思い出のクリスマス「クリスマス会、ですか?」
「ああ!アンシーは初めてだろう?」
寒いとある日、隊長に呼び止められたらその話をされた。
「いつもは賑やかなんだが……アンシーはそういうのは苦手だろう?」
「んん、皆さんとなら嫌じゃないかもしれないですけど……でもやっぱり、落ち着いてる方が好きではありますね」
なんとなく想像してみたけど、クリスマス会というと賑やかじゃない方が思いつかない。それに皆は賑やかにしてる方が似合うような気がする。
「誰かが嫌だと感じるようなものにはしたくないからな。分かった、落ち着いた会になるように準備しておこう」
「あ、じゃあ俺はなにをすれば良いでしょうか?」
「アンシーは何もしなくていいさ!初参加だし主役みたいなもので、今年は段取りを考えず楽しみにし待っていて欲しい!」
「なるほど、わかりました」
いつもと違う雰囲気になるだろうし、今年は新しく俺も混ざる。段取りが変わるから、まず今年は調整も兼ねてなのかな。新人だし大人しくしていよう。
あんまり疎外感を感じなかったのは、やっぱり皆が好きなのかもしれない。多分、前までの俺なら感じていただろうけど、ちょっとは俺も変われたのかも。
「プレゼント交換は毎年の恒例だから、予算内で何かプレゼントを用意してくれ。最近は5000円が基本だな」
「5000円ですか……そのくらいならちゃんとしたものが買えそうですね」
「前は上限を決めてなかったんだが、ラッセルが高いものを持ってきてちょっと面倒な事になってな……。それから上限を決めるようになったんだ」
「……ああ、御曹司ですもんね。安い高いの基準が違うと、確かに問題が起きそうです」
あんまり安いとちゃちなものになっちゃうだろうし、5000円くらいならみんなも用意しやすそう。
「最近は慣れてきて程よい感じになったな。センスが良いから、人気なのは変わらずだがな。まぁ、クリスマス当日まで楽しみにしてるぞ!」
「いい感じの、頑張って探してみます」
「ううん、なかなか決まらない……」
休みの日に出歩いて何日か探しているけど、どうにもプレゼントが決まらない。俺の好きと皆の好きは当然違うから、そこを考えて買うのがなかなか難しい。
スノードームはクリスマスっぽいけどこれいる?って思っちゃう。防寒着の類は皆もうすでに自分の好みのをしっかり買ってるし、食べ物や飲み物は美味しくてもなくなっちゃって寂しい(少なくとも俺は)。折角なら何か形が残るものが良いな。
街を歩くカップル達を見る。ああいう人たちなら相手の好きそうなものを贈れば、なんでも喜べるのかなあ。なんなら直接欲しいものとか聞いたりするのかもしれない。
福引では有名な遊園地のペアチケットが当たる!なんてやってる。今当たっても休みは直ぐに取れなさそうだけど……。元々行こうとしてる人だったり、いますぐじゃなくても良い人向けなのかもしれない。
……そうだ。
本部と隊舎の飾り付けもほとんどできていて、あとは明日のクリスマス会当日を待つだけになっていた。元々俺はほとんど待つだけだったけど。
とはいえ料理の仕込み自体は今日にやるから、まだやること自体はあるらしい。
「寒くなると起きるのが早いですね」
「布団にくるまってても、流石に寒さで目が覚めちゃうんです……」
「とはいえまだ眠そうだな。無理せずゆっくり過ごすといい」
朝ご飯を食べたあと、食堂で皆さんとのんびりしていた。コーヒーを飲んでもまだ眠い。というかお腹いっぱいになったから眠くなっちゃう……。
「ま、今日明日はみんな休みだからゆっくり過ごせばいいさ」
「そうだよお、ディンゴみたいにお昼寝したっていいしねえ」
なんだよその言い方、バカにしてんのか?いいやあ、べつにい?医者としても褒めてるよお。
なんて、そんな幼なじみらしいやりとりをしてる二人を見ているとバーナードさんが声をかけてくる。
「そういえばアンシーちゃんはプレゼント決めましたカー?」
「はい、つい先日なんとか決まりました。ただ……ちょっとズルいヤツかもしれません」
「ホーウ?」
「ああいや、決して最初からズルしようとしてたわけじゃなくて……」
「安心して下サーイ、アンシーちゃんを疑ってるわけじゃナッシング!」
「ふふ、アンシーが自分からそう言い出すならますます楽しみだな」
し、しまった、期待のハードルが上がっちゃった……。
「ということは全員決まったみたいですし、あとは箱に入れて当日を待つだけですね」
以前に決まったらしいが、箱に入れてから番号を割り振ってくじ引きをするやり方だそうで。箱自体をシャッフルすると、微かに残る温もりや中身の重さや重心で探ろうとすることがあったのだとか。それで多少当てられるんだからまた凄いや……。
「こういったパーティーで楽しめそうなのは初めてなので、ちょっと……いや結構ワクワクしてます」
はっきり言って、過去に経験したパーティーは騒がしかったりノリきれなくて疲れて終わっただけの印象が強い。だからパーティー自体がそもそも……好きじゃない。
「それは良かったデース!」
「アンシーさんも楽しめるクリスマス会に出来そうですから、期待して待ってて下さいね!」
けど、皆が色々考えて俺が楽しめるようにしてくれたみたいだから、……ぜひとも期待したいな。
◆
「……アンシーくんは行ったねえ」
「科学屋、『アレ』は準備出来ているんだろうな?」
「バッチリだとも!妨害はあったが、懸念は全て排除してある!『アレ』も念を入れて我が家で保管してあるぞ!」
「流石はラッセルだ。明日は手はず通りに頼むぞ!」
「アンシーちゃんの喜ぶ顔が楽しみデース!」
◆
クリスマス会当日。
「おはようアンシー。起こしに来たぞ!」
「ん〜……、おはようございます……」
今日は隊長が起こしに来てくれた。……いつも起こされてるわけじゃないよ?なんか俺を起こしに来るのが楽しいらしいから、皆が勝手に来てるだけだからね……?
「よくディンゴに先を越されるからな。ふふ、今日くらいは私が起こしに来たくて頑張ったぞ!」
「んん……そうなん、ですねぇ……」
隊長は朝からげんきがすごいなぁ。
「私は一旦部屋から出るから、着替え終わったら教えてくれ」
「あい……」
いちおう、眠くてもさすがに一人できがえはできる。それに隊長とはいえど異性だしね。
着替えてる内にちょっと目が覚めてきて、着替え終わって部屋から出る。
「お待たせしました……」
「ふふ、じゃあ皆のところに行こうか」
ご飯を食べ終え一息つく。
「先日はイベントもあって大変でしたけど、今日はのんびり出来そうで良かったです!」
「404での活動もあった故、例年より子供たちが集まったからな。なに、人気があるならいいことだろう」
「そういえばアンシーくん、今日はサンタじゃなくてトナカイの格好なんだねえ」
先日の子供向けのイベントではみんなでサンタの格好をしていたけど、今日はトナカイのカチューシャをしていた。……着ぐるみみたいなのはちょっと恥ずかしいのでやめた。
「なんかこう、性に合わないというか、しっくりこないというか……」
「あー、なんか分かる気がするぜ」
俺は隊長の犬だし。トナカイを使う側のサンタに扮するのはなんか違う気がする。
「今日はミーとおそろいデース!」
ぞう言うバーナードさんは俺と同じようにトナカイのカチューシャと、……宇宙犬が目からビーム出して街を破壊してるセーターを着てた。…………なにそれ?
話を聞いていると、どうやらセナさんにも送りつけたらしい。ちょっと同情する。
「そういえばアンシーくんは、こういう日はどうやって過ごしてるのお?」
「動物を愛でるような番組を流して、ダラダラと過ごしてますね」
「へぇ、遺跡とか歴史の番組じゃないんだぁ」
「普通の休みはそういうのを観てますけど、こういう時は癒されるようなものを観たいですからね」
「オフの日は趣味のものを観たいからな、わかるぞ!」
残念ながら録画にはそういうのがなかったので、ネットの動画サービスで良さげで良さげなのを見繕った。生まれたての宇宙犬の動画に隊長がめちゃくちゃ反応してたので、せっかくだからそれにしてあげた。俺も見たかったしね。
そして、しばらくして多分みんなお待ちかねのプレゼント交換。
俺が貰ったのはコリーさんからのだった。中身はお菓子かと思いきや、じつはホットチョコもセットだった。しかも棒に付いてるチョコレートを溶かすやつ!
「えへへ、アンシーさんが喜んでくれたようで何よりです!」
「おれ、こういうのはじめてで……!わぁ……!」
特段甘いものが好きってわけじゃないけど、それでもこういうオシャレで楽しそうな物には心が踊らされる。クッキーもなんだか凝った造形のオシャレなやつだ……!
「つーことは俺様のが……アンシーのプレゼントってことか」
みんなはさっさと開けはじめてて、俺とディンゴ先輩だけになっていた。そんなに楽しみだったんだなぁ。
「封筒?中身は……水族館のチケット?二枚あるな」
「なるほど、確かにこれはちょっとズルいかもしれないな」
「だいぶ迷ったんですけど、偶然街で目について……。水族館なら誰かを誘うにもオシャレでいいかな、と」
俺は未だに水の中が怖いし、なんなら水族館も……怖い。けど水槽が壊れることなんてそうそう無いし、誰かが側にいればきっと、少しくらいは安心できるはず。そんな思いを込めて水族館のチケットにした。
ま、俺が行くわけじゃないけど。思いを込めるだけならタダだし自由だ。
「これ、一緒に行く相手は俺が自由に決めていいんだよな?」
「はい、もちろんです。チケットはもうディンゴ先輩のものですから」
「ならよぉ、……一緒に行かねぇか?アンシー」
「ズルいですよディンゴさん!」
「オーウ抜け駆けはナッシングデース!」
「そうだよお!それにディンゴはたい……」
「まてまて落ち着けお前ら!」
俺!?と驚くヒマもなくディンゴ先輩が詰められていた。
「えっと、ほんとに俺でいいんですか……?」
「いいに決まってんだよ。俺様が一緒ならお前も安心だろうしな!」
「……!!」
ディンゴ先輩は多分ちょっとは俺の思いを感じ取ってたのかな。わかんないや。けど、そうだと……うれしいな。
「なに、親睦をさらに深めるいい機会だろ。あんまり二人で出かけるってことも少ないしな」
「確かに、皆さんと出かけるか買い出しに誰かと行くくらいですし……あ!」
「どうしたよ」
「これだと俺が得しちゃう……!」
だって俺のプレゼントが1.5人分になっちゃう!
「良いんだよんなもん」
「で、でも……」
「それによ、かわいい後輩と二人で出かけられるんなら、値段以上の価値があるってもんよ!」
「!えへへ、う、嬉しいです……」
そうして後日水族館に行くことになったが、それはまた別の話。
ちなみに今後の事をかんがみて、チケットの類は誰を誘うかが争い事にならないように禁止になった。残念……。
「アンシー?」
「んん……」
「だいぶお酒が回ってきた、みたいですね」
アンシーが空のグラスを持ったまま、うつらうつらと首をゆらゆらさせていた。どうにもある程度酔いが回ってくると眠くなるらしい。危ないからとりあえずコップは置かせよう。
「もう夜だからなぁ」
「『アレ』のこともあるし、アンシーくんにはぐっすり寝てもらわないとねえ」
「……まさか何か入れてねぇよな?」
ぱ、パピヨンならやりかねないな……。とはいえ今日なら助かるがな。
「さて、流石にそろそろ寝かせたほうがいいな。……私が送ってきても、いいよな?」
「オーウ、職権乱用デース!」
「あっ、ずるいですよ隊長!」
「ふふ、今日は隊長としての権力を使わせてもらうぞ!」
これ以上何か言われる前にアンシーの脇に腕を通して立たせ、ゆっくりと彼の部屋に向かう。後ろから文句の声が聞こえてくるが、追いかけてくる様子はない。優しい奴らだ。
流石にパジャマに着替えさせるわけにはいかない。部屋着だからそのまま寝かせても問題ないだろが。
カチューシャを外してベッドに寝かせると、少しだけもぞもぞと身じろぐ。
「ぁう……たいちょ……」
「安心してくれ、しばらくは側にいるさ」
「んぅ……!」
クッションを手繰り寄せ床に座り、片方の腕をアンシーに掴ませてやる。
「ふふ、お酒が入ってるとよく甘えてくれるな」
今まであまりできなかったようだから甘えさせてやりたいが、本人の気質もあってかなかなか甘えてくることは少ない。最近やっとたまに撫でられにくるようになったくらいだ。
「(そういえば、あまりじっくりとアンシーの部屋を見たことはないな……)」
物が多くごちゃごちゃしているが、よく整理整頓されている印象だ。そもそも普段からマメな性格ではあるが、それにしてもパピヨンやラッセルとは大違いだな……。
「やっぱりパピヨンやラッセルとはまた違った難しい本だな…………ん?」
手に取れるところの本を軽く読んでみたが、知識がないと理解できない本なようだ。直ぐに戻すことになってしまった……。
しかし、ふと隣の机にチラリと見えた手紙が気になって手に取ってみる。
「いったい誰からもらったんだろうか……。相手はいったい、いやいや勝手に見るのは流石に、いやしかし…………は?」
私の名前が書いてある??
「いやこんな物を書いた記憶はないぞ……しかも封蝋はシェパード隊のマーク……」
アンシー宛に書かれている手紙の文字は、明らかに自分の筆跡だった。しかしどう記憶を探っても、手紙を書いた心当たりすらない。
「いったい誰が……いやまさか」
ハロウィンの事を思い出す。あのときアンシーを監禁しようとしたのは『あちら』の私だったはずだ。
「しかしハロウィンの時期以外でも何かは出来るのか……。何か細工があるかもしれないな。アンシーは……しっかり寝ている様だし、二人を呼んで解析してもらうか。オッチンにもニオイを嗅いでもらわねば」
大したことが出来ないにしても、それを足がかりとされてしまっては困る。しっかりと対処をしなければ。
直ぐにスマホでメッセージを送ったが、まぁ、二人が来るまでは少しだけアンシーの甘えを味あわせてもらおう。
◆
「む」
「どうしましたか隊長?」
隊の皆でクリスマスのパーティーを楽しんでいたところ、『上手くいかなかった』感覚がした。
「残念だが、『手紙』が破棄されたみたいだ」
「む、我らも協力して送ったが、……破棄されたのか」
「うう~ん、丈夫に作ったはずなんだけどねえ。さすがあっちのボクらと言うべきかなあ?」
同封されている招待状を『アンシーが』読み終えた時点で、こちらの世界に転移するようになっていた。残念ながら一時的に呼ぶだけではあるのだが……どうにも開封すらされずに破棄されたらしい。
「色々重ねがけしてたのに、それでもダメだったのかよ……なかなか侮れねぇな」
「デスが隊長、あの店はとってもワンダフルなプライスでは?それにベリーハードな……」
「いや、そこはもう駄目だったのなら仕方ないさ。次の策を考えるしかない」
ラッセルの家でもしょっちゅう行けない様な店だが、アンシーをもてなすのには良い店だと選んだんだがなぁ。
悔しくてたまらないが、時期外れなら私達でも手紙を送るのがやっとだ。これ以上足掻いても仕方がないさ。転送の術が種族や一族として得意ならばまた別かもしれないが……生憎と今の隊員にはいない。
「(はぁ、あそこはキャンセルするのも面倒だが……破棄されたと分かったならさっさと連絡してしまおう)」
なに、まだ次のチャンスはあるさ!イベントの時期には揺らぎやすいようだからな。
楽しみに待っていてくれ、アンシー。
◆
「うう……」
窓から差し込む朝日が眩しいし、二日酔いで頭が……。後でパピヨンさんに薬をもらいにいこう……。
もう、クリスマスプレゼントなんて期待してなかった。
だって俺が欲しかったものなんて、サンタさんへの手紙を書いても貰えなかった。子どもの俺にも、親の思想が滲み出たプレゼントっていうのが感じられた物。それならもうはなからいらないし、開けもせずに弟に押し付けてた。貯めたお小遣いでプレゼントを買う、虚しさばかりが積み重なっていった。
けど、けど!
この枕元にあるプレゼントは明らかに本!!!しかも大きい!!図鑑にしてはちょっと妙なサイズ感だけど……。
「こ、これって……!」
包みを丁寧に開ければ、見覚えのある本が現れる。
「この本、ずっと前に俺が発見して解読したけど、別の教授に功績ごとぶんどられたやつ……!」
同封されてた手紙に書いてあったけど、サンタさんが色々調べて取り返してくれたらしい!サンタさんすげぇ……!
後でいつもお世話になってた教授に連絡しないと!教授だって申し訳なさそうにしてたし、きっと喜んでくれるはず……!
やっぱり、サンタさんはいたんだ……!!
えへへ、大事にしなくちゃ……!
これからもきっと色々と思い出は積み重なるだろうけど、このクリスマスはきっと忘れられない日になりそうだ!
Q.お出かけ(デート)の話は?
A.今度書くと思います!
Q.教授って誰?
A.遺跡関連でアンシーを色々誘ってくれた人と、アンシーの功績や実力を妬んでる人がいます。
優しい教授の方は心底喜んでくれました!やったね!
悪い教授の方は悪事をバラされて、その後を知る人はあんまりいません。よかったね!
Q.なんの本?
A.特に決めてないです。ラッセルが権力をフル活用して取り返しました。今後はアンシー所有となります。
Q.ところでシェパード隊もう一組いません?
A.魔性のハロウィン読めばわかります!【https://poipiku.com/434424/10624231.html】
Q.あの店って……?
A.会員制の個室のレストランです。レストランとしてはマトモな方です。
Q.企みが上手くいってたらどうなったの?
A.びくびくしながら真っ当に食事をしたあと、酔いが回って寝てしまったアンシーの血が向こうの隊長に吸われます。『お楽しみ』しようとしますが、『手紙』の効果の時間切れで送還されます。
なお体液の効果はあるままなので、『エッチな夢』を見てるかもしれないです。