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    tg2025317

    @tg2025317

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    tg2025317

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    オベロン王子と男装リツカ王子(♀)のオベぐだ♀。二人が王子様としてもちゃもちゃする。捏造しかないので何でもよい人向けです。
    ・二人が王子様やってる
    ・ぐだちゃんが男装
    ・アルトリアもお姫様やってる
    ・設定が捏造かつ複雑

    #オベぐだ♀

    上 二国の王子

    ───……こうして、我々ご先祖さまは戦を終わらせ、互いに手を取り合い、平和な今に至るのです。

    パチパチ、とどこか気の抜ける、しかし一生懸命な拍手が部屋に響いた。
    「せんせぇ、じゃあ妖精さんってもういないの?」
    「…うーん、そうだねぇ。悲しいけれど、今はいなくなっちゃったっていわれているよ。みんなはどう思う?」
    「いる!」「いないよ!」「いるってば!お隣のお国の王子様が妖精さんみたいだもの!」
    にわかに騒ぎ出した子供らをはいはいと宥める。
    「みなさん、王子様といえば、明日はリツカ王子の御誕生日でお休みですね。みんなは御祝いに何か特別なことをするのかな?」
    と、別の話題を振ると子供たちは元気よく明日は家族とお祝いする、トクベツなんだってママが言ってた、楽しみだねとニコニコ笑った。単純なものである。


    上 二国の王子



    この大きな大陸は二つの国で構成されていた。東と西で分かれた背景に、過去には隣国同士での諍いが絶えなかった。それは遥か昔、時代はまだ妖精が存在していた古代まで遡る。西の妖精族と、東の人間族の戦いであった。血を血で洗う戦いが続き、この大陸は二つに分割した。

    数千年の時が流れ、現在。純粋な妖精は滅び、その血を継いでいるのは現西側王家と上流貴族の一部とされているが、その姿は人間となんら変わり無い。翅も無ければ魔法も使えなかった。
    一方東側の国ではこの数千年の時をたった一つの一族が王として国を治めている。

    二つの国で同年に生まれた二人の王子があった。
    西側、ヴォーティガーン家第一王子、オベロン。
    東側、フジマル家第一王子、リツカ。

    東側にとっては待望の男児であった。数千年を寿命の短い人間のたったの一族が権力を維持して広大な国を支配するのは容易でなく、過去にこの一族は近親婚で権力を維持した。その結果、一族には子が生まれにくく、乳幼児の死亡率も高かった。
    フジマル家では国王夫妻が十八歳にして結婚してから長く子を望まれていたが叶わず、ようやくして彼らが三十四の時分に生まれたのがリツカであった。母によく似た赤毛の髪と赤橙の瞳を持って生まれた。
    しかし生まれた子供は女児であった。
    それは生まれる前から判明していた事で、十六年もの間子を望まれ、応えられず、嫁いできた身の彼女は周囲から役立たずと罵られる事さえあった。であるから、妃は何度も医者に
    「自分の腹にいる我が子は果たして男児でしょうか?」と尋ねた。
    既に精神が不安定であった妃に余計な負荷をかけまいとした国王と医者は話し合い、「其方の腹にいる子は男児である」と嘘をつき続けたのである。
    そうして腹の中にいた頃から望まれて男児として生まれたのがリツカであった。
    国王は事前に、出産に立ち会う人間を医者とメイド長以外に作らず、後は執事長に口頭で女児である旨を伝えられたのみである。
    母となった妃がリツカを見、さてどうしたものかと固唾を飲んだが、彼女は満面の笑みで言った。
    「私の可愛い坊や、愛しているわ」と。

    その日、東の国では待望の王子御誕生と国中が湧き上がった。記念硬貨、切手などが造られるにまで至った。
    リツカは生まれた時、否、生まれる前から望まれて男児として生きてきた。リツカという男でも女でも理解を得られる名前であったことだけが情けのようだった。

    西の国に同年に生まれたオベロンは、国王夫妻が男女どちらでも良いと言って医者に性別を聞かなかったので、生まれるまでどちらかわからなかった。生まれた子は赤子にして既に目鼻立ちの整った美しい顔であって、空を写したような碧眼を待って生まれた。この日、西の国は国王夫妻の第一子の性別が男児であったことが国民にも知らされた。
    彼にはオベロンという名が与えられた。その名は遥か昔の偉大な妖精王の名前からきており、彼は成長するにつれて名に恥じぬ姿となっていくのである。



    「くれぐれもオベロン王子との御関係を崩す事にならぬよう、とのこと、国王陛下から賜っております。リツカ王子、宜しいですか」
    「宜しいです」
    リツカは迷惑そうに言ってさっさと足を動かして執事長の元から去っていくのを彼は深々と頭を下げ、いってらっしゃいませと見送った。
    言葉が理解できるようになる前から何度も何度も聞かされた言葉だ。両親からいってらっしゃい、おかえりなさいや、リツカを気遣う言葉などは無く、久しぶりに言葉を交わせば学校の生活よりもオベロン王子とはどうなんだと聞かれるばかり。

    それもその筈、同年に生まれた二人は数世代前まで諍いの絶えなかった二国間の橋渡の関係を望まれた。二人はお互いの母の腕に抱えられている時から隣にいた。第一王子が宮廷教育ではなく外の一般学校に通うことになった。王家の嫡子が一般人と生活を共にすることは初めてで、加えて二人の王子は幼き頃から親元を離れ、西の国にある同じ学校に通う事になったのである。
    七〜十二歳までの初等教育を上流階級の共学優秀校に通った二人は、学園の女子生徒の憧れの的であった。リツカは出身がどこであろうと分け隔て無く接したし、そこらの男の子より上背があったから大変人気であった。
    オベロンの容姿端麗さは歳を重ねるごとに磨きがかかり、王子様の名を与えられるべくして与えられた出立ちと遠目からでも目を引く立居振る舞いで大変人気であった。
    二人は第一王子であるだけで憧れの的であるのに、加えてそれぞれが優れていた彼らであったから、女子生徒が見過ごすわけもなく卒業が近い頃には私生活に支障が出る程だった。必然、中等、高等教育は男子学校に進む案が出、そしてそれに誰も待ったをかけぬまま話は進んでリツカとオベロンは長い学生生活を共に過ごす事になった。

    リツカだって何の文句もなかった。いずれは自分が王にならねばならぬ。国民を守らねばならぬ。この国の平和を維持しなければならぬ。自分しかいないのだ。自分しか。その為ならば、隣国の男子校に通うことはさしたる事ではなかった。
    そうして入学した男子学校中等の一年時、リツカが十三の時分に、執事長から彼女の運命を変えるある知らせを聞く事となる。



    毎日隣国まで通学するにも、毎朝実家の城から総出の出送りを受けて通学するにもいかないリツカとオベロンはもちろんの特別待遇で一人部屋に入寮していた。であるので着替えなどという点で困ったことはなかったし、執事長が常に控えていた為国からの報せは滞りなくリツカの耳に入って来た。学校のセキュリティ自体が強固であるのでボディーガードがどうとかということも無いのが助かる。そんなものがあったら堅苦しくて過ごせたものではないので。
    その日珍しく執事が夜半にリツカの部屋の扉を叩いたので、急用であることは察せられていたのに彼の口から出た言葉にリツカは驚かざるを得なかった。

    「お妃様がご懐妊なされました」
    「は?…いえ。失礼。誠ですか」
    「はい。ひと月後には性別がわかるとのことです」
    「左様ですか、それは、めでたい事です。お母様にお声をかけなければ…」
    「いえ、その必要はございません。リツカ様は普段通りの生活をするように、そしてこれ以降妃様への謁見は控える様にと国王様から仰せつかっております」
    「…………わかりました」

    リツカは立ち上がりかけていた腰を再び椅子に戻し、努めて動揺を出さないようにしながら机に向き直った。母に、子が。リツカが生まれるまでに十六、それから十三年。
    私に、兄弟が。
    「…………妹か……それとも弟か」
    姫か、王子か。もし男の子なら…。
    「考えるのはよそう。どちらでも好いじゃないですか、元気に生まれてきてくれる事だけ望みましょう」
    暫くは家に帰れない。今までだって殆ど家に戻らなかったというのに、更に来るなというのだ。齢十三の子供に。
    今リツカは勉強の途中であったのは明日には歴史の試験があるからだったが、以降は集中が全く続かなかった。



    問一、妖精族と人間族の大戦が如何にして始まったか簡潔に述べよ。

    人間族と妖精族は共存関係にあったが、しかし妖精眼と呼ばれる嘘を見通す目を持ち、生まれながらに魔法を扱える妖精となににもできない人間では差別と偏見にまみれ、人間は下等種扱いされており、遂に諍いが起こった。人間の反乱のような形であった。

    問二、大戦の経過、妖精族に起こった変化を具体的に説明しながら領土が現在の形になったのは如何してか?

    戦争は妖精の有利に進んだ。大陸を東西に分割し、妖精が西側から大陸の七割を、人間が東側の三割領土を持つようになった頃、状況が一転する。妖精の指揮が大幅に下がったのだ。理由は西側の国に人間が不足した事である。人間は妖精の栄養剤であり、妖精は人間無くして妖精たれなかった。
    国内で残った数少ない人間の取り合いに発展し、妖精たちは人間を引き裂いて(分け合って)殺したので、人間は更に減少した。
    そしてまた人間が必要になって奪い合い、妖精同士で殺し合って戦争と関係のないところで妖精は姿を消した。人間を独占する上位の妖精たちに、下位の妖精たちが反乱を起こし、内戦が各地で勃発、その隙をついて人間の治める東の国は領土を次々と奪取した。

    問───…………

    そして遂に、大戦は終結する。妖精国の女王と人間国の王が和解をしたのである。和解とはいうものの、人間側が勝利したと言い換えられる文献があるほど人間にとっては有利な条件で大戦は終わった。
    大陸の領土は折半となり、妖精国での人間の人権が保障され奴隷扱いは終わりを告げた。しかしその頃には力を持った妖精の殆どが土となり、戦争が終結後も人間から強く恨まれた彼らは鉄で串刺しにされ、実質の妖精国の崩壊及び、純妖精族の絶滅となった。逆に肥沃な土地を得て数を増やした人間は和平後、時間はかかったが徐々に西側の国にも進出を始め、今では東西は分かれるものの、大陸全体が人間の治める国となっている。

    リツカの頭ではペラ、ペラ、と本のページが捲られていた。そもそも彼女は試験勉強はする必要が無かった。国の歴史は王家の者、さらに時期王となるの者ならば先祖の名前より先に理解していないといけない必須事項である。

    クラスメイトより随分と早く試験を終え、回答のダブルチェックをする。他の生徒たちは内心で舌を打っているに違いない。なぜならこの教師は前のテストは全て選択問題であったのに、今回は全ての問題を記述式にしたのだ。
    見直しを終えてもまだ時間を余したのはリツカとオベロンだけだ。もしテストが終わって自由に帰って可いのであれば二人は肩を組んで教室を出て行ったに違いなかった。



    親に強いられていた関係ではあったが、二人の中は決して悪くなかった。
    本来の性別を秘匿とされ抑圧された環境下のリツカと、ニコニコと王子然としているがその実捻くれ者のオベロン。そんな二人の絵に描いたような良い"おともだち"の両国第一王子関係は上辺だけだったが、同時に二人は互いの実情を知っていた。口に出したわけでは無し、その話題は暗黙の了承として触れた事もなかったが、二人は何となくわかってしまう程には隣にいる時間が長すぎた。そして互いに自分の内面が筒抜けている事もそれとなくわかっていた。
    オベロンはふざけた役割を演じさせられているリツカのことを哀れに思ったし、リツカは捻くれたタチのオベロンがその方が物事が上手くいくという合理の結果ニコニコしている彼を気にかけていた。
    両親の望み通り、「第一王子同士、御学友であり、竹馬の友であり、親友である」との文と共に写真が両国の新聞に何度も掲載された。
    しかしその実、新聞の、その間に挟まるチラシの裏面で二人はやってらんねーな、と笑っていられたのである。

    リツカは自然とオベロンが心の拠り所だった。彼に対しては気が抜けた様に喋れる。実の親でさえリツカを少し遠巻きに見るが、オベロンだけは軽口くらいなら言い合える気の知れた、リツカが好きな男だった。

    難なく試験を終わらせた二人は教室を出、ちんたら歩いて校舎から離れた厩舎に向かった。二人は王子様よろしく馬術部なので誰もいない道を行きながら珍しく家のことをオベロンに話した。あまり話してよろしい事では無かったが、それを言ってしまうくらいにはリツカが珍しく参っている証左であった。
    「ヘェ、そんな事がね…」
    「お母様のこと、少し心配だよ」
    王妃はリツカを産んだ時に既に母体として若く無かった。今では更に十年以上の時の経過を得ている。出産に耐えられるか、母子共に大きな負担であることは間違いない。しかしオベロンはふうんといった感じで、別の問い掛けをした。
    「で?その子供が男だったらどうするんだい?」
    「なにそれ?どうもしないよ」
    「……そうか。てっきり姫にでもなりたいと言い出すと思ったよ」

    それは触れてはいけない話題だ。
    二人の間の、暗黙のルールだった筈だ。例え周りに人がいようがいなかろうが、それは決して言ってはいけない事ではなかったのだろうか?
    約束をした訳でもないが、リツカはオベロンに裏切られたような気持ちになった。

    「?何を言ってるんだか、私は男だよ。あ……そうそうアルトリアは元気?」
    リツカは無理矢理に話の方向を捻じ曲げた。アルトリアはオベロンの従兄弟であったが、両親が他界したのを機に現国王夫婦の養子になり、同時にオベロンの妹になった子だった。二人とは三歳差。
    「もちろん元気だとも。あの猪娘がお姫様って呼ばれるくらいだから、リツカでもなれると思うなぁ」
    オベロンはせっかくリツカが曲げた話をもう一度と折り返して来、そしてそれは彼(彼女)の琴線に触れた。
    「おい」
    リツカはらしからぬ低い声を出した。
    「いい加減黙れ」
    オベロンは背中がゾッと疼いたのを感じた。その声も、言葉も、冷たい目もほんの一瞬の事でつ、とリツカが眼を閉じて再び開けばいつもと変わらぬ彼(彼女)があった。
    「なんて、オベロン、身内だって女の子にそんなこと言ったら駄目でしょ。女の恨みは怖いんだから…」
    「やぁ、ごめんね」
    「……思って無いなら言わなくて宜しいよ」
    リツカだって慰めて欲しかったわけではない。気遣われなかったのは構わない。ただ、オベロンには私が今までやってきたことを馬鹿にはされたくなかった。これでも必死にやってきたのだ、女の身で男としての生き方しか知らぬ。それを「愚をかなり」と嘲笑されたような気がしたのだった。



    「医師の診断の結果、王妃様が身籠られた子は男児でした」
    執事長は淡々と事実を告げた。弟が生まれるのだ。この国の、第二王子、しかし事実は第一王子が。
    「国王様がリツカ様をお呼びです」
    「……はい」

    リツカは取り急ぎ国に戻る事になった。既に学校には話を通しているから準備をする様に言いつけられて、その日宮廷教育などの一環で習った剣術でデロデロになった体をシャワーで洗い流す事にした。(この執事長にボコボコにされた訳であるが、彼は汗ひとつかいてませんという出立だった)


    重い体を引きずってリツカは植木鉢の様に並んだ執事やメイドを横目に城の敷地を歩いた。
    落馬する直前の様な、どうしようも無くがんじがらめにされた体をどうにか動かして国王に謁見すれば、再び、母は王子を身籠ったことを伝えられた。
    「……この子が無事生まれ、順調に成長した暁には私の後継に据えようと思っている」
    まだ生まれてもおらず、母体も高齢であり、この一族の乳幼児死亡率の高さを理解している筈だが、既にそれを彼女に伝えるというのは、弟が無事に育てばリツカどれだけ喚いて泣き叫んだとて否が応でも弟を国王に据えると釘を刺しているのである。
    リツカは是と答えるしかなかった。国王はウンと頷いて、
    「お前ならわかってくれると思っていた。弟に何かあった時、お前は玉座に座らねばならない。お前は兄として、弟の右腕になるのだ、王妃もそれを望んでいる……この国を支えてくれ、賢いお前ならわかろう、二人で佳き国を造ってくれ。いいな?」
    リツカは続けて是と答えた。
    少しだって反抗の意思を見せたら、毒を飲まされるのはリツカだ。そして国王も王妃も弟が生まれたならリツカに期待などしない事、王の言葉が口だけの出まかせに近い事は理解っても尚、反乱なんて気はいっこも無いのだが。
    「お前の献身には報いよう。領土も、城も、金も与える。そうだ、お前は馬と剣が好きだと言っていたな。早馬と、隣国で一番の鍛冶屋に鎧とこの国の腕の良い刀鍛冶に一番の刀を頼もうか」
    「いいえ、そのような、恐れ多い」
    「リツカ、お前は無欲でならん。本当に欲しいものは冠、とは言わんな?」
    リツカは急いで否定した。
    「その様な事は。わたくしは、お母様とお父様の元に生まれてこれて大変光栄で御座います、仇で返すような事など致しません」
    反乱の意があるか無いかと、その様に見えるかどうかは別問題らしい。それは、そうか。
    「まぁ、時期に決めておけ」
    では望んだら女として生きて可いと言ってくれるのだろうか?この国の姫君として、父と母の娘として在って可いと言ってくれるのだろうか?リツカは思って、馬鹿げていると心内で笑うしかなかった。



    「今日の朝食はオートミールだったのかい」
    「なんでわかるの」
    「顔色が悪い」
    リツカは確かにオートミールが嫌いだったが、顔色が悪くなる程嫌いではない。好んで食べないというだけだ。暗に彼はリツカが国に呼び戻された事について、それがどうであったかをわかって心配しているのである。
    「大丈夫、オベロンって意外に優しいよね」
    「意外は余計だろ…」

    オベロンとは相変わらずであった。彼はグンと背を伸ばし、反対にリツカはそれまで背の高い男から普通より少し低い男となった。加えて、オベロンは声変わりをしたがリツカは殆ど変わらなかった。
    この頃からリツカの胸が発育を始め、その成長段階で痛みを伴うのにさらしで胸を潰さなければならなかった。声変わりをしていないのが不審に思われぬよう、努めて黙った。身長はかろうじて、165㎝まで伸びたので、いつも底の厚い靴を履いて誤魔化していた。

    これを後五年やらなければならない。入学の時はどうということは無いと思っていたが、私は王位につく見込みがないと理解った途端に、どうしてこんなことを私がしなければならないのかと思う事が増えてきた。
    年頃の乙女だ、当たり前である。質の良いドレスを着て、目一杯背伸びして街を歩きたい、爪や唇に色を乗せて、友人とお紅茶を飲んでどこの殿方が、と話に華を咲かせてみたいと何度も思うた。
    けれど反抗ということでは無い。ただ、ただ、どうしてと、今までは何だったのという虚無だけがあった。そしてそれはこれからも続いていく。


    弟が生まれた。
    父によく似た黒髪と青空の瞳を持って生まれた。母と父に望まれて生まれてきた愛おしい男の子であった。
    王妃はリツカが弟に触れるのを嫌がった。とはいえ、彼女は方時も坊やを離さなかったので、指一本触れる事も叶わなかったが。それを見、リツカが肩書だけでも王子である以上母と父に愛されぬ事を知った。
    リツカは弟が生まれても殆ど城に帰る事が無かった。

    リツカはその頃になると初潮が来た。どんどん女の体に近づいていくのが目に見えた。胸も大きく膨らんで、それを隠すのに呼吸が苦しくない日など一日も無かった。
    そんな生活でも、皮肉な事に国に帰るよりはずっと隣国の男子校の方が居心地が良い、両親の傍に居るよりオベロンの横の方がずっと自然体でいられる。

    あぁ、生まれる順番が、性別が、逆であったなら。どうにもなりをしないことを考えたって仕方が無いのに人間はいつだってそのもしもを考え、勝手に現実と比較して絶望するのである。



    弟はスクスクと育った。懸念されていた死産や乳幼児時期の病気にも特に罹らず、(多少の風邪などはあったが大病は無かった)リツカがその姿を目にする度に彼は寝返りをうったと思ったら四つん這いで動き、摑まり立ちをしては遂に歩き出し、うだうだと喋っていた言葉がいつの間にか明瞭な単語や文を言う様になっていた。

    「子の成長というのはこのように早いものですか」
    「リツカ様の時だって同じでしたよ」
    「そうですか」
    「今だって早いものです。もう時期に十六になるではありませんか。ついこの間まで私のおっぱいを飲んでいましたのに」
    それは言わないでください、とリツカは恥ずかしくなって制した。リツカの乳母はホホと笑った。実の母親より余程、彼女の方が母親らしいかった。だからこうして偶にリツカは彼女を呼び寄せて学校がとか、オベロン王子がとかそういうくだらない話をする。
    それでも彼女も、おっぱいはやっていたがリツカが女であることは知らなかった。だからやっぱり少し違った。

    「ンン"、ところで、女の子はやはり贈り物ならば装飾品が良いですかね。少し重たいですか?」
    「あらっ?どなたかにお渡しになられるので?」
    「え。アルトリア姫が誕生日を迎えるので」
    「あらあら、良いじゃありませんか」
    結局このような相談も彼女にしかできないのである。初等教育の後、女性と関わる機会がメッキリ無くなってしまった。本来なら同性の友達と相談でも買い物でも行けたろうに。

    トニカク、リツカは彼女の意見を得、メイド長や執事長にもこれで良いかと確認した後、念を押してオベロンにも尋ねた。向こうの国では無礼であるなどということがないように。
    「やぁ、随分と早い根回しだね」
    「そういう言い方はよしてくれないか」
    「これは失敬。君、次の誕生日で十六だろう?主役のお相手がいないんじゃあ示しがつかないし当然の事さ」
    「オベロンも同じ年だろ、君こそ相手なんているのか?」
    「あはは〜、君と一緒にしないでおくれよ」
    「ふ、これは失敬」

    この頃になるとリツカは男っぽい口調で喋るようになった。声は高く背は低い分、ご丁寧な貴族口調ではどうしても王子の雰囲気にならなかったからだ。
    「私の誕生日には来賓で来るんだろ、誰か連れ合いはいるのか?」
    「や、無闇に女の子を連れていると色々都合が悪いから僕はフリーで行くよ」
    「一国の王子がそれでいいのか?」
    「いいとも。僕は今回主役じゃないしね」
    パチン、と彼はウインクをした。とはいえ、実際両国は十六からを成人としているので、それ以下の年齢なら相手を連れていなくても特に問題は無い。リツカはどこかホッとして、そうれもそうだねと返した。



    少し長めの赤毛の襟足を結んで、上質な紺の生地に豪華な装飾が施された正装で笑みを絶やさずにこやかに笑い、手を振る彼の下では民衆が絶えず歓声を上げ、第一王子がこの世に生まれ、過ごした十六年の歳月を盛大に祝っていた。
    この国では十六歳で成人と見做される、それが国の第一王子ともなれば、未来の王への賛辞は鳴り止まない。
    微笑む国王夫婦の間に立ち、リツカ王子は輝く太陽の元この国の未来の期待を一身に背負っていた。実際はなにの意味も持たないものになってしまった第一王子の肩書。

    リツカ王子万歳!我が国に栄光あれ!!

    「私はこの国の誰もが愛に満ち溢れ、虐げられることなく生きることの出来る美しい国に、佳き国にしていきたいのです」

    リツカ王子のその言葉は来賓として来ていたオベロンにも届いていた。彼はあくびを噛み殺しているのをおくびにも出さず笑顔を貼り付けて賛辞の拍手を送った。
    性差などで虐げられ、玉座から引き摺り下ろされた王子(姫)が言うにはあまりに滑稽な御言葉だった。

    パレードやらの後はリツカは隣国のみならず海を越えた国々の王族貴族、要人やらに次々に挨拶をし、彼は終始人の良い笑顔を向けて受け応えた。宵がくればボールルームで舞踏晩餐会に参加しなければならず、主役であるリツカは一番最初、人前で娘の手を取り踊らなければならないのだ。
    オベロンの言う根回しとはこの事で、リツカはアルトリアと踊ることを前提に彼女に豪華な(正装用の)ネックレスをプレゼントで渡していた。それがあっても無くっても彼女はリツカの誘いに是と答えたろうが。
    一国の王子が成人の誕生舞踏会で誰と踊るか…誰も尋ねて来ねども誰もが気にしていたことだった。リツカの元にはかわゆい少女たちから遠回しに誘いをねだるメッセージカードなどが届いていた程だ。オベロンの時になればもっと凄いだろう。

    「アルトリア、大丈夫?」
    「だ、だい、はい!大丈夫です!」
    「…無理にごめんね」
    「そんな!無理なんてしてないです!」
    アルトリアはリツカの横でガチガチだった。オベロンが猪娘というのは比喩のようで比喩でない。王家ではあったが本家では無い彼女は、昔は田舎でのびのびと暮らしていたというので、この様な場所で一番に、国の王子と踊るなんてことは初めてなのだ。オベロンを相手に何度も練習したのだそうだが、リツカは当日になって彼から「めいっぱいリードしてやらないと無理かも。うまくやってね」と耳打ちされた程だった。
    またそんな事言って、と半目になって彼を見たが、どうやら本気の顔だったのでリツカは急いでオベロンにアルトリアをリードするコツを聞いた。

    二人並んでボールルームに向かいながらリツカは彼女をエスコートしながら語りかけた。
    「アルトリア、そのネックレス付けてくれたんだね」
    「あ、これ…はい!これに合わせてドレスも新調したんです!オベロンがうるさくって布を何度も当てられて数時間…大変でした…」
    「…どちらもよく似合っているよ。最初に見た時からアルトリアに似合うと思ってたんだ」
    そうか、服の新調って何時間もかかるのが普通だと思っていたけれど違うのか。リツカはアルトリアのそういう普通の感性が好きだった。
    「あはは、あ、ありがとうございます。……慣れてるなぁ…私なんかをどうして選んでくれたんだろ…」
    「?」
    微笑んだリツカに、眩しぃ!とアルトリアは目を覆いたくなった。王子様って感じだ。オベロンだってそうだけれど、リツカは真っ直ぐで眩しい。偉ぶらないし、いつだって優しい。だからきっとちょっとくらい上手く踊らなくたって彼なら笑って許してくれる。
    リツカとの会話で緊張が和らいでいたけれど、大の男が五人くらい横に並んでも余裕で入れそうな扉が迫っているのを見て、アルトリアはあうあうなった。やっぱり失敗したら許してくれどもリツカの恥にはなり得よう。
    「アルトリア、そこは、あっ!」
    「わ、わわ!いでっ!」
    ヒールが小さな段差に引っかかってたたらを踏む。即座に受け止めたのでドレスで転ぶ事にはならなかったが呻き声が無かった事にはならない。
    「怪我した?」
    「だ大丈夫!大丈夫ですこれくらい!」
    嘘である。めちゃくちゃに捻った。足首が熱を持ちはじめている。
    アルトリアは自分がズッコケた恥とこれからのダンスを欠席するわけにはいかない、私は良くってもリツカが恥をかくことになる。と思って必死に取り繕ったが、リツカは眉をハの字にして困った顔をし、嘘をつかないでと言われてしまったらどうしようもなかった。

    「足、見てもいい?右足?」
    「……は、はい」
    リツカは跪いて一言失礼と添えてから捲るというよりはすくうようにドレスから右足を拾った。彼女の足は絆創膏だらけだった。オベロンと必死に練習したのだろう、慣れないヒールでもって慣れないステップを沢山踏んだのだろう。そして今日、新しいヒールを卸して来たのだ、全部リツカがアルトリアを相手に選んだから。

    「アルトリア」
    「う、はい」
    「ごめんね」
    「えッ?」
    まさか謝られるなんて思っても見なくて、アルトリアは目をパチクリさせていたら、地面から足が浮いてもっと訳がわからなくなった。
    「わ、え、り、リツカ!」
    「もう歩かせられないよ。こんな体勢で嫌だろうけど我慢しておくれ」
    うきゃーー!!とアルトリアの中の猿が叫び散らかした。アルトリアはリツカの腕の中、まるでウエディングの花嫁みたいに横抱きにされ、そのまま歩き出した。
    主役はとっくに会場入りしたのだと思っていた来賓たちがその姿を見てギョッとする。リツカは構わず進みながら、私がいませんが先に始めていてくださいと言った。



    リツカがアルトリアを医者のところに連れ行き、それから遅れて到着した頃にはキチンと舞踏会は始まっていた。
    主役がいない若干のぎこちなさがあったようだが、リツカが到着した事でそれも和らいだのも束の間、主役の連れ合いがいないことにどうしたものかとまた微妙な雰囲気が流れる。相手のいない女性など殆ど無くて、あってもじゃあヨロシク、と組めもしない。なぜならリツカは本日の主役、この国の第一王子なのでそのお相手を勤められる女はどれ程の度胸が必要か。

    まごついた空気のその時、ひらりと美しい衣装を翻してリツカの前に立ち、胸に手を添えて美しくお辞儀をしたのはオベロンだった。
    「リツカ王子、わたくしと一曲、いや四曲踊っていただけませんか?」
    「……や、なんで四曲も踊らなきゃならないんですか、」
    リツカは笑いを必死に堪えて言ったけれど、全然堪えられなかった。誘ったオベロンも頭が下がっていて顔が伺えないが、体が震えているところを見ると笑っているのだろう。
    四曲以上を同じ相手と踊るのはマナー違反であるので、言い換えれば四曲が限界なのだが、どうして限界まで男同士で踊らにゃいかんのかしら。しかも主役が…と、腹が引き攣りそうだった。何かの罰ゲームでもここまででは無いだろうに。ここがボールルームでなく学校だったら二人は机をや床を叩いて転げ回って笑っていただろう。
    周囲も二人が笑っているので釣られて笑いそうになり、女たちは扇子や手で口元を隠し、男たちは奥歯で内頬を噛んで耐え忍んだ。
    十六歳男子校生なんて実際こんなものであるよなと笑いを堪えられないのだ。

    結局二人は踊った。四曲限界まで踊った。どっちが女役をやるかで揉めに揉め、一曲目はリツカが主役なので男役を、二曲目はオベロンが男役をやった。女役なんてやった事のないリツカは何度も彼の足を踏んで、ヘタクソ!と揶揄われた。オベロンだって私の足を踏んだわ!とリツカは抗議し、ムキになったオベロンが三曲目を女役で完璧に踊りきった。どややという顔をしたオベロンにム、としたリツカが四曲目を女役で踊って、今度は足こそ踏まなかったけれど、まぁヘタクソはやっぱりヘタクソだった。足を踏まなかったのもきっと、オベロンの鍛え上げられたリードのお陰だろう。
    「はぁ、はぁ、あははは!」
    「なんだって君と四曲も!あははは!」
    「オベロンが誘って来たんだ!」
    「本当にやるなんて思わなかったんだよ!」
    二人はじんわりと汗までかいて、あはあは笑った。周囲もそれを笑って見ていて、なんなら何組かは男同士、女同士で踊っている組さえあった。
    こんなこと、後で国王から叱られるかもと思ったが今だけはそんな事どうだってよかった。

    「リツカ、ご覧よ。アンナとチェルシーだ。あの二人、本当は好い仲なんだよ。けれど親が許してくれないだろう。だから今だけはきっと夢のような時間さ」
    オベロンは他の誰にも聞こえぬ様にリツカに囁く様に言った。ゆらり、ひらり、と二人の少女が手を取り合って踊っている。男役なんていない、蝶が羽ばたくようなダンスだった。それを見てリツカはきゅうと心が締め付けられた。
    私も、起きれば覚めてしまう儚い夢のような時間だった。アルトリアには悪いけれど、こんな形でだってオベロンと踊れたことを私は死ぬまで忘れられないのだろう。
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    tg2025317

    DONEオベロン王子と男装リツカ王子(♀)のオベぐだ♀。上の続きです。二人が王子様としてもちゃもちゃする。捏造しかないので何でもよい人向けです。
    ・二人が王子様やってる
    ・ぐだちゃんが男装
    ・アルトリアもお姫様やってる
    ・設定が捏造かつ複雑
    中 二国の決裂

    多少のイレギュラーはあったものの、東国のリツカ王子の成人と誕生を祝うガラは恙無く終わった。
    学友同士募る話があると言い訳を並べて、お開きになった後に二人はバルコニーで夜風に当たっていた。
    「助かったよ。ありがとうオベロン」
    「やぁ、なに。大したことではないさ。僕も相手はいなかったからね」
    役得だったさ、とウインクをするオベロンにいつもならそういうのは冗談でも言うなと睨んだリツカだったが、今日は笑って「私も可愛い子の手を最初に取れて良かったよ」と笑った。口調もどことなくいつもより柔らかだ。
    「お酒を飲んでいたけど、大丈夫かい?」
    「大丈夫、少しだけだし…しかし夜風が気持ちいね…」
    「本当に大丈夫だろうね?」
    風が吹ゆいて二人の髪を揺らした時、ゴゥン…と鈍い音が響き始めた。城のカンパニーレから響く鐘の音である。リツカはそれまで目を垂れさせていたが、その音が耳に入ると、たちまち眉根を寄せた。
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