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    ドラウズ

    @drowse_zzz

    【書いてるの】
    ピクミン4自機受け小説/ボルドルド隊夢小説
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    ドラウズ

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    ピクミン4の自機小説です
    受け入れる話です
    推敲したつもりですが、なにか変なところがあったら教えて下さい

    「帰ろう!」

    #ピ4自機小説_アンシー

    受け入れる「…………」
    「……今日も出てきませんね」
    「一応、食器は空になってるから、食べてはいるみたいだけどお……」

    数日前のあの事件、パピヨンと一般人のスジオという人が怪我したくらいで、被害も少なくすぐに収まった。アンシーの治療もあの蔦が全身を覆っていたからかクスリが効くようになり、逆にアクシデントもなく『ほぼ』完了した。
    問題はそれからだった。アンシーが自ら医務室とラボの近くにある、隔離室に籠もったのだ。最初はろくに食事を摂っていなかったが、パピヨンが根気よく毎食きちんと出していたら食べるようになったそうだ。

    「まだ、あの『蔦』は残っているのだろう?」
    「うん。彼、スジオさんから聞いた確保する直前の会話からしても、綺麗さっぱり取り除いちゃうと精神的なショックが大きそうだったからねえ。色んなところを蝕んでるから、肉体的なショックもあるだろうし……」
    「蔦のお陰で葉っぱ人化を無理矢理上書きして治した様なものであるから、自身の意識も戻って『助けられた』と感じるなら……好く気持ちが芽生えるのも理解はできるな」
    「だからって、はいそうですかって納得出来るわけじゃねぇけどな」
    「…………私だってそうだ。せっかく助け出して、一緒に帰れると思ったのに、……こんなのは嫌だ」

    アンシーが単身この星に来てくれておおよそ2ヶ月ほどではあるが、もうアイツがいないシェパード隊なんて悲しくて想像出来ない。

    「かといって、無理にアンシーくんを引きずり出しても根本は解決しないだろうからねえ。どうしようか……」
    「……今思いつきマシた!ミーならナイスアイデアをもってマース!」
    「ほんとか!!」

    バーナードは各地を飛び回ってきたし、そのコミュニケーション能力で友人や知人も多い。彼なら良い案が浮かびやすいのだろう。

    「古今東西、想いを伝える方法は口で伝えるだけじゃありまセーン!」
    「……つまり?」
    「なるほどな、お母様とお父様もたまにやっているぞ」
    「確かにそれならみんなの想いを伝えられるねえ〜」
    「ううん、勿体ぶらずに私にも教えてくれ!」
    「フフ、簡単なことデスよ!それは……」


    「沢山集まったねえ〜」
    「まさか全員書いてくれるとは思わなかったぜ……」
    「なに、ミー達含めて皆アンシーちゃんに助けられマシタ。これだけ集まるのも必然デース!」

    バーナードが言っていたのは手紙のことだった。手紙といっても、メッセージカードから便箋まである。
    確かにこれなら、苦手な人でも小さいスペースなら書きやすいし、人が多いから言葉の少なさもカバー出来る。もちろん便箋だっていくつもある。
    一番早く書いてくれたのはもちろんというか以外というか、アンシーと友達になっていたらしいスジオだった。蔦で覆われたアンシーと対峙したときにそこそこのをしていたが、友達だからとすぐに書き上げていた。
    それにあの問題児と言えるルーイ君だって、拙いながらもきちんと書いてくれた。彼もアンシーに『救われた』一人だからだろう。

    「あとは誰が届けに行くかですが……」
    「……私が届けに行ってもいいか?」
    「もちろんです!」
    「なんだかんだで、アンシーくんが一番懐いてたの、隊長だもんねえ」
    「うむ、最近は撫でられに行くようになってたからな。やはり隊長が行くのが良かろう」


    隔離室の前に、手紙が入った箱を抱えて立つ。宇宙服は着ていない。ラッセルやディンゴには心配されたが、アンシーの心に歩み寄るなら何も防護をしないことが大事だと思う。それに私なら強いから平気だからな!

    「アンシー、私だ、エルマ・シェパードだ。……入るぞ」

    ドアの横の端末から声をかけて、中に入る。隔離室だからドアは二重になっていて、片方が完全に閉まらないともう一方は開かないようになっている。
    そのドアの開閉を経て、部屋の様子を目の当たりにする。別に汚かったり荒れているという訳ではないが、アンシーはひっそりと部屋の隅で蹲っていた。例の蔦はもうアンシーを覆っていないが、そのアンシーから蔦が何本か伸びている。

    「今日は皆からのプレゼントを持ってきたんだ。ふふ、凄いぞ!遭難者も含めての皆からの手紙だ!」

    ピクリと動くが、アンシーが顔を上げることはなかった。

    「……今すぐじゃなくていい。後ででもいいから、どうか読んでみてくれ。皆アンシーに感謝してるんだ。この手紙たちはそれを伝えたいだけさ」

    アンシーはどこか抜けてるようで結構真面目だから、期待を重荷に感じてしまうかもしれない。それに『期待するのもされるのもいらない』と言っていた。

    「それじゃあ、手紙を届けたし私はこれで戻るよ。パピヨンが心配していたから……いや、やめておこう。でも、どうか、無理だけはしないでくれ」

    だからこそ出来るだけフラットに、軽やかさをもって心配し、もっと側に居てやりたいと思いつつも隔離室を後にする。



    「…………」

    俺は、手紙を、隊長を前にしても何も出来なかった。当然『あのこと』を伝えるのだって。なにせ……彼が、パピヨンさんが聞いたら、いったいどう思うか。
    隊長が持ってきた手紙をまだ読む気になれなかった。皆の想いは嬉しいけど、俺にはそれに応える資格があると思えない。

    俺が、暴れたときからどのくらい経ったかはよくわからない。時計は見てないし、カレンダーも窓もない。三食ちゃんと出ているけど、気づいたら寝て、気づいたら起きてを繰り返してるから、どれがどれだか区別がつかない。

    俺は多分この星にいるべきだと思う。
    この星から出られないのは葉っぱが生えてるからが理由じゃなくて、ヤドリピクミンだから引き止められている可能性が高い。俺の今の蔦はヤドリピクミンではないから、この星の外に出られる可能性は大いにある。
    その根拠自体はほとんど無い。けど俺が葉っぱ人になったとき、いや、なる前からの感覚を考えるとあながち間違いでもないかもしれない。
    そもそもこの星に残る理由自体は、俺がこの蔦を完璧に制御出来たとして、ずっと正気でいられる保障がないから。蔦の力はとても便利で力強い。
    レスキュー隊の皆は個性も凄いけど、その精神性は尊敬出来るものだ。けど俺はそこまで出来たヤツじゃない。レスキュー隊に入った理由だって、たまたま隊員募集の張り紙が目に入ったからだ。そりゃ変わりたいって気持ちはちょっとはあったけど、誰かの為っていうより自分の為の気持ちの方が強い。任務に慣れてきてからだって、感謝されたいとか褒められたいっていう、結局はエゴが理由だ。
    だから、そんな俺だから、なにか事を起こしても他の人を害することのないこの星に残るつもりだ。未来の俺に期待は出来ないから。

    だいぶ落ち着いてきたかもしれない。蔦を引っ込められるようになったし。
    どうもこの蔦は、生やすときに俺の栄養とかエネルギーを吸い上げるらしい。そのせいで治療後の俺の体はだいぶ萎びていた。この星に残るために、この船から出るために、食事をとっているけど……ぶっちゃけ蔦と共生している現状なら大地のエキスが一番効率が良さそうだ。

    回復してきた今なら、隙を突けば、この宇宙船から出られるだろう。
    けど、それをする気には、どうにもなれなかった。資格はないといっても、だからといってせっかくの手紙を読まないという、気持ちを無碍にするようなことだって出来ない。
    たぶん、読んでしまったらきっと、ここに残ろうと思いづらくなる。だからこそ、切り捨てて欲しかった。でもそんなことをしない人達なのも分かる。

    俺の悪い癖だ。一人でうだうだと考えて、過去のことをずるずると引き摺って。
    それでも、いつか救われたいって思ってる。



    「そういやよぉ、パピ」
    「どおしたのお?」
    「……アンシーの飯になにか仕込んでたろ」
    「うふふ、バレちゃったあ」

    幼馴染だからよく分かるが、なにやら妙な顔してたし俺にラボに入るなってわざわざ言い聞かせてた。つまりは俺に飲ませたくない薬を作ってたってわけだ。タイミング的にもアンシーに飲ませる為なのは分かった。

    「バレちゃったってなぁお前……んで、なんの薬なんだよ」
    「……治療薬、ではないようだな?」
    「うん、あの薬で蔦がどうにかなる訳じゃないねえ。ただちょっと、自分の気持ちに素直になれるようにさせる薬だよお」

    怪しく笑うパピを見て、無線屋がまるで自白剤みたいだってちょっと引いてるが……ま、そんなやべぇモンをパピが無理矢理飲ませるわけないだろうな。……だよな?

    「流石にいきなり沢山摂取させるのは良くないから、少しずつ量を増やして気持ちの変化も緩やかになるようにしてるよお。そろそろ分かりやすく効果が出てくるんじゃないかなあ?」
    「なるほどな、だからわざわざ焚き付けるようなことを言ったという訳か」
    「焚き付けるなんてひどいなあ、ラッセル。まあ、なにか行動は起こそうとは思ってたけどねえ」

    パピは案外ちゃんと色々考えてるからな。……皆を実験台にしようとするのは勘弁してほしいが。

    「手紙、読んでくれたでしょうか」
    「急かすのは良くなさそうだから、待つしか出来ないのがもどかしいな」

    『期待』が嫌だと言っていたアイツに、負担なんかかけられねぇ。ただパピの薬があるとはいえこのまま緩い変化ってのも、アイツの考えが凝り固まりそうで良くねぇと思うんだよなぁ。

    「……説得とか会話はナッシングだとしても、せめて食事のときに隣にいるくらいはそろそろオーケーなはずデース」
    「でも一気にみんなで行くのは良くないですよね、誰が行きましょうか?また隊長が行くのも……ちょっとずるいですし」
    「フム、ならばクジを作ってこよう。アタリの者が行くことにすれば公平だろう」

    そうしてアンシーの元に行くことが決まったのは……。


    「よ、アンシー。今回から飯の度に誰か来ることになったからな」

    俺だった。やったぜ!
    アイツは相変わらず隅っこに座ってるが、どうやら少し手紙を読んだ形跡がある。良い方向に進めばいいが……。

    「あー、飯はここに置いとくからな。アンシーが食べ終わるまで居座るとかはしねぇから、安心してゆっくり食べてくれ」

    座ってるアンシーの前に飯が乗ってるトレーを置いて、アンシーの左隣に俺も座る。
    アンシーはどうも蔦のせいかめちゃくちゃ食べるようになってて、コリーの倍以上の量が盛られてる。背がデケェのもあって元から食べてたが……これ何人前だ?5人前くらいあるだろ。
    黙って横で食べてると、アンシーがゆっくりと腕を伸ばして飯を食べ始める。アイツがこっちを見ることもなくずっと無言だが、ま、隣に居させてもらって飯も食べてくれてるなら十分だな。

    そのまま食べてれば、そりゃいつかは飯は無くなる。アンシーのはまだ残っちゃいるが、俺が休憩と称して残るのも限度がある。流石にそろそろ戻るか。

    「それじゃあそろそろ俺は……っ!」
    「ま、まって」

    戻ろうとしたら一本の蔦がするりと絡まってきて驚いたが、アンシーが意識して俺を止めたのだと分かる。

    「どうしたよ、まだ……」
    「やだ、いかないで、おねがい、まって、ここにいて、だめ、ひとりにしないで、おねがいだから、おいてかないで、さみしいの、やだ、おれといて、いっしょにいて……」
    「わ、わかったわかった!そんなにさみしいなら居てやるから落ち着けって!」

    こっちを見ていきなり沢山喋ったかと思えば、縋るようにもっと多くの蔦を絡ませて俺の右腕を締め付けてきた。落ち着かせるために座り直せば、うっ血しそうな程の力はなくなったが……離れらんねぇなこりゃ。
    ま、しばらくは離れる気はねぇけど。だって泣いてるんだぜ?

    「そんなに寂しいならよ、ここから出ちまえばいいじゃねぇか」
    「……でも、だって、……いまさら、あわせるかおが、ないもん……」
    「んなわけあるか、合わせる顔しかねぇよ。……無茶してまで出てこいとは言わねぇ、お前のペースでゆっくりやってけ」
    「…………(コクリ)」

    そりゃまぁ俺も俺達もめちゃくちゃ迷惑はかけられたけど、それ以上にみんなアンシーのことが心配だった。隊員だからってだけじゃねぇ、一個人としてな。
    パピの薬の効果もあるんだろうけど、まさかアンシーのこんなガキっぽい一面が見れるとは思わなかった。初めて会ったときは物静かなヤツが入ってきたもんだと思ったのを覚えてる。
    最近は皆と交流するようになって来たけど、底無し沼に沈むまでは一人の時間も多かった。けど本当は一人で寂しいのは嫌だったんだなぁ。
    ……それなのに一人で残ろうとしてたんだよ。葉っぱ人になってたときは洗脳されてたっぽいから別としても、蔦に覆われてた……蔦人?のときはどうにも比較的『正気』だった。感情が昂ってたみたいだが、そんな状態ならなおさら一人で残るって決めた精神状態が心配になるぜ。

    「あ、あのさ」
    「ん、どうした?」
    「もし、『新入り』がおれじゃなくても、やさしくしてくれたんでしょ。おれがいいってわけじゃないんでしょ。おれじゃなくてもよかったんでしょ……」
    「あー……」

    そんな気はしてたけど、どうも自己肯定感が結構低いみたいだ。俺もまぁビビるときはあるけどよ、自信自体はちゃんとあるぜ!でもコイツは今は心が不安定なのもあるが、それにしたって自信がねぇ。

    「まぁ、言っちまうんなら、別に『新入り』はお前じゃなくても良かったな」
    「……ほら、やっぱ」
    「でもよ、今こうしてここに居るのはお前だぜ?ろくに訓練もしてない新入りだってのに単身ビーグル号で宇宙を飛んできて、オッチンと直ぐに仲良くなってよ、俺らも、オリマーさんも、遭難者達もみんな助けちまってよ。俺様達の助力があったとしても、それを成し遂げたのは紛れもなくお前だ!」
    「っ……」
    「ここまで頑張ってきたのはちゃんとお前、アンシーだって。俺等もオリマーさんも遭難者達もさ、アンシーが来てくれて嬉しかったんだぜ?」

    そうやって俺なりに励ましてると、声を押し殺すように泣き始めた。

    「俺様がついてるからよ、存分に泣け!」
    「っ、ううっ、ぐすっ……!」

    アンシーの体を引き寄せて胸を貸すが、そういってもすすり泣きからあんまり変わんねぇ。……アンシーとしてはこれが精いっぱいなんだろうな。自由な左手でガシガシと頭を撫でる。
    しばらくして泣き疲れたのか、そのまんま俺の胸で寝ちまった。てか前よりも軽くなってねぇか?あれだけ食べても代謝が良いと大変だな……。

    そうこうしてると、腕の端末に通信が入る。音量を小さめにして応えるか。

    「あー、こちらシェパード。ディンゴ、時間がかかってる様だが大丈夫か?」
    「こちらディンゴ、大丈夫ではあります。ただ、引っ付かれてる内にアンシーが泣き疲れて寝てしまったので、パピヨンあたりに濡れタオルと俺の着替えを持ってきていただけると……」
    「なに、アンシーが泣いたのか!……すまない、驚いてしまってな」
    「い、いえ、アンシーが起きる様子もないし大丈夫です。……ちょっと会話しましたけど、自分の気持ちを出せてましたし、余程のことがなければ多分上手く行きそうですね」
    「……そうか、良かった」

    短い言葉ではあるが、隊長が安心してる様子が伝わる。

    「着替えということは、そこから動けないのか?」
    「あー、拘束は解けそうなんで動けはするんですけど、俺に縋りついてきたような感じだったので出来れば側に居てやりたいなって」
    「なるほどな。分かった、しばらくはディンゴに任せる。……しかしずるいぞ」
    「へへ、クジなんですいません。アンシーに頼られて役得ですけど、……ちゃんと連れ出すんで待っててください」
    「……うむ、ディンゴがそう言うなら大丈夫だろう。待ってるぞ」

    そして通信が終わる。とりあえずパピを待つか。


    「おっ、やっと来たか」
    「うわぁ、結構凄いねえ」

    ディンゴの着替えとタオルを持ってくると、胸をぐしょぐしょに濡らしたディンゴと顔が涙と鼻水でぐずぐずのアンシーくんがいた。しかも彼を抱いてるその右腕には、蔦が何本も巻き付いてる。

    「はい、濡れタオル。右腕キツくない?」
    「サンキュ、今は大した力じゃねぇな。最初はちとヤバかったけど」

    濡れタオルを受け取って、彼の顔を優しく拭きながら答えてる。ディンゴはこう言ってるけど、あとで様子を見なきゃなぁ。

    「ところで、そんな引っ付かれてる状況で着替えは出来るのお?」
    「俺も無理そうだとは思ってたけどよ、どうも寝ちまったからか力が緩んでて着替えられそうだぜ」

    ほら、と言いながら蔦の一本をスルスル外していく。アンシーくんが起きる様子もなさそうだ。

    「へぇ、一応アンシーくんの意識と連動してるんだねえ。単なる寄生とはやっぱり違うんだなあ」
    「それによ、多分だけど……精神になんか影響ある可能性もあるぜ」
    「……というと?」

    今はボクに膝枕をされてる姿勢になったアンシーくんをじっと見ながら、ディンゴが神妙な顔つきで話し始める。

    「前に怪我したり底無し沼に沈んでたりしただろ?その時も不安定な感じだったけど、今回の方がよっぽど情緒が崩れてたぜ。……つっても事が事だしそりゃ情緒不安定にはなるわな。それに俺はそういう事は詳しくねぇからな、あくまでなんとなくってだけだ」
    「ううん、そうだとしても参考にはなるよお。当事者の意見だしねぇ」

    信頼の形は様々だから、頼りにされてたとしても内心の全てをさらけ出してもらえるわけじゃない。ボクとディンゴは隊での役割が違うからねえ〜。

    「うげっ」
    「あ〜、やっぱり結構な跡になってるねえ。あとで塗り薬用意して渡すよお」
    「助かるぜ」

    つなぎの上部を脱いで確認できたディンゴの右腕は、びっしりと蔦の跡ができていた。

    「……こりゃしばらくアンシーの前で上は脱げねぇな」
    「気にしちゃうだろうからねえ」

    せっかく精神的に安定しそうなのに、こんな跡を見たら彼がショックを受けかねない。気をつけないと。


    ディンゴからの話と前にアンシーくん本人から聞いた話から考えると、おそらくアンシーくんは無償の愛や信頼とか、そういったものを受け取る機会がほとんど無かったのかもしれない。いや、家族からも与えられてたんだろうけど、それは彼が望むカタチじゃなくて。
    そのせいか分からないけど友好関係も全然無いみたいで、あるのも良くしてくれてる考古学の『教授』さん関係くらいだ。その『教授』さんもあまりお金がないみたいだから、アンシーくんになにかを与えるのにも限度がある。教授かつ雇用主という立場もあるからなおさらかも。

    「あんま上手いことは言えねぇけどよ、やっぱコイツのウキウキしてる様子また見てぇな。シケた面よりよっぽど似合うだろ」

    ディンゴはさっさと着替え終わったみたいで、あぐらをかいてボクらの前に座りなおす。

    「うふふ、ずいぶんと『新米くん』を気に入ってるねえ」
    「はっ、そりゃ俺様を慕ってくれる『新入り』だからな」

    やっぱり後輩が慕ってくれるのは嬉しいもんねえ。
    『新人』として気になるところはもちろんあるけど、ボクとしては個人への興味の方が勝る。隊の皆とは違って結構大人しいけど、好きなことになるとやっぱり元気な感じなのはボクらとあんまり変わらない。
    医者として、人として心配するような人生を送ってきたらしいところもあるかもしれない。

    「そうだ、帰還したら隊の皆で博物館とか遺跡とか行くのも良いかもねえ」
    「おっ、いいなそれ。ラッセルの家経由なら珍しいものも見せてもらえるかもな」

    心配事もたくさんあるけど、折角なら楽しい未来を想像したいよねえ。



    ひどくしあわせなゆめをみたきがする。

    夢は覚めたら覚えてないことが多いけど、なんとなく覚えてるような気がする。でも、これは忘れるべきだ。きっと。

    「……?」
    「あ、アンシーくん起きたあ?」
    「あれ、え?」

    そんな余韻に浸りながら目を開ける。
    パピヨンさんの顔が、って、もしかして膝枕されてる!?

    「まだ萎れてるから心配なところは多いけど、元気そうで良かったよお」
    「しっかり飯食っててもこんなに萎れてるんじゃ、その蔦はずいぶんと大喰らいだな」

    そうだ、まだ蔦が……!
    そう思って離れようとすると、ディンゴ先輩が俺の右手を掴んでくる。なんならパピヨンさんも抑えてくる。

    「おいおい、逃げんなって。寝てるときも平気だったんだしわざわざ離れなくていいだろ」
    「そうだよお、僕が来ても平気だったしねえ」

    変わらず抑えられてるので、仕方なく膝枕をされたままになる。……というかなんで膝枕されてるんだろ。

    「俺を、説得しにきたんですか」
    「うーん、本来の理由はディンゴの着替えを持ってくることなんだあ。説得したいのはやまやまだけど、刺激してお互いに不本意なことになっちゃったら嫌だからねえ」
    「ま、お前が説得されてくれるならそりゃ嬉しいが。まだまだ教え足りねぇこともあるしな!」
    「素直じゃないねえ、一緒に過ごしたいって言えばいいのに」
    「う、うるせぇ!お前だってそうじゃねぇか!」
    「うふふ。まあ、ねえ」

    ……2人はやっぱり俺に一緒にいて欲しいらしい。たぶん他の皆もそうだ。それは分かってる。こうなってるのは俺が踏ん切りがつかないのが原因だっていうのも。

    「……俺は、大丈夫です…………帰る気は、あります」
    「「!!」」
    「……ただ、信じられなくて、……自信がなかっただけなんです。きっと」

    もうあんまり覚えてないけど、夢を見てからなおさらそう思えるようになった。
    あんなことはありえない。それは事実なんだ。

    「その前に……お願いがあるんです」

    これは俺がケジメをつけなきゃいけないことだから。言って聞いてくれるかわからないけど。


    夜。あんまり遭難者の人たちに気づかれるのは良くないから、ほとんど寝ているだろう時間帯。そんな時間に宇宙服を着て外に出る。……隊の皆と一緒に。
    蔦があるから着なくてもたぶん大丈夫だろうけど……流石にそれを言うのはやめておいた。

    「……大丈夫、なのか」
    「……わかりません」

    どちらにしても。この星の気持ちも、俺の気持ちも。一応決心したとはいえ、もしかしたら気が変わるかもしれないし。

    カバンからヒカリのタネを取り出し、近くに放る。1匹のヒカリピクミンが生まれ、俺の近くに寄ってくる。

    「今から、大事な話をさせて欲しいんだ」

    ヒカリピクミンとこの星の意思に繋がりがあるのかはわからないけど、伝わると信じて。

    「俺は、この星から出て、帰るべき場所に帰るつもりなんだ。だから、ずっとここにはいられない」

    家族とは縁を切ったけど、それでもシェパード隊の一員として帰る場所はある。俺を支えて、俺が手伝って。きっと上手くいくと……期待したい。
    ヒカリピクミンはちょこんと首をかしげて、変わらず目の前にいる。

    「俺を好きなのは嬉しいし、俺も君たちが好きだよ。君たちがいなきゃ助けられなかった人たちもいたし、凄く感謝してる。けど、俺は帰りたいからずっと一緒にいられるわけじゃない」

    これはホントの気持ち。だって俺とオッチンだけじゃやれることに限度がある。それにヒカリのミツがなければバーナードさんも他の人たちも助けられなかった。

    「まだ助けられてない人がいるんだ。だからみんなを助けるまででいいから、まだ力を貸してくれないかな……?」
    「ミン……」

    たぶん、さみしがってるのかな。俺がヒカリピクミンの立場だとしても、まぁ、きっとさみしいだろう。だけど俺は帰りたいから、ごめん。
    ちょっと腕を広げてみる。体格差はすごいけど、俺はされたら嬉しいから。そうして少し待っていたら触れてきてくれた。

    「……ミャ」
    「うん、ありがとね」

    なんかこう、不思議なさわり心地のヒカリピクミンを優しく抱きしめる。気持ちが伝わってくれるとうれしいな。
    しばらくそうやって抱きしめていると、ヒカリピクミンが俺の腕から抜け出す。

    「ミン」
    「また、今度よろしくね」

    やっぱり帰るらしく、少し見つめ合ってから光の線を残して飛んでいく。
    これで、たぶんヒカリピクミンに関してはどうにかなったかもしれない。ふぅ、やっとひと息つけたかもしれない。

    「……アンシー!」
    「ぐぇっ」

    ヒカリピクミンが去ってしばらくして、隊長が思いっきり抱きついてくる。それに続いて他の皆も。

    「ずるいですよ隊長!」
    「ワウ!」
    「フフ、アンシーは人気者だからな!」
    「元気が出てきて良かったデース!」
    「えっと、その、ご心配をおかけしました……」

    あのラッセルさんもグイグイくるのはちょっと珍しいかもしれない。それにしても、ちょっとキツイ……かも!

    「うぐ」
    「おっとすまない、力を入れすぎてしまったな。……だがそれだけアンシーのことが心配だったんだ」

    そう言ってみんな名残惜しそうに離れる。
    それは、……一応わかる。だって抱きしめ方が痛いだけじゃなかったから。

    「えっと、……また皆さんと一緒にいてもいいでしょうか」

    「もちろんだとも!」
    「そうですよ!また美味しいごはん食べましょう!」
    「我のカイハツにも付き合ってくれたまえよ?」
    「スタミナの付け方も教えてやるよ!」
    「ボクも色々試したいことがあるからねえ〜」
    「ミーと色んなところに遊びに行きまショウ!」
    「ワンワン!」

    皆が俺を快く受け入れてくれる。こんなにうれしいことは無いだろう。

    「さて、私達のシェパード号に戻ろうか!」
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