空を見なよ ここは氷の上ではないから、頬を撫でていく空気も冷たくはないのだった。ブレードがリンクの上を滑る。進む先を確かめる。膝を曲げて、踏み切る瞬間に備えた。タイミングを合わせて跳び上がる。息を吐いて体の中心に力を籠める。そうすれば跳べるはずだった。何度も何度も繰り返したのと同じように。そのはずなのに、まるで一度でもその感覚を手に入れたと思ったのが幻だったかのように、その感覚はボクの体を擦り抜けていく。ただ反転しただけの体がリンクに下りる。始めた頃はこの瞬間に何度も転んでいたけれど、さすがにもう転ばなくなった。滑りながら方向を変えるのも、止まりたい場所で止まるのも上手くなった。それは確かに成長だけれど、それを成長と呼ぶのはあまりにも空しい。掛けてあったタオルを手に取って顔を埋める。汗を拭いて、もう一度。だって、跳べなければ意味がない。
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