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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    しょしょドロライ16回目「雨」

    #鍾魈
    Zhongxiao

    雨の日 例えば雲一つない空から太陽の光が己に向かってどれだけ降り注いでいようとも、はたまた、分厚い雲に覆われ昼なのか夜なのか判別できない程の暗闇の中で、痛い程の大粒の雨に打たれていようとも、降魔を休むという選択肢はない。
     天気など気にしない。それは魔物も己も同じだ。いざ戦闘になれば、どちらが悪鬼なのかもわからないと言えるだろう。
     今日は雨だった。視界は悪いが気配は追える。こういう時は方士もあまり見かけないゆえ、魈の役割、己の意味を今一度胸に刻みつつ、いつもと同じように空へと飛び立った。
     雨だからといって利点がない訳ではない。凡人が出歩いていることが少ないので戦いやすい。泥を蹴れば目潰しにもなる。欠点と言えば、水分を吸って、いくらか衣服が重たく感じるくらいだろうか。
    「くらえっ!」
     槍を突き刺し、魔を祓う。返り血を浴びた所ですぐに雨に流されるのはむしろ好都合とも言える。立っているのが自分だけなのを確認し、はっ、と息を吐いた。
    「う……、くっ」
     残滓を取り込んだ。どんよりした雲に惹かれてなのか、いつもより骨の痛みが増す。ずぶ濡れの衣服も相まってか、身体が重い。望舒旅館へ帰るのならば、もう少し気が落ち着いてからの方が良いだろう。
     和璞鳶をしまい、木の根元に腰を下ろした。地面はひんやりと冷たく、休むのに適した場所とはいえないかもしれない。凡人ならば風邪でも引いていることだろう。葉が雨を多少遮ってくれていたが、今更雨宿りというには濡れ過ぎている。それでも何もしないよりはマシだとしばし目を閉じる。雨が葉や地面に当たり、跳ね返る音が耳にこだました。
     しばらくそうしていると、一際雨を弾く音が聞こえた。それは徐々に大きくなり、魈の目の前でピタリと止まった。
    「濡れていては、休めないのではないか?」
    「…………鍾離様……」
     やはり、そうであったかと目を開けた。魈の頭上に傘を翳し、じっと魈の顔を覗き込んでいる鍾離の姿がそこにはあった。
    「鍾離様のお召し物が、濡れてしまいます……」
    「俺のことはいい」
     よくないです。と返したい魈であったが、既に鍾離の背中はしとどに濡れ始めている。
    「立てないのか?」
    「……そういう訳では、ないのですが……」
    「休む場所を探しているのなら、俺の洞天に行けばいい」
    「次にいつ魔が現れるとも限りませんゆえ、軽率に行く訳にはいきません」
    「そうか。そうであったな」
    「鍾離様……?」
     納得したのもつかの間、鍾離は何を思ったのか、魈の隣に腰を下ろし、開いたままの傘を木に立て掛けた。
    「お召し物が……」
    「ああ、濡れてしまうだろうな 」
     魈の頭の中には、何故。しか浮かばない。みるみるうちに、鍾離の外套が濃い色に変わっていく。
    「折角なので凡人らしく雨の中散策をしていた。そうしたらお前がいた。雨に濡れていたので傘を差し出した。何かおかしい所があったか?」
    「……なにも……」
     なにも、とは返事をしたが、鍾離の手が魈の頬や首筋、腕などに触れて傷の程度を見ている。凡人はこのように夜叉に触れることはない。大事には至ってないと納得したらしく、鍾離は木にもたれ座り直していた。
    「いっそ共に濡れるのも一興かもしれない」
    「それは、なりません。鍾離様は、おかえりください」
    「お前は?」
    「我は……」
     鍾離のことだ。目立った外傷はないものの、業障に痛む身体のことまで見抜いている気がした。
    「雨が止んだら、戻ります」
    「では、湯を沸かしておこう」
     うん。と頷き、鍾離が立ち上がった。では、待っている。とだけ残して雨の中へ歩を進め、すぐに見えなくなった。
     木に立て掛けられた傘はおいてあるままだ。何故か鍾離は雨に打たれながら帰ってしまった。
     魈はしばし呆気に取られたが、すぐに傘を返しに行かねばならない使命感に襲われた。それに、自分はいくら濡れようと構わないが、鍾離を濡れ鼠のまま帰す訳にはいかないと思った。
    「鍾離様……」
     魈は一人になりたいと心底望んでいる訳ではないが、鍾離は一人にしておいてはくれない。いつだってそうだった。魈の帰りを、いつも待っていてくれているのだ。
     魈は立ち上がり、傘を手に取った。早く傘を差してあげなければ。鍾離がそうしてくれたように、彼を一人で帰らせてはいけないのだ。
    「お待ちください!」
    「魈?」
     瞬時に鍾離に追いつき、腕を伸ばして鍾離に傘を差した。振り向いた鍾離の前髪からは、雫が滴り顎を伝い、ネクタイまでも濡らしていた。肩口はぐっしょり濡れ、今更傘など差し出したところで意味を成さないとは思ったが、傘を差すことには意味がある。
    「我も……共に帰ります」
    「降魔はもういいのか?」
    「はい……元々、気が落ち着けば戻ろうと思っていましたので」
    「そうか。はは」
    「?」
     突然鍾離が笑い声を漏らした。何かおかしかっただろうか。なんでもないと言いながら、鍾離はしばし笑みを浮かべていた。
    「気は落ち着いたのか?」
    「はい……」
     鍾離が来たからなのか、傍にいて触れられたからなのか、骨を蝕む痛みを少し忘れてしまっていた。
    「ならば、帰ろうか。温かい湯にでも浸かるとしよう」
    「はい」
     俺が傘を差そうと言って、鍾離が柄を持ってくれた。鍾離の傘なのだから一人で入れば良いと思うのだが、二人が並んでいる間に傘は差されていた。しかし、既に二人共衣服が絞れる程に濡れているので、傘を差すことに意味があるとは言えないのかもしれない。
     しかし、二人で並んで帰ることには、この気持ちを言い表せる言葉を持っていないが、意味があると感じた。
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