さよならフェルンヴェー1.イチゴのクラフティ
春が来て夏が過ぎて秋を経て冬を迎える。
一生がその繰り返しだ。人も動物も植物も、何度も季節を繰り返していく。
大学を卒業してボーダーの仕事にも余裕ができた村上は、任務の傍ら鈴鳴のはずれにある小さな古民家で焼き菓子屋を営んでいる。一階が作業場と売り場を兼ねていて、二階が居住スペースになっている一軒家は来馬が“持て余している“と言って貸し与えてくれたものだ。道具一式が揃えられた調理場に村上は恐縮しきりだったが、与えられた環境を無駄にしないためにも村上はボーダーと店の経営の二足の草鞋に懸命に励んだ。
そして現在、村上によって丁寧に作られた焼き菓子たちは地元の人々に愛され、今日も慎ましやかに甘い香りを届けている。
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