を添える。
    『アドノポテンスム』
     闇夜に溶けるかのように囁かれたそれは、一瞬だけ淡い煌めきが瞬いた。やがてそれは徐々に変化して、一つの古びた扉が壁から浮き出る。
     看板もドアプレートも何もないそれにブラッドリーは手を掛けると、ゆっくりとドアノブを回した。
    「うわぁ…!」
     途端に賑やかな喧騒が、晶達を出迎える。真っ暗で廃れた路地裏に似合わず、そこだけがまるでカジノや宴会場のような騒々しさに溢れていた。
    「よう、来たぜ。久しぶりだな。」
    「おやおや、ここ数百年は姿を見せなかったじゃないか。てっきりそのまま死んだものと思っていたよ。」
    「耄碌したか?まだ死ぬようなタマじゃねぇよ。」
     カウンターらしき向こうから、老店主がにこやかに笑う。勝手が分からず、晶はひとまず控えめに会釈をした。
     するとそこで晶の存在に気付いたのか、老店主は晶の方へと目を向ける。
    「これはまた、珍しい連れ人だね。ゆっくり過ごしていきなさい。」
    「は、はい。ありがとうございます。」
     ブラッドリーに連れられるような形で、二人はカウンター席に並んで腰掛ける。いまだにこの店がどういうもので、何のために連れてこられたのか分からない。ただ分かるのは、皆が夜を楽しむために集っているという事だけだ。周囲を見渡すと、豪奢で扇状的なドレスの女もいれば、簡素な格好の青年もいる。仕立ての良い生地のスーツに身を包んだ老紳士もいれば、晶よりも年下と思われる若者もおり、身分や年齢問わずに多くの客が来店しているようだった。カウンター奥には、年代物の上質なワインが所狭しと並んでいる。するとそこで注文が入ったのか、老店主がカクテルを作り始めた。不思議な事に、瓶から注ぐ時はオレンジの液体だったものが、グラスに触れた途端に赤紫へと変化を遂げる。老店主の手が撫でるようにグラスの上を横切ると、下の方から順に綺麗なグラデーションを形作った。
     一連の流れをつい凝視するかのように見ていた晶だったが、ぐいっと身体の向きを変えられる。
    「おい、俺様を無視するなんざ、良い度胸じゃねぇか。」
    「そ、そんなつもりはないです!あのカクテルがすごく綺麗だったので…。」
    「嫉妬するのも大概にしなされ。縛ってばかりだと、逃げ出してしまうぞ。」
    晶達の会話が聞こえたのか、老店主は朗らかな笑みを浮かべてそう告げる。年の功とでも言うべきか、ブラッドリーが軽く睨んでも飄々とした雰囲気を崩さない。壮年の紳士のようだが、外見を自由自在に変えられる魔法使いであるならば、見た目から判断するのは難しいだろう。
    「ブラッドリー、このお店って…?」
    「俺様の行きつけの酒場だ。つっても、店主の気まぐれで50年か100年に1回くらいしか空かねぇけどな。だから魔法使いしかいねぇ。人間が来ることはほとんどねぇな。」
    「ひと昔前ならそうだったが、最近は人間も来ることが多いさ。時代の移り変わりだろうねぇ。」
     老店主はしみじみといった様子で、そう添えた。
    「魔法使いが気に入った人間を連れてくる事が増えたんだよ。ちょうど、お前さんみたいにね。」
     老店主が片目を瞑ってそう告げると、晶はじわじわと赤面する。
    「い、いえ、俺はただ賢…」
    「黙ってろ、ここでは身分も立場も関係ねぇ。ただの晶だ。」
     賢者だから連れてこられただけ、と答えようとしたが、ブラッドリーは晶の口元に指を添えて、有無を言わせぬように口止めした。
     賑やかな喧騒の中、誰も自分を見ていない。『賢者』として、晶を見る人がいないのだ。それはこの世界に来てから初めての感覚で、不思議と解放感すら覚えてしまう。この世界に来てから、知らぬ間にずっと肩肘を張っていたのだろう。
    「…はい、ありがとうございます。ブラッドリー。」
    「良い子だ。」
     わしゃわしゃと頭を撫でられ、晶は照れたように笑った。
    「好きに頼め。」
    「あ、でも俺メニュー読めなくて…。」
    「その必要はねぇよ。こいつはノンアルコールで。」
     ブラッドリーが目を向けると同時に、老店主が見計らったかのように空のグラスを用意した。磨き上げられたそれが晶の前に置かれると、老店主は畏まったように会釈する。
     酒が飲めないため、どんな風に注文すればいいのか分からない。
    「ご安心ください。ここではメニューがないのです。その場限り、その時だけの最高の一杯を提供するのが、この店の醍醐味なのですよ。」
    「そう言うこった。だからみんな、飽きもせずに通い続けるのさ。」
     数十年、下手をしたら百年単位でしか空かない店には、それほどの魅力や価値があったのだ。固定客や常連が徐々に増え、これだけの賑わいになったのだろう。
     そうして改めて、老店主は晶に向き直る。
    「では、貴方様に問いましょう。貴方の心は今何を感じ、どう過ごしたいのか。貴方の言葉で、聞かせてください。」
     真正面から切り込まれ、晶は思案する。
     今感じているもの。未知のものに対する、ほんの少しの不安と緊張、そしてそれらを大きく上回る期待と興奮。
     この夜を、どう過ごしたいか。
    「…少しだけ、ドキドキしています。俺は、ブラッドリーと一緒に、この夜を楽しみたいです。」
    「かしこまりました。君はどうするんだい?」
    「なんでこいつには丁寧に接して、俺には違うんだよ。」
    「日頃の行いだねぇ。」
    「ちっ…。まぁ、いいさ。俺はこいつと、刺激的な夜を楽しむ。俺様に似合う、最高の一杯を。」
    「はいはい。」
    「おい、客に対する態度じゃねぇぞ。」
     いつも自信に溢れたブラッドリーを軽くいなす老店主とのやり取りに、不覚にも笑ってしまう。
     老店主はグラスをもう一つ用意すると、背後の棚からいくつか酒瓶やボトルを取り出した。そして氷を半分まで入れると、片方には目を引くような色鮮やかな真紅を、もう片方には深い海の底を思わせるような群青を注ぐ。真紅の上には、さらに柔らかな綿飴が乗せられて、白のエディブルフラワーが添えられた。次に群青の方へと手を滑らせると、パチパチと泡の弾ける音が溢れ出る。
     まるで一つの芸術の如く完成された、二つのグラス。今日この場限りの、至高の一杯だ。期待に目を輝かせてそれを見守ると―真紅のグラスは晶へ、群青色のグラスはブラッドリーへと届けられた。
     てっきり派手な真紅の方はブラッドリーだと思っていたため、少し驚く。ブラッドリーは気にすることなく手を伸ばすと、晶の方へと視線を向けた。
    「ほら、グラスを出せ。」
    「あ、はい…ッ!」
     カラン、とグラスを合わせた乾杯の音が響く。
     刺激的な楽しい夜の、始まりの合図だ。
     グラスに口を付けて傾けると、甘酸っぱいような、それでいて深みのある味わいが口内を満たす。上に飾られていた綿飴は下から順に溶けていき、境界面が薄まることで淡いグラデーションを魅せていた。
    「すっごく、美味しいです…!」
     感極まった晶の素直な賞賛に、老店主は笑みを溢す。隣に座るブラッドリーも、満足そうな表情だ。
     舌の肥えた方でなくとも、掛け値なしに美味だと判ずることが出来る。もう二度と出会えないかもしれない味わいに、うっとりと晶は見惚れていた。
     するとそこへ、また新たな風が入ってくる。
    「やぁ、いらっしゃい。…おやおや。」
     老店主が入口の方へと目を向けた先には、一人の女性が立っていた。腰まで届いた輝くような金色の髪をかき上げ、彼女は身なりを整える。
     そのワインレッドの瞳が、店内のカウンターを捉えた時。
    「―ブラッドリー!」
    「…あ?」
     紺碧のドレスをふわりと靡かせ、彼女は一目散にブラッドリーの元へ駆けて行き―抱きついた。突然現れた絶世の美女の行動に、晶は戸惑いを隠せない。
     対してブラッドリーは慣れた様子で、抱きついて来た女性の身体に腕を回す。それはまるで一枚の絵画や写真のように、様になっていた。
    「うお、驚いたぜ。お前、フィーネか?」
    「そうでーす!どう?良い女になったでしょ?」
     店に現れた時は大人の色気に溢れた美女だったが、今は朗らかな笑みを浮かべて、少女のようにブラッドリーを見上げていた。
    「ぜんっぜん足取りが掴めなかったから、苦労したわ。あなた今、どこで何をしているの?噂だと賢―」
    「フィー、ここであれこれ聞くのは野暮ってもんだぜ。今日はこいつの相手をしてんだ。悪いが他を当たってくれ。」
    おそらく賢者の魔法使い、とでも続ける気だったのだろう。ここでそれを出すのは、確かに野暮だ。現に何人かちらほらこちらを注目している。
     フィーネと呼ばれた女性はブラッドリーの視線を辿り、ここでようやく晶と目を合わせた。その目が大きく、驚愕に広がる。
    「―人間じゃない!どうしてここに人間がいるの?まさかあなたが連れてきたの?」
    「そうだ。だから相手するのはまた今度な。」
    「何よ、恋人にする気?だめよ、私が一番に狙ってるんだから!」
     げほっ、と思わず吹いてしまった。突如向けられた嫉妬の視線に、どうすれば良いのか。そこまで恋愛経験が豊富でないために、晶は大ピンチに陥っていた。
    「あなた、ブラッドリーの事好きなの?どれくらい?」
    「えぇ…っ⁉︎」
     この場合の好意とは何を示しているのか、わざわざ尋ねるまでもなかった。
     ブラッドリーに対して、想いを告げた事はない。と言うよりも、せいぜい子分か友人枠に当て嵌められているだろうなと思う。
     けれども親しげに、ブラッドリーの首に手を回して抱きつく彼女に対して騒ついた気持ちを抱いた。

    ―俺は彼女に、嫉妬しているんだ。

    そう気づいた時には、既に彼女は勝ち誇ったかのように胸を逸らして言い放つ。
    「ふん、大した事なさそうね。所詮あなたは、せいぜい愛人止まりよ。ここで大人しく身を引いたら?」
     何か言わねば、だがそう思うほどに、何も話せなくなった。自分が釣り合うか云々の前に、彼女の自信が晶を圧倒していたからだ。
     あれほど騒々しかった店内が、徐々に静まっていく。こんな形で注目を集めたくなかったなと切に思った。
    「…分かってねぇな、お前。」
     その静寂を切り裂くかのように、ブラッドリーの声が響いた。抱きついていたフィーネの腕を外し、晶の方へと手を伸ばす。
     え、と思う間もなく、彼は晶を抱き寄せると、その耳元で言い聞かせるように呟いた。
    こいつに尽くしてんだよ。」
    「…ッ⁉︎」
     低く掠れたそれは、やけに晶の耳奥を突き抜けた。バランスを崩してブラッドリーの方へと倒れ込むが、それすらもダンスのように受け止める。
     痺れるような甘い台詞と、溢れる色気に眩暈すら覚えた。恥じらい、赤面する晶を他所に、ブラッドリーは構わずさらに体を引き寄せる。
    「…ッ!何よ、どうせ今のうちだわ。人間なんて、すぐにいなくなるんだから。ブラッドリーは私のものよ。」
     
    (…あ。)
     
     カチンと、頭に来た。何かが腹を満たしていき、ぐつぐつと煮え立っていく。怯えや不安が過ぎ去り、ただ彼女を静かに見据えた。
     今度こそ、言える。
     いや、言わなければならない。
     羞恥もプライドもかなぐり捨てて、ただ本心を。
    「―ブラッドリーは、俺のものです!」
    「…ははっ!」
     ぴんと張り詰めていた空気が、ブラッドリーの笑いを契機に、緩やかに解かれていった。初めてあらわにした欲は、今この瞬間に形になる。
     半ば勢いそのままに告げたそれは、彼女にどう響いたのか。見ればその瞳に涙を浮かべ、可愛らしく頬を膨らませている。
    「そう言うこった。良い女はここで引くもんだぜ。」
    「何よ…何よ…。」
     ふるふると身体を震わせた彼女は、下を向いてしまう。だが次の瞬間。
    「―可愛いじゃない!!」
    「はい?」
     突如満開の笑顔を浮かべて、今度は晶の方へ抱きつこうとした。
    「待って、この子すごく可愛い!気に入っちゃった!」
    「おいこら、手を出すな!お前はもうあっちへ行け!おい誰か、こいつの相手しろ!」
     右手にフィーネ、左手にブラッドリーと美の暴力に晒されて、晶は困惑した。何がどう琴線に触れたか不明だが、先程まで嫉妬の目を向けていた彼女は、今や晶に好意を寄せていた。
    「ははは、ここ数百年はブラッドリー一筋だったんだけどねぇ。元々彼女は惚れやすいんだ。適当に相手をしてやってくれ。」
    「え、えぇ…?」
     老店主がカウンター越しに、要らぬ情報を追加していった。
    「これはこれで、刺激的な夜となっただろう?」
     そう言って、彼はまた片目を瞑ってグラスを掲げた。
     まだまだ夜は始まったばかり。再び訪れた喧騒に、晶は苦笑を漏らした。
     
     
     
     
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works