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    namo_kabe_sysy

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    女装アル空話 パーティ当日のお話 導入

    #アル空
    nullAndVoid
    ##Cutiemagic

    Cutie magic4そして迎えたパーティ当日。
    玄関ポーチで招待状を見せると、一般のゲストが通る玄関ではなく裏口の方へと案内される。そこは日陰もあって薄暗く、正面玄関の賑やかさとはほど遠い静まり返った場所だった。裏口、と言われて、粗末な扉があるのだろうかと想像したがそんなことはなく、近隣の家々の玄関でよく見るタイプのものが嵌め込まれていた。こういう場所にも気を抜かないのが金持ちなのだろうかと、庶民感覚しか持たない空はぼんやりと思った。
    案内役の男はひょろりと背が高く、燕尾服を纏っていた。精悍な顔をしているものの物腰は穏やで「本日はご足労いただき、ありがとうございます」と恭しく礼をしてくる丁寧さだ。かえって恐縮しそうになる空だったが、隣のアルベドが凛とした姿勢を崩さずにいてくれたため、冷静さを失うことはなかった。
    二人が他の招待客と同じ出迎えをされなかったのは、ゲストに紛れて屋敷の警護をする任務があるためだった。屋敷で雇っている警護担当と、今回のパーティの主役である子息、そして両親への顔合わせをする時間が欲しいのだと、案内役の男はやや低めの声で説明する。リサやジンからもその運びになるだろうとは事前に聞いていたため、特に戸惑うことはなく、アルベドも空も面会の部屋に足を踏み入れた。
    「これはこれは、騎士団の方々ですね。本日はどうも、お越しいただきましてありがとうございます」
    赤紫の豪勢なソファから立ち上がったのは、あらかじめ写真で覚えていた家長である父親だった。縦にも横にも大きな体躯は、脂肪ではなく筋肉で造られているとわかる。引き締まっている体と快活な笑顔からは、自信と、威厳と、どこかユーモラスな雰囲気が感じられて、風神と岩神を足して二で割って、さらにヒルチャール王の胴体をくっつけたらこうなりそうだな、などと空は笑顔の裏で想像していた。
    「こちらこそ、お招きいただき、ありがとうございます」
    隣のアルベドがにこやかに挨拶すると、一拍遅れて立ち上がった母親がエメラルド色のドレスをなめらかに揺らし、たおやかな微笑を向けてくる。視線が絡んだ空は会釈をし、リサの指導通りに口角を持ち上げて微笑み返した。
    「ええと、空さんと、セシリアさん……でよかったかしら?」
    うっすらと皺の刻まれた口端を緩ませて名前を読み上げた婦人に、アルベドは軽く頷いた。
    「ええ。私がセシリアです」
    涼やかな目元はそれだけだと冷たい印象を与えるが、笑顔を混ぜることでちょうどよく柔和なものへ変化する。調合を違えないアルベドを横目に、空はつい昨日、アルベドがセシリアと名乗ることとなった経緯を思い出した。

    『アルベドには偽名を使ってもらうわ。子息と父親はそこまで騎士団の人間に興味はないと思うけれど、母親があなたの名前を知っている可能性があるから。男だとバレてしまわないよう、念には念をね』
    『わかった。名前はどうしようか?』
    『好きに決めていいわよ。空も覚えやすい方がいいとは思うけど』
    『……それならセシリア、にしておこうか。空、いいかい?』
    『うん。いいよ。間違ってアルベドって呼ばないように気をつけるね』
    『ああ、頼んだよ。……ちなみに、リサ。母親は騎士団の人間を知っているというのは、パーティのもう一つの目的に絡んでる?』
    『ご名答。彼らのような家は、騎士団を疎むか内側に取り入れようとするかのどちらかであることが多いのだけど、あの家は……というかあの家の母親は後者みたいで。騎士団の人間としても利用できる点と、息子の嫁候補にもなるからって、時々若い女の子たちを集めては査定しているって噂があるのよ』
    『なるほど。理由が分かりやすいね』
    『ええ。だから名簿をよく読むでしょうし、そうなると、あなたの名前を覚えられている可能性があるの。不便をかけるけれど、よろしくね、セシリア』

    それから名前を違えないように、空はアルベドをセシリアと呼ぶよう意識していた。ベッドに潜っても「アルベド」ではなく「セシリア」と、じゅもんを唱えるように何度も繰り返していると、アルベドは黙ったまま、何か考えこむような表情を見せていた。そんなアルベドに「どうしたの?」と尋ねても、アルベドは難しい表情のまま「なんでもないよ」と返すばかりで、結局、はっきりとした答えはもらっていない。
    何か気にさわる発言でもしただろうかと眉を下げた途端、唇は塞がれていた。一つ思い出すと芋づる式に、その後で繰り広げられた情事までも思い出してしまいそうになる。触れた肌の温度も再び襲ってきそうで、空は慌てて昨夜の記憶を一度遠ざけ、アルベドに続き婦人に微笑みかけた。
    「初めまして、空と申します」
    「あらあら、お二人とも可愛らしいわねえ。騎士団の方には時々お会いするのだけれど、あなたたちは初めて見るわ」
    婦人は穏やかそうな目尻のまま、アルベドと空を交互に見やる。頭から足のつま先までまじまじと見定められているような、ややねっとりした視線に空は口元が引き攣りそうになったが、ぐっと腹に力を入れて紛らわした。
    「普段はあまり表に出ないもので……私も空も、ほとんど研究室に篭りきりなんです」
    「おや、そうなのかい? しかし今回は警護の依頼なのだが……」
    首を捻った父親に、空は「大丈夫ですよ」とやんわり返す。
    「その点はお任せください。騎士団の入団試験をパスする程度には鍛えておりますから」
    「ふむ……それもそうか」
    潔く納得した様子に空は内心息をつく。思ったよりも父親は単純な性格なのかもしれないと思う反面、母親から刺される視線の痛みがいまだに消えてくれない。何か疑いを持たれるようなことでもしてしまっただろうか、むしろ発言や喋り方に違和感を持たれた……? ヒヤリとする背中の汗を感じていると、婦人は視線をアルベドの方へ移して「ところで……」と、真紅の唇を綺麗に開いた。
    「セシリアさんは今、お付き合いをしている方はいらっしゃるの?」
    そんなにストレートに訊くのか、と空は目を丸くした。
    婦人の発言は夫にも動揺を与えたらしく、逞しい体躯の背中が曲がって、「いきなり失礼だろう」と困ったように咎めている。しかし婦人は素知らぬ顔をして、アルベドの答えを待っていた。
    これもリサにあらかじめ言われていたことだ。もし、万が一、そんな質問を投げられた時の模範解答は。
    「――……いいえ、おりません」
    一言一句違えず、表情筋も練習の通り美しく微笑んだ状態で、アルベドは感情のない声で返していた。
    「あらまあ。ふふ、そうだったの。……このパーティで、誰かいい人が見つかるといいわね」
    天井にぶら下がるシャンデリアから、昼間なのにそこまでの光量は必要ないだろうとため息をつきたくなる光が注がれている。その光は婦人の皺が入った目元を白く照らし、くすみなどない艶やかな肌になるよう演出しているようだった。
    たっぷりと塗られたマスカラの、その下にあるエメラルドの双眸はアルベドに向けられているのに、空はその視線から婦人の思惑を敏感に察して、思わずアルベドの手首を掴んだ。
    「空……?」
    「それならわたしも探しているんです。わたし達、二人揃ってご縁がなくて」
    動くことで空気の入るスカートがはらりと揺れる。普段はまとめている髪も同じく肩を掠めて、リサが振った香水の甘やかな匂いが漂った。
    たった数分しか会話をしていないが、婦人はアルベドに目をつけたのだと、手に取るようにわかってしまう。
    わざとらしく寄り添って見せても、婦人は一度だけ空を見遣っただけですぐにアルベドへ興味を戻す。夫は最初こそ困惑した表情だったが、アルベドも空も特に嫌悪を表に出さなかったため、おそらく大丈夫だろうと気が緩んだのだろう。あからさまにホッとした表情で眉尻を下げていた。
    セシリアと名乗る隣の人が、アルベドであることは当たり前に理解している。先に婦人へ答えた内容だって、この場、ひいては今日一日をなるべく穏便に、騎士団の今後の活動に支障が出ないようにするためだ。同じ問いかけが空に向けられていたら、アルベドと同じように回答する気でいたし、それは十分承知していた。はず、だった。けど。
    「(なんでこんなに、嫌な気持ちになってるんだか)」
    アルベドの肩に自らも肩を寄せて、手首から手指へと握る先を変えていく。するとアルベドからも優しく呼応するように握り返されて、空は胸中に渦巻いた苛立ちに似た気持ちが静かに霧散していくのを感じた。
    あっけなく変化した己の心情にこんな単純なことでいいのかと失笑したくなったが、きっとアルベドはわかってやっているのだと思い至り、気づかれないよう息を吐いた。
    「そういえば、ご子息の姿が見えませんが……」
    周囲を見回したアルベドに、父親の太い声が返る。
    「ああ、身支度に時間がかかっていてね。本当ならここで紹介しておきたかったのだが、すまない。パーティが始まったら挨拶に行かせよう」
    「いえそんな、機を見てこちらからご挨拶いたしますので」
    空も頷くと、もう一度「すまないね」と苦笑される。そして空とアルベドを案内した燕尾服の男を呼び、会場へ連れていくよう指示を出した。肯首した男は長い腕で行き先を示し、空たちに合わせた歩幅で歩き出す。会釈をしたアルベドが踵を返すと空も同じく夫婦に背を向けた。
    複雑で意図の掴めない模様が描かれたカーペットを踏みながら部屋の扉を通過するその時まで、背後からはちくちくと、婦人の視線が注がれていた。
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