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    しののめ

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    ⒋眠る寝台「月光」「首筋」「睫毛」 滑り込みお花見ひめごけ

    ##刀剣乱舞
    #ひめごけ

     桜の花びらが落ちていた。それ自体は特筆すべきことではなかったのだけれど、姫鶴一文字は首をかしげずにはいられなかった。

    「またあ? なんなんだろ、これ」

     淡雪のようなそれを摘み上げ、姫鶴は眉間に皺を寄せた。
     「また」というのは。これが彼にとって初めてのことではなかったからだ。最初に見たのは、およそ一年前。たった一度だけだ。そうして季節は巡り、また春が来て、二度三度。今日で四度目だった。
     心当たりがないわけではないのだ。むしろあてしかない。脳裏に浮かんだあの一言多い男を振り払わないままで、姫鶴は小さな花弁を懐紙に挟んだ。



     後家兼光が、顕現初日から重傷で手入部屋に担ぎ込まれたらしい。そんな噂は当然姫鶴一文字の耳にも入っていた。当時から自身をあまり顧みず、真っ直ぐ突っ込んでいく男で、今ではすっかり手入部屋の常連だ。けれど流石に、初日はすうと血の気が引いたのを覚えている。

    「ごっちん」

     極力音を立てないように手入部屋の障子戸を開けたのは、結局翌朝になってからだった。その頃には彼ももう目を覚ましていて、茜色をした睫毛が朝日に照らされていた。

    「おつう」ぱっと表情が明るくなる。
    「もう、大丈夫なわけ?」起き上がろうとする彼を制止しながら、そう問うた。
    「心配性だな」

     人の気も知らないで、へらりと笑って見せた後家は、何かを考えているように見えた。

    「ねえ——」

     思わず、仰向けになった彼の、首筋に触れる。揺れた濃赤からはらりと薄桜の色彩が落ちて、姫鶴はそっと目を瞠った。

    「桜……」

     そう呟けば、後家がはっとしたのがわかった。じっと見つめていても、何かが返ってくるわけではない。ささやかに、けれど確かに目を逸らされて、問い詰められたくないのだと悟った。難儀なほどに嘘がつけない男。普段言葉数が多いくせに、こんなときばかりは、弱りきった顔で黙ってしまう男。仕方がないから、額を弾く程度の「おしおき」で許してやったあの朝を、姫鶴は忘れない。



     四枚目の花びらを拾い上げた日の夜。「夜桜を見に行こう」と誘いをかけたのは、後家の方だった。一拍置いて、姫鶴はゆるやかに瞬きを返す。

    「なに、夜這い? ごっちん悪い子ー」
    「夜桜見に行こうって言っただろ」

     軽くからかってやれば、後家は形だけ怒って見せた。ふと、昼間の落とし物を思い出す。なんとなくその正体にも合点がいって、姫鶴は胸中で笑った。
     半分だけ開けられた障子戸からは、月光が降り注いでいる。月夜を背景に立つ彼はどこか浮き足立っている様子だった。

    「え、おつう、行かないの」

     思ってもいないくせにそう聞く男は、若干ふてぶてしいのに可愛げばかりあって、それが何故だか心地良い。

    「行くけどー……唐突すぎだし」
    「ふふ、ごめーん」

     時刻はとっくに深夜零時を回っていて、本丸はしんと静まり返っている。最低限の身支度を整えて、姫鶴は廊下に出た。春宵とて少しは冷える。上着も持たずやってきた男に溜め息を吐いて、適当な羽織を押し付けてやった。

    「桜見に行くっつっても、ここ結構たくさんあんだよね、桜」

     どこ行くつもり? と問えば、後家はふと笑って、待ってましたと言わんばかりの答えを返す。

    「ボクのとっておき。おつうにも見せてあげる」

     ついてきて、と口では言いながら、急くようにこちらの手を引く男。とうとう姫鶴も観念して、大人しく引っ張られてやることにした。



     見知った階段を少しだけ下った先に、それはあった。本丸の敷地へと続く石造の階段。その両脇に、ずらりと並べて植えられた桜の木々。それらが足元の灯籠に淡く照らされて、月下に輝いていた。

    「綺麗だ」思わず、そう溢す。
    「だろ」
    「いつ見つけたの、これ」

     審神者の持病のせいか、この本丸は春先にあまり出陣をしない。必然的に、桜の季節はこの場所を通らないことになるため、そもそも桜並木があることすら、姫鶴は知らなかったのだ。
     いつの間にか石階段に腰を下ろしていた後家は、何か考えを巡らせるように視線を彷徨わせて、それから口を開いた。

    「去年……夜にちょっと、迷子になったときに」視線は合わない。
    「ほんとは?」

     聞きながら姫鶴も一段上に腰掛ける。後家はばつが悪そうに、目を逸らしながら言った。

    「去年はほんと。迷子もほんとだ。手入中に抜け出したってだけで」

     やはり、去年のあれは——予想と違わぬ真相に、つい目を細めた。

    「やっぱ、悪い子じゃん」
    「そうかも」

     苦笑いを隠さない彼は、目を細めて桜花を見上げる。そしてふと、こちらを振り返った。

    「本当は去年のうちにおつうと見に来たかったんだけど、ボクが手入で寝込んでる間に、だいぶ散っちゃってね」

     月光の下で、白藍色の瞳がきらきらと光っている。

    「今年こそはって、毎日様子見に行ってたんだよ」
    「毎日? ああ……どーりで」

     ここ数日彼が来た後、決まって桜の花びらが落ちていたのは、やはりそういうことだったのか。まさか、そんなに足繁く通っていたとは。健気というか、なんというか。そこまでして、この桜を自分と見たかったのかと思うと、なんだか首筋がくすぐったいような気がして、誤魔化すように星空を仰いでしまった。

    「え、何。何納得してるの」
    「別にぃ。今度ね」

     適当にはぐらかせば、不満げに眉をひそめられるが、すぐに普段通りの下らない話を始める。だから姫鶴も普段通りに、その賑やかな声に耳を傾けるのだ。
     未だ夜は長い。楽しげなふたりを、薄藍がかった夜桜は静かに眺めていた。
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