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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    魈くんお誕生日おめでと~~な短文

    #鍾魈
    Zhongxiao

    魈の誕生日「おかえり、魈」
    「ただいま戻りました……」
     降魔が一通り終わり、朝方望舒旅館に戻った。いつもはしんと静まり返った旅館に、朝靄の中濡れた霓裳花の花弁がふわりと開くような、そんな時分だ。
     眠気を一切感じさせない表情をした鍾離は露台に立っていた。朝早くに鍾離がここを訪れることもあるが、それよりなにやら下が騒がしい。こんな時間に起きている凡人の方が珍しく思う。
    「今日は何やら騒がしいですね。催し事でもあるのでしょうか?」
    「ああ。今日は大事な行事があってな。俺もその準備の為にここへ来たんだ」
    「さようでしたか……では、我は邪魔にならぬよう他の場所で待機いたします」
     鍾離だけが何かの準備をしているのならば喜んで手伝いを申し出るが、鍾離が凡人と何かをしようとしているのならば話は変わってくる。魈は凡人への業障の影響を考えなければいけないからだ。すぐ様その場を離れようとする魈を引き止めないところを見るに、やはり自分はその場に必要ではなさそうである。
    「夕方までに戻ってきてくれるか? 行事自体には魈も参加をしてもらいたい」
    「……わかりました」
     望舒旅館で行事というくらいだから毎年行っているに違いないと思うのだが、魈には心当たりが何一つとしてなかった。
     しかしこの朝方からの賑やかさというのは以前も感じたことがある。いつかの海灯祭で、旅人が海灯祭を望舒旅館に持って来るということをしていた。それとよく似ている気がしたが、今年の海灯祭はとっくに終わっている。ではこれはなんだろうか。
     かなり訝しんでいる表情をしていたとは思うが、鍾離が詳細を伝えることはなかった。なので自分にはあまり関係のない行事なのだろうとその場を離れ、帰離原の木々の上で休息を取った。行事の内容が気になりつつも夕方近くまで再度見回りをし、そろそろ日が暮れてきたので言われた通りに望舒旅館へ戻った。

    「おかえり、魈」
    「ただいま戻りました」
     露台にて朝と同じ会話を鍾離としたが、朝とは違う景色がそこには広がっていた。
     露台にはテーブルと椅子が並べられ、たくさんの料理が並べられている。なんならテーブルの中心には花まで生けられている。
    「俺は茶を淹れる係を任されている。そこに座ってゆっくりしていて欲しい」
    「え、あ、はい……」
     鍾離に指さされた場所へ座ると、そこには杏仁豆腐が置いてあった。それを眺めていると、にこりと微笑んだ鍾離が下へ降りていった。テーブルと椅子がたくさんあることから、ただ鍾離と食事をする訳ではないことが伺えた。
     しばらくすると、階段を登る足音がいくつも聞こえた。されど話し声は聞こえない。露台の入口をじっと見ていると、胡桃がひょこりと顔を覗かせた。
    「お前は……」
     堂主……と言いかけた所で、ぞろぞろと人が入ってきた。香菱、行秋、重雲……海灯祭で食事をした者たちが中へ入ってくる。続いて閑雲、鍾離……ヨォーヨと七七もいる。そして最後に旅人とパイモンが入ってきた。鍾離を除けば、久方ぶりに見る者たちばかりだ。
    「これは……」
     魈のテーブルを取り囲むようにして皆が立ち、その手には何か紐のついた筒状のものが握られている。せーの! という堂主の掛け声と共に、鼓膜が破れそうな程の破裂音が露台に響いた。
    「なっ…………!?」
     さすがの魈もこれには驚かずにはいられず、瞬時に椅子から立ち上がり目を丸くした。筒から飛び出たキラキラした紙が宙を舞っている。
    「お誕生日、おめでとう!」
     皆口々に「降魔大聖、お誕生日おめでとうございます」だの「魈、お誕生日おめでとう!」などと言いながら、拍手をしている。数回瞬きをしながら周りを見渡せば、皆が楽しそうに自分に向けて微笑んでいる。
     誕生日? 誰のだ……?
    「…………魈?」
    「……………………ああ……」
     旅人に名を呼ばれはっとする。どういうことだと思わず鍾離の方を見れば、一等微笑みながら手を叩いている。
     そうか、忘れていたが……そうだった。
     ──今日は、我の誕生日だ。
    「……お前たちは、わざわざ我を祝いに来てくれたのか」
    「だって、鍾離さんから数日前に、もうすぐ降魔大聖の誕生日だって聞いたから! いつもお世話になってるし、お祝いしなきゃと思って!」
     鍾離を再度見ると、作戦が成功した軍師のような、したり顔をしていた。皆を集めたのは胡桃だとは思うが、きっかけ自体は、きっと鍾離が与えたのだろう。
    「降魔大聖の誕生日は、いつも妾……私も祝いの席を用意したいと思っていたが、当の本人が不要だと言い続けていたからな。今日は百年分ほど祝わせてもらうとしよう」
     閑雲もにんまりとしながら腕を組んでいる。確かに、他の仙人達が何かと毎年祝いの宴を開こうとするのを、魈は要らぬ不要だ必要ないと断り続けていた。しかし、今日はそういう訳にはいかないようだ。
    「……感謝する」
    「後で他の人も顔を出しに来るって言ってたから、ず~っと降魔大聖はそこに座っててね!」
    「妖魔が出たら、ぼくが退治しに行ってきますから!」
    「……わざわざそのようなことをせずとも……」
     必要ない。と言おうとしたのだが、ふと威圧感を感じた。それを目で追うことは敢えてしないが、どこから発されたものなのかは容易に想像がつく。
    「いつまでも立ったままでは宴も始まらない。料理もたくさん言笑殿に用意してもらった。冷めないうちに皆席についていただくとしようか」
     鍾離が口を開き各々が席についた。仕方なく魈も席につく。魈の隣には鍾離が座った。ただでさえ祝いの席の中心にいるのに慣れないのに、鍾離に茶をどうぞと淹れられ、恐れ多くもそれを受け取り静かに飲んだ。
     集まってくれた皆は各々食事をして、魈に祝辞を述べて帰っていった。まるで神にでもなったかのようだ。途中で甘雨や夜蘭、煙緋も顔を出しに来てくれた。彼女たちも忙しいと思うが、わざわざこの望舒旅館まで足を運んでくれたことに感謝の言葉を返した。
     胡桃は仕事があるからと帰ったが、ずっと鍾離は隣に座ったままだ。下手に会話をすることができない分何も話すことが思いつかない。鍾離も特に何も話さないのだが、怖い程にずっと微笑んでいる。
    「か……客卿殿は、今日の業務などは……」
    「ない。降魔大聖の生誕を祝うために、今日は一日開けている」
    「さようですか……」
     こそっと聞いてみたが、鍾離からは間髪入れずに返事がきた。閑雲ですら「百年分にはまだ満たないゆえ、また来年も祝わせてもらうとしよう」など言いながら帰った。旅人とパイモンも、名残り惜しいが、また来年も会いに来ると言い残して去った。辺りには星々が輝き始め、ほとんどの者が責務があると帰っていった。いよいよこの望舒旅館の露台にいるのは、魈と鍾離だけになってしまった。
     魈の目の前に置いてあった杏仁豆腐はとっくに食べ終わって、延々と鍾離に注がれる茶を飲んでいるだけだ。もうそれも充分過ぎる程飲んだ。腹の中のほとんどは茶である。
    「鍾離様、そろそろ片付けにいたしましょう。皆帰り、もう誰も来る気配はありません」
    「まだ、今日は終わっていない」
    「しかし……」
    「俺はまだお前の誕生日を祝っているぞ?」
    「う……そうですね……」
     確かに鍾離は帰っていない。いくつも並んでいたテーブルは片付けたが、魈と鍾離が座っているテーブルだけはまだ片付けていなかった。つまりこの場はまだお開きではないということだ。
    「望舒旅館の者たちも、そろそろ仕事が終わる頃でしょう。後は我の部屋で、その……お過ごしいただければと思います」
    「ん? もうそんな時間か」
     白々しくも鍾離が空を見上げ、ようやく席から立ち上がった。あんなに意固地だったのに、いとも簡単にテーブルを片付け、オーナーと言笑に礼を言いに行っていた。オーナーには、泊まるのなら部屋を用意すると言われていたが、鍾離はそれを断っていた。
    「では、後は魈の部屋で残りの時間を祝わせてもらうとしよう」
     部屋へどうぞと魈が開ける前に、鍾離が中へ入って行った。
    「え」
     そういえば朝望舒旅館へ行って夕方戻ってくるまで、魈は部屋に戻っていなかった。先程までずっと露台にいた。だから知らなかったのだ。
    「魈、誕生日おめでとう」
    「あ……りがとうございます……」
     殺風景な部屋の中心に、天井に届きそうな程のいくつもの箱が置かれていた。鍾離が用意したのだろう。開けてみるといいと言われ、手前の箱を一つ開けると綺麗に磨かれた石珀が入っていた。次の箱には、石珀で加工された腕輪が入っている。次の箱には衣服が入っていた。
    「何でもない日にお前にプレゼントをしようとすると断るだろう? なので、一年分プレゼントしたいものを溜めていたんだ」
    「それは……」
     確かにそうかもしれないと魈は思った。しかし、こうなってしまえば断ることなどできない。
    「ありがとうございます……大事にいたします……」
    「置いておくばかりではなく、気が向いたら身につけて俺に見せて欲しい。どれも魈に似合うと思って選んだんだ。実際の所どうなのか確かめたい気持ちもある」
    「……わかりました」
    「残りの時間、プレゼントの説明をしてもいいだろうか?」
    「え、はい。構いませんが」
    「では……」
     そう言うと鍾離は石珀を手に取り、いつ取ったものか、誰に加工してもらったかなどを話し始めた。その次は……と一つ一つを手に取り、鍾離がどんな思いでそれを選び、どういう品なのか詳細に説明していった。
     ……その話が終わる頃にはとっくに魈の誕生日の日は過ぎていたが、鍾離の想いは充分過ぎるほどに受け取ったと言える。
     祝われることには慣れない。しかし、今日皆が自分に見せてくれた表情や言葉たちは、生涯大事にしたいと、そう思った。
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